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格闘技の脳震盪について考察する

MMAの脳震盪を理解する

完全に指導者向けの内容になってますが、興味ある方は読んでくださいね。

MMAはボクシングやキックボクシングと比べて脳の揺れは少ないものの外傷は起こりやすいグローブでおこないます。

日本時間12/4のBellator MMAタイトルショットで、堀口選手はたった1発貰っただけでKO負けと大変ショックな出来事がありました。その後のダメージや後遺症は本人の自覚症状だけでは判断が出来ません。本人は大丈夫だというに決まってますし。

僕も10数年MMAやボクシングに携わってきて、数多くのKOを目の当たりにしてます。その後の後遺症やパフォーマンス低下を疑い、選手と一緒に脳神経外科へ出向きドクターと話したり、リハビリメニューを教えていただいたこともあります。

数年前に読んだ英語のブログが為になったので皆さんにシェアいたします。

脳震盪とは

脳震盪は、脳にせん断力(挟み込む様なのズレ)を発生させる頭部の加速に起因する軽度の外傷性脳損傷です。脳震盪が起こるにはKOされたり頭を殴られたりする必要はありません。体の他の領域への間接的な打撃は、脳に影響を与える可能性のある衝動を引き起こす可能性があります。要はタックルでも起こりうるってことです。

脳震盪の兆候と症状には次のものがあります(Neidecker 2018):
1.身体的:
•頭痛、嘔吐、吐き気、光/騒音感受性および視力の問題
2.認知:
•モヤモヤする、集中力の低下、記憶の問題、反応/反応の遅さ
3.行動:
•不安定な気分、何事にも過敏になる
4.身体的兆候:
•意識の喪失、混乱、不明瞭や遅い話し方、鈍い動きの変化
5.バランス:
•めまい、歩行困難、つまずきがある

脳震盪の生理学

脳への外傷は、通常の脳機能の変化をもたらします。この機能障害は、細胞膜の破壊と軸索の伸張という代謝レベルで起こります。これにより、神経伝達物質が異常に放出され、身体はナトリウム/カリウムのポンプ作用を強めて恒常性を回復しようとします。脳内のエネルギー貯蔵庫が枯渇することで、通常の脳活動がより多くのエネルギーを必要とするようになります。

脳震盪には2つの段階があります。興奮期と波動性抑制期です。 興奮期の段階 初期段階には、意識喪失、頭痛、脳震盪、ブレイン・フォグ、ボーッとした感覚、疲労感、不機嫌な感覚、吐き気、めまい、嘔吐など、多くの典型的な脳震盪の症状が含まれます。この段階は、脳震盪を起こした人の80%が7~10日以内に解決するはずです。

脳震盪には、興奮期と気分喪失期、2つのフェーズがあります。

興奮期:初期段階には、多くの典型的な脳震盪症状が含まれます。
・意識喪失
・頭痛
・再脳震盪
・ブレインフォグ
・倦怠感
・疲労感
・吐き気
・めまい
・嘔吐
脳震盪に苦しむ人々の80%はこの段階は7-10日以内に解決します。

気分喪失期:脳内化学物質の生成量の低下。N-アセチルアスパラギン酸(NAA)は、神経細胞に特異的な代謝物と考えられており、その減少は神経細胞の減少の指標となる。(Signoretti 2001)
第2フェーズでは、脳は軽度の衝撃に対しても損傷を受けやすい状態にあります。さらに衝撃が加わると、より重度の脳損傷になります。このフェーズはどのくらい続くのか? 多くの人は、症状が収まればトレーニングに復帰できると考えますが、脳内物質が正常化するのは30日以上かかることがあります。(Vagnozzi 2010)

脳震盪のリスク:直線的な力と回転的な力どちらのほうがなりやすいのか?
頭部への衝撃の種類と場所によって、脳震盪の可能性が高まることがあります。

頭部の側面を狙った打撃は、正面を狙った打撃よりも効果的である可能性があります。
「線形加速度と角度加速度が大きいほど、側面では他のどの場所よりも長い期間(3倍以上)意識を失った。(Hodgson 1983)」とあります。"モデルによる予測では、正面方向から衝撃を受けた脳と比較して、横方向から衝撃を受けた脳は、
より大きな頭蓋骨の変形、
より高い頭蓋内圧、
より高いせん断変形
を経験することが示されている。(Zhang 2004)
脳の解剖学的デザインに基づき、脳組織はせん断力に対して容易に変形し、回転加速度はせん断による組織損傷を引き起こす可能性が高くなります。「回転加速度によるせん断変形は、脳震盪における主な損傷メカニズムである。( Meaney 2010)

