見出し画像

意味が分かるとダジャレになっている話

これは神に陶酔した男の物語である。

あるところに医者を生業とする男がいた。名をゴーシュといい神社巡りが趣味の冴えない中年である。彼は休みになれば全国の神社を参拝しネットにレビューを書くのが趣味だったそうな。

あるとき彼の勤める大学病院で院長を決める選挙である『院長選』が行われることになった。立候補者は現副院長佐々木、外部からやってきた医学界の重鎮村田、凄腕外科医サミュエルの三名。いずれの候補者も超有能であるがプライドが高く、最下位になどなろうものなら辞職しかねない偏屈者ばかりである。選挙委員会は候補者の誰に辞められても困ると、最下位要因として一人の候補者を新たに立てることにした。そこで白羽の矢が立ったのが勤続30年のベテラン医師であるものの当選の可能性などは露ほども期待できない医師ゴーシュであった。選挙は計四名で行われることとなる。

それから少し経って院長選の選挙期間が始まった。そこには明日の地位名誉のため勢力的に選挙活動を行う候補者の姿があった。しかし、そこにゴーシュの姿はない。彼は他の候補者の活動などどこ吹く風、普段と変わらない平穏な日常を送っていた。というのも彼はそもそも院長になることなどには微塵の興味もなく、そもそも自身が院長になれるわけがないと察していたので選挙活動なんて毛ほどもやる気が出なかったのだ。

それから数日が経ち投開票日が間近に迫ったある日のこと。

いつものように休日を利用して神社を参拝し、ネットに神社のレビューを書いていたゴーシュの脳裏にある言葉が降りてきた。その瞬間、彼は電撃に打たれたような衝撃を受けた。

「ま、まさかこの状況は、神の御導きだったのか…?」

その閃きによって何かを悟ったゴーシュは翌日から熱心な選挙活動を始める。

周囲はゴーシュの変わりように驚き、皆一様に何か裏があるのではないかと勘繰ったが、いつもどこかやる気のない彼が額に汗して熱心に孤軍奮闘する姿に胸を打たれたのか、彼の人気は徐々に高まっていった。

そして院長選投開票日がやってきた。院内の講堂には各科の責任者たちが集い、次期院長が誰になるのか緊張した面持ちで待機していた。しばらくして会場の照明が暗くなり、ライトアップされた講堂のステージに候補者たちが一人ずつ姿を現す。まずは院内の人気は随一であり当選確実と目される副院長佐々木。波乱さえなければ次期院長は院内での信頼が最も厚い彼で決まりだ。次に現れたのは外部からの推薦でやってきた医学界の重鎮村田。政界の有力者とも親交の深い彼が院長となれば病院の地位向上が見込めること確実だ。次に現れたのは超難度の手術でも一切失敗しない凄腕外科医サミュエル。海外からやってきたイケメン医師でそのオペの腕前は日本医学会一との呼び声も高い若き天才だ。そしてその後ろから静かに現れたのが選挙期間終盤での熱心な選挙活動と趣味の神頼みで当選を祈るゴーシュだ。

各候補者の紹介や最後の挨拶を終え、運命の結果発表の時が訪れる。病院の今後を決める運命の瞬間である、会場には重々しい空気が流れていた。佐々木か?村田か?サミュエルか?誰に決まってもおかしくない。会場の医師たちは自分の支持者の当選を願う。だが、モニターに映し出されたのは意外な人物の名前であった。

【新院長 ゴーシュ医師】

場内はまさかの事態にどよめいた。なんと当選確率0%として選出されたはずのゴーシュが当選を果たしたのだ。騒然となり混乱する会場を尻目に彼は目に大粒の涙を浮かべながらステージの最前に立ち両の拳を天高く突き上げた。「神よ!あなたの天啓のおかげで私は…私は真の信仰心を手に入れました!」新院長の意味不明な発言にさらにざわめく会場。しかしこのざわめきはこの後一気に静まり返ることとなる。

なんとゴーシュ新院長はおもむろに着ていた白衣を脱ぎ棄てるとステージ上で全裸になったのだ。その意味不明な行動に誰もが言葉を失った。そしてさらに裸となった彼の身体を見た会場の人々はその光景に絶句した。なぜなら彼の肌には全国各地の神社の名前がびっしりと隙間なく書かれていたからだ。

「私はこれまで参拝してきた数多の神々に自分の信仰心を示すために全力を尽くした。神々への敬意の念を込め私は自身の身体に今まで訪れた神社の名前を彫り本日を迎えた。その覚悟が当選という形で報われたのだ!」

そしてここに史上最凶の神頼み医師 ゴーシュ院長(御朱印帳)が爆誕した。


画像は道です。

では〜。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?