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「面白い」本棚の本であるために「面白い」を「面白い」で語らない何者かになりたい

▼「美しい」は美しいのか。

形容詞【けいよう−し】

物事の状態や性質が「どのようであるか」を表現する言葉。
あくまで、名前を持つものを着飾る「アクセサリー」の一種のような言葉。(あごたふ辞典)

「赤い」林檎。「美味しい」料理。「尊い」行動。「優しい」世界。

形容詞は便利ですが勘違いしてはいけないと思っています。それは形容する対象の本質そのものではないはずです。

美しい」という言葉そのものに美しさはありません。正確には「美しい」という言葉そのものに美しさを感じる人はいないですよね。

もちろん「美」と言う文字に罪はありません。

「美」という文字の語源は「羊+大きい」という形の良いヒツジを表していて、古代中国の人々がヒツジを最も大切な家畜としていたことからきています。羊は神事の際の献物であり、大きいものほど価値の高い善い物と考えられていました。(「善」にも羊がいますね。)

羊が大きいから」美しいと感じる心。羊が大きいと「なぜ」美しく善いものなのか。

誰かに僕の心や対象物の本質を伝える時、僕が言語化するためにまず最初に掴まなければならないものは、コレです。

「美味しい」料理を作ってくれたのは「誰なのか」だったり、「美しい」景色だと感じたのは山頂までに「どんな苦難を乗り越えてきたからなのか」だったり。「やさしい」言葉は「どんな理由があって発したのか」を考えてみたり。

そして、「面白い、素晴らしい」マンガ(や誰かが創ったもの)は「    」。

僕はこの空白を埋めるために何ができるのかを楽しく、時に必死で目と手と頭と心を動かしまくっている人たちの中で一緒に活動をさせていただいています。

そこがアルです。

▼配架と書架

そのアルで3ヶ月に1度発表されるライター賞。本当に本当にありがたくもその新人賞に選んでいただきました。

少し、僕の仕事について話します。

配架」という言葉をご存知でしょうか。

実は僕の本業は図書館員です。配架とは図書館の業務の一つで返却された図書をある規則で決められている請求記号というラベルの番号順に書架(図書館の本棚です)に戻しに行く作業の(または新しく受け入れた図書を書架に収める)ことを指します。

そして、僕はこの配架という作業が好きなのです。

請求記号とは図書館の本の住所です。数万から数十万という資料を収める図書館という箱の中で、二つと無い本をもとの位置に戻すことを可能にしている記号なのです。本棚の中で、その本だけがすっぽりとハマる位置というものがあって、そこに自分が手にした本を戻す瞬間、それがたまらなく気持ちいいのです。それが、僕の配架が好きな理由です。

▼本棚とチーム

図書館の本棚は分類法によりある規則でまとめられているため、ある程度同じテーマの本が固まりますが、個人の本棚をイメージしてみてください。本の並べ方も収める本も十人十色になるはずです。

僕は他人について深く知りたいならば、その人が話すことよりもその人の本棚を見せてもらう方が、より踏み込んでその人を理解できると思っています。(もちろん対話は重要です。)

そして、この「本棚」をまた別の視点で考えたときに「組織(チーム)」の考え方に行き着きました。本棚(という箱)が一つの組織であり、収められている1冊1冊の本が所属する人々です

この本棚が誰かにとって胸高鳴る宝箱になるのか、知的好奇心を掻き立てる知の泉となるのか、はたまた本棚を目の前にし未来の仲間となるきっかけの扉となるのか。それは、ひとえに本棚そのものの持つ魅力にかかっているわけです。

アルというチームの中で、未だ見ぬ誰かが手に取ってくれるような魅力的な1冊の本のような存在に、果たして自分はなることができるのだろうか。(できているのだろうか)

その本はどんな言葉で語られているのか。読者に何を与えられるのか

アルには魅力的な書き手である先輩方がたくさんいらっしゃいます。(僕が語るよりも、ぜひ覗いてみていただけたら嬉しいです。)斬新な着眼点でマンガを語る方、愛するマンガをとことん掘り下げる方、誰よりも早くマンガのニュースをお届けしてくれる方。とにかくアルはマンガ愛で溢れるライターさんたちが多くいらっしゃり、もはや本棚からこぼれてしまっているくらいのでっかいチームなんです

そんな中にありがたくも飛び込ませてもらえた僕に、一体どんな言葉が紡ぎ出せるんだろう。自分にしか書けないことってなんだろう

飛び込んでみたものの、その難しさに挫けそうでした。(ちょっと挫けました。)

そんな中で生まれた、

こういった記事が、将来僕の原点と言えるものになったのではないかと思っています。

僕は、もともとマンガは大好きでしたが「文章を書くこと」においてはどちらかというと苦手な人間です。しかし、少しずつ文章を書くことが楽しいと思えるようになってきています。

このマンガが「面白い!」それだけで終わらせられない、終わらせたくないと思える貴重な経験をしている「今」が、僕の人生という1冊の本に彩りを与えてくれている、そう感じることができた幸せなできごとでした。

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