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【教えてパーセフォニ】企業財務担当者がESG時代に果たすべき役割とは? by パーセフォニCFO マーク・ゼナー

今回は、企業の気候リスク対策に関連した最高財務責任者(CFO)の役割を取り上げます。1. "気候関連情報開示のサポート役"というCFOの新たな立場、2. 気候関連情報の重要性の高まりや、新たな規制、基準、リスク・機会についての考察、3. 効果的な情報開示の仕組みを確立するためのヒントの提供、が主なトピックとなります。パーセフォニのCFO、マーク・ゼナーに聞いてみましょう。

"気候情報開示の推進者"としてのCFO

最高財務責任者(CFO)の役割が根本的に変わろうとしています。資本配分、投資家とのコミュニケーション、財務情報開示といった、これまでCFOが担っていた中核的責務が大きく変化しようとしています。気候情報関連の規制や、ステークホルダーからの圧力が原因です。気候関連開示を取り巻く環境の変化により、企業経営は不確実性への対応を迫られています。まず、不確実性を十分に考慮した資本配分が求められています。そして、国際標準の開示フレームワークを通じて、そのような経営判断についてステークホルダーに報告する必要があります。企業が、新たな気候変動リスクや機会を意思決定や情報開示プロセスに効果的に組み込むため、CFOは、財務情報と同レベルの厳密さと真剣さをもって、気候関連情報の管理に取り組まなければなりません。本記事では、CFOの方々が、より効果的に企業の気候情報開示を進められるようなヒントを共有するつもりです。

「気候関連情報を開示すべき」という考え方は多くの大企業に定着していますが、これまではサステナビリティ担当チームが開示業務を担ってきました。しかし、気候変動リスクを軽減するための国際的な規制の動きや、その他の協調的な取り組みへの対応は、今や、CFOの責任になりつつあります。実際、各国・地域の規制機関は気候リスクへの対策を積極的に支持し、新たな情報開示基準の遵守を企業に求めることを提案しています。たとえば、米証券取引委員会(SEC)は投資家への気候関連情報の開示を強化・標準化する規則案を提示していますし、欧州連合(EU)は「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」の適用を始めています。また、米カリフォルニア州でも「企業気候データ説明責任法」案(SB253)の審議が進んでいます。こうした新しい規制の下、CFOの仕事は、年次報告書で開示する気候関連情報に過失責任を負い、正確性を担保することとなります。これは、CFOが気候情報開示の推進において、大きな役割を担うことを意味しています。

情報開示のレベルアップ

これまで気候関連情報の開示は任意の取り組みとされてきたため、算定方式や報告様式について、標準的な方法論や指標が国際的に定められていませんでした。そのため、近年新たに提案された(またはされる)基準が求めるような厳密さや一貫性を担保しながら気候関連情報を扱うことに、多くの企業が慣れていません。そんな中、CFOは財務情報開示の専門家として、企業がより高いレベルで気候関連情報を開示できるよう支える立場にあります。
気候関連情報の開示における最重要原則は、「正確性」「透明性」「一貫性」です。つまり、財務情報を適切に開示し、リスク管理に役立てる場合と、同じなのです。そのためCFOには、財務報告における慣習や標準を、気候関連報告で再現することが求められます。また、データ収集の段階でもCFOの力は必要になります。GHG排出量を高い精度で算定し、気候リスクを分析するためには組織全体からデータを集める必要があります。すべての部署とつながりのあるCFOはデータ収集サポート役として適切だといえるでしょう。

リスクの軽減

気候変動がかつてないほど顕在化している現在、CFOは予測の難しい新たなリスクに直面しています。たとえば、規制に従って提出する報告に不正確な気候関連データが見つかった場合、罰金を科されるかもしれません。不適切な企業開示データは、投資家に誤った情報を伝え、株価に影響を与える可能性もあるからです。また、不適切な情報開示が原因で、顧客やメディアから「グリーンウォッシング(偽りの環境配慮)」と批判され、会社の評判が下がることさえ考えられます。このようなリスクをできるだけ軽減することもCFOの役割だと言えます。社内において、厳格な開示業務工程を構築するため、適切な投資を行い、関係者を導いていくことが求められています。