そもそも斜に構える格闘技ではパンチを受けたらストレートでも横方向の衝撃になる可能性があり、フックや回転系の技を食らったらなおさらです。

MMAでの脳震盪の発生率


最近の研究(Curran-Sills 2018)で、5年間にわたるMMAでの脳震盪の発生率を調査しました。プロ/アマ合わせて343試合で、162人の負傷者があり、そのうち101人が脳震盪と報告されました!

MMAファイターが10年間で4.4回の脳震盪を経験する可能性があると理論付けました。
他の競技と比較して:ホッケー(27.6)、サッカー(2.2)、ラグビー(0.8)

このデータは試合のみに関するもので、ハードスパーリングを含む、ファイトキャンプ時期のハードトレーニングは含まれてないです。未だにガチスパーマンセーな指導者いますが、北米では最近ファイトキャンプ時期に行われるハードスパーリングの量を減らす傾向があります。

いつトレーニングに戻っても安全ですか?


症状は5日間続く可能性がありますが、脳の代謝エネルギーの危機は最大30日間続く可能性があります。しよ元気だと思っていても、あなたの脳はまだ脆弱です。

いつ競技に復帰するかについての推奨ガイドライン(チューリッヒコンセンサス、McCrory et al 2013)
1.症状の回復
2.神経学的評価がベースラインに戻る
•脳神経が正常
•通常のバランス
•前庭動眼反射(VOR)が正常 
3.神経認知評価がベースラインに戻る
4.段階的な身体運動

2,3おざなりになりがちですが重要です。

ファイトプロトコルに戻る(Nalepa et al 2017)
ファイターは最初の脳震盪から1週間後にフェーズ1を開始する必要があります。脳震盪の症状がなければ24時間後に次のステップに進むことができます。症状が増加した場合、1ステップ後退する必要があります。脳震盪の症状が長引く場合、フェーズ3に進まないでください。トレーニング/競技に戻る前に、脳震盪管理の訓練を受けた医療専門家によってクリアされるべきです。ファイターはできるだけ早くトレーニングに戻りたいと思っていますが、十分な回復がなければ、症状が慢性化して長引く可能性があることを理解してもらわないといけない。

フェーズ1
一般的なフィットネスに戻る

•ステップ1
軽い有酸素運動:運動による心拍数の段階的な上昇(<70%HRmax)。エアロバイクまたはエリプティカルバイクが推奨される。

•ステップ2
中程度の有酸素運動:心拍数の大幅な上昇(> 70%HRmax)ジョギングや水泳も取り入れる。

•ステップ3
競技特性/レジスタンストレーニング:レジスタンストレーニングと競技特性の動きを開始します。

フェーズ2
ノンコンタクトファイトに戻る

•ステップ1
バッグ/ミットは動きに対応:競技特有の動きを実行しながら、前庭系と視覚系に挑戦します。

•ステップ2
シャドーボクシング/ドリル:ファイターを競技環境に入れ、フットワークやダイナミックなバランスに挑戦させる。

•ステップ3
片方だけが攻撃を繰り出すスパーリングとグラップリング:接触を気にせずにスパーリングします。これにより、ファイターは衝撃のリスクなしに敵に反応することに取り組むことができます。

フェーズ3
コンタクトスパーリングに戻る

•ステップ1
短いスパーリング:短いラウンド時間と長いインターバル時間。
•ステップ2
より長いスパーリング:ラウンド時間が長くなり、インターバルが短くなります。
•ステップ3
定期的なスパーリング:トレーニングの強度と量を通常に戻します。