価値の創造

気候関連情報の開示は、CFOに潜在的なリスクをもたらす一方で、機会も提供します。GHG排出量の算定・報告や気候関連リスクの管理を適切に実施しようとする場合、社内全体のステークホルダーが必然的に関与することになります。そして、社内各部署を開示業務に巻き込むことは、スムースな開示業務を実現するだけでなく、社内データの活用の可能性を広げることにもつながるのです。また、隠れたリスクを浮き彫りにできるかもしれません。社内各部署を巻き込むことは、業務効率の改善点や、収益拡大の機会が見つかりやすくなることも意味します。パーセフォニは多くのお客様と日々接する中で、開示業務がもたらす業務的メリットを日々目の当たりにしています。
結論として、現代のCFOの役割は、気候変動が企業活動もたらす変化と共に進化しています。現在、顧客や従業員、投資家、規制当局など、あらゆるステークホルダーが、企業に対して気候関連情報の開示を強化するよう求めています。こういった状況は、CFOにとって新たなリスクだと言えます。CFOと関連部署は、財務情報開示で培った知見を活かしながら、複雑化する気候変動情報開示に対応していくことで、これらのリスクを慎重に管理するべきです。そういったリスク管理に取り組むことは、長い目で見て企業内のリスクを減らすだけでなく、価値創造の新たな道を開き、よりサステナブルな企業未来の構築に貢献することでしょう。

気候&ESG関連の最新ニュース

国際監査・保証基準審議会(IAASB) サステナビリティ情報開示の保証基準案を公開

2023年8月2日、国際監査・保証基準審議会(IAASB)がサステナビリティ情報開示への保証業務に関する基準案を公開しました。基準案の名称は「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000:サステナビリティ保証業務に関する一般的要求事項」です。ISSA5000では、幅広いサステナビリティ項目の保証に対し、一定の原則に基づく基準が示されています。欧州連合(EU)や国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)などが発行する「適切な報告枠組み」に沿った情報開示への保証についても、基準が盛り込まれています。ほかにも、ISSA5000では、サステナビリティ情報に対する「限定的保証」(最小限の監査による保証)と「合理的保証」(より厳しい監査による保証)の基準が示されています。さらに、「シングルマテリアリティ」(環境・社会的要因が企業の財務に及ぼす影響)と「ダブルマテリアリティ」("環境・社会から企業"と"企業から環境・社会"、両方の影響)による報告内容にも対応しています。IAASBは12月1日までコンサルテーションを実施しており、公式ウェブサイトを通じてパブリックコメントを受け付けています。
現行案によると、ISSA5000はサステナビリティ情報に関するすべての保証業務に適用されますが、例外もあります。それは、開示者がGHG排出量について個別の報告を提供する場合です。その場合、より詳細な要件を定めた「国際保証業務基準(ISAE)3410:温室効果ガス報告に対する保証業務」が適用されます。「国際保証業務基準(ISAE)3410:温室効果ガス報告に対する保証業務」はGHG排出量の報告について、限定的保証と合理的保証に関するガイダンスを示しています。また、保証業務を行う監査(法)人に対し、自らの専門的判断に基づいて監査、観察、確認、再算定、分析、照会など様々な手続きを用いることを認めています。このほか、GHG排出量の保証提供に必要な技能、知識、経験や、保証業務の条件、プランニング、対象組織、その内部統制に対する理解など、保証手続きに関連する考慮事項も示しています。
ちなみに、ISSA5000の基準案で示された手続きと、ISAE3410によるGHG保証(すでに確立され利用されている)による手続きとは類似しています。国際監査・保証基準審議会は12月1日までパブリックコメントを実施し、そこで寄せられた意見を考慮して基準を確定させる方針です。今後、ISSA5000はサステナビリティ保証の国際標準となり、世界の多くの場所で用いられるでしょう。パーセフォニは今後も保証基準の動向に注目していきます。

英政府のサステナビリティ情報開示基準がISSB準拠に——2024年完成へ

2023年8月2日、英国政府が英国版サステナビリティ情報開示基準(UK-SDS)の作成計画を発表し、新たな基準を国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の「IFRSサステナビリティ情報開示基準」に準拠させる方針を示しました。証券監督者国際機構(IOSCO)がISSB基準を推奨したことを受け、同基準を英国の規制枠組みに取り込むまでのスケジュールを正式に示した格好です。これに先立つ7月には、英国財務報告評議会(FRC)が「根拠に基づく情報提供の照会(call for evidence)」を開始しました。国内でISSB基準を採用する利点や実現性について、10月まで意見・情報を受け付けています。英国の規制当局は以前からISSB基準を支持する姿勢を示していましたが、今回の発表によって採用が正式な方針となりました。今後、サステナビリティ・気候関連のリスク・機会の報告に法的要件が定められるときは、新しい基準である英国版サステナビリティ情報開示基準(UK-SDS)がすべての土台になります。政府は「英国特有の事情で絶対的に必要な場合」を除き、英国版サステナビリティ情報開示基準(UK-SDS)はISSBの国際基準に沿った内容になる、と明言しました。この政府のメッセージは、大きな意味を持ちます。なぜなら、投資家が世界中の企業のサステナビリティ項目を評価する際に、ISSB基準が、グローバルで利用できる比較可能で堅実なツールであることを示唆しているからです。
英国政府は今回の発表で、2024年7月までにISSB基準承認の決定を公表すると公約しました。その後、ISSB基準を英国基準に組み込む作業の完了を待ち、英国金融行為規制機構(FCA)が上場基準を更新します。政府は今後、英国内で登記した企業や有限責任事業組合(LLP)の情報開示にもUK-SDSを適用する方針です。
現在英国が進めている基準策定の手続きを複雑と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは通常の手続きです。この手続き工程は、各国がこれまで20年以上にわたって、国際会計基準(IFRS)が示す基準を国内ルールに組み込む際に採用してきたやり方を踏襲したものだからです。日本、カナダ、オーストラリアでも、同様の手続きで進むことが考えられます。今後も多くの国・地域で、ISSB基準にのっとった情報開示規則が作成されるでしょう。ISSB基準が新たな世界的枠組みになるにつれ、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の推奨開示事項に沿った報告からISSB基準に沿った報告へと、企業は自主的に移行していく見通しです。

欧州委員会 欧州サステナビリティ報告基準の最終版を採択

欧州委員会は7月31日、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を採択しました。これは企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の適用開始に向け、重要な一歩です。サステナビリティを推進する投資家グループは、この発表を歓迎する一方で、気候変動に関する基準(ESRS E1)のような、義務的なサステナビリティ開示要項が最終版の欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)から削除されたことに懸念を表明しています。欧州委員会は、こうした懸念に対して、”マテリアリティ(重要性)評価で「重要」と判断した情報は、開示が義務付けられる”という点を強調しています。企業が注意すべきなのは、マテリアリティ評価プロセスそれ自体が、外部保証の対象となることです。欧州委員会は、「企業が、自社にとって気候変動が重要項目ではないため、当該基準に従った報告を行わないという結論に至った場合、気候変動項目に関するマテリアリティ評価の結論を詳細に説明しなければならない」と述べています。
開示規制の最初の対象となるのは、もともと非財務報告指令(NFRD)の対象となっている企業や、従業員500人以上のEU域外の大規模上場企業となります。これらの対象企業は、2024年の会計年度から欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づく報告を開始することが義務付けられます。最初の報告書は2025年に発行されます。上場中小企業には2027年から規制の適用が始まりますが、希望すれば2年間の猶予が認められます。EU域内での売上高が多い域外企業にも、2029年からCSRD報告が義務付けられる予定です。


いかがでしたでしょうか?
これからのCFOは気候情報関連の管理にも、財務情報と同じように厳密に取り組むという責任を負う必要があるようです。
変化する規制に準拠しながら、正確性、透明性、一貫性を担保し、情報収集から行う仕事を担うCFOの責任は大きそうですね。
デジタルを上手に活用することもお勧めです。(お勧め記事:排出量管理ソフトウェア:2023年に検討すべき9つのツール

それではまた次回!

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