総合格闘技コミュニティでの脳震盪の認識は、アスリートの適切な回復を可能にするために改善する必要があります。

アメリカでも全ての州で細かくプロトコルに沿って指導しているわけではなく、カリフォルニア州くらいらしいです。

You Tubeでも見てみよう

MMAの脳震盪については石渡さんのYoutubeチャンネルでも詳しく諌山先生に伺っているのがありますのでトレーナーや指導者はみた方が良いですよ。

SCAT3について

脳震盪が起きてるか、認知機能は戻っているかチェックする手立ての1つとして、SCAT3という診断ツールがあります。サッカー、アメフト、ラグビー関係者の方はお馴染みですが格闘技関係の方は知らない方も多いと思うので下記リンクからダウンロードしてみてください。

僕が知る限り試合前にこのSCAT3をおこなっている団体はONEだけです。UFCは数年前までしか知りませんが多分やってないはず。

担当選手と脳震盪

脳震盪がらみで、先日水垣くんがMMA PLANETさんでピコについて語っている中で自身のキャリア最後の方のこと語ってました。

内容はピコについてがメインだったの深くは触れてませんが、ドミニク・クルーズにKO負けして、スターリング→ループ挟んでコーディ・ガーブランドにもKO負けしたときに反応とバランスがメチャクチャ落ちてたのに、CTのみで本人の自覚のみで次戦のワインランドに軽い打撃を側頭部に食らっただけでストンと意識が落ちてしまったので全然戻っていなかったのが悔いが残ってます。

そこから恐怖のACB(現ACA)でピョートル・ヤンレベルの鬼強ケリモフさんに当馬にされてKO負けして、ようやく脳震盪の検査に強い脳神経外科受診したんですが、やはり遅かったなと実感してます。

試合で強い打撃を食らうだけでなく、練習中にも貰うと脳震盪や打たれ弱くなるリスクは上がるので普段からステップ、ガード等アクションとリアクションの練習でディフェンス技術高めることを選手も指導者も取り入れてほしいところです。

現役時代一番強かった時期、水垣くんはボクシングの世界ランカー、東洋太平洋チャンピオン等と出稽古でしょっちゅうスパーしてましたが、何とか挑んでやりあえてたのはディフェンス技術が高かったからです。

横浜光ジムさんで金子選手に相手してもらった時のことも石井会長は好印象だったようで、You Tubeでも語ってくれているのは嬉しいですね。

最後に結論を言うと、KO負けして確実に打たれ弱くはなるけど、どの程度落ちるか、どの程度回復するのかは本人次第なので分からないということです。 

ただ、堀口選手は半年は試合しない方が良いです。次戦3月なんて危なすぎます。


References:
1. Curran-Sills, G., & Albedin, T. (2018). Risk factors associated with injury and concussion in sanctioned amateur and professional mixed martial arts bouts in Calgary, Alberta. BMJ open sport & exercise medicine, 4(1). e000348.
2. Hodgson, V. R., Thomas, L. M., & Khalil, T. B. (1983). The role of impact location in reversible cerebral concussion (No. 831618). SAE Technical Paper.
3. McCrory, P., Meeuwisse, W. H., Aubry, M., Cantu, B., Dvořák, J., Echemendia, R. J., … & Sills, A. (2013). Consensus statement on concussion in sport: the 4th International Conference on Concussion in Sport held in Zurich, November 2012. Br J Sports Med, 47(5), 250-258.
4. Meaney, D. F., & Smith, D. H. (2011). Biomechanics of concussion. Clinics in sports medicine, 30(1), 19-31.
5. Neidecker, J., Sethi, N. K., Taylor, R., Monsell, R., Muzzi, D., Spizler, B., … & Reyes, P. (2018). Concussion management in combat sports: consensus statement from the Association of Ringside Physicians. Br J Sports Med, bjsports-2017.
6. Nalepa B, Alexander A, Schodrof S, et al. Fighting to keep a sport safe: toward a structured and sport-specific return to play protocol. Phys Sportsmed 2017;45:1–6.
7. Signoretti S, et al. N-Acetylaspartate reduction as a measure of injury severity and mitochondrial dysfunction following diffuse traumatic brain injury. J Neurotrauma. 2001.
8. Vagnozzi R, et al. Assessment of metabolic brain damage and recovery following mild traumatic brain injury: a multicentre, proton magnetic resonance spectroscopic study in concussed patients. Brain. 2010.
9. Zhang, L., Yang, K. H., & King, A. I. (2004). A proposed injury threshold for mild traumatic brain injury. Transactions-American Society of Mechanical Engineers Journal of Biomechanical Engineering, 126(2), 226-236.

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