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びわ湖ワーグナーの再出発 〜ローエングリン鑑賞記

新型コロナウイルスが猛威を奮い始めたほぼ1年前の3月初旬、クラシック音楽界に前代未聞の出来事が起こった。
ちょうど、政府によるイベント開催自粛要請が出たとき、その数日後に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール(滋賀県大津市)で毎年恒例のホールプロデュースオペラの開催が予定されていた。

しかし、政府と県からの要請により中止が言い渡された。だが、そこで諦めることなく、ホール職員の発案により、(今では当たり前になったが)クラシック音楽界(オペラ界)初の無観客生配信が行われた。

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/180735

当初は収録してDVDとして販売する予定だけだったものが、生配信によって大きな反響と話題になった。

その後、ブルーレイ・ディスクとして発売された。

2021年新制作はローエングリン

さて、ようやく本題。
びわ湖リングの大反響の直後、2021年の主催事業ラインナップが発表され、プロデュースオペラはワーグナーの「ローエングリン」となった。
このオペラは特に音楽面がとても美しく、ワーグナーはあまり好まない自分自身でも、すごく好きな作品の一つ。"あのびわ湖ホールで上演されるなら、これは何としても行かなければ…!と思い、1年前から何とか行けるようにと願いながら自粛生活に耐えてきた。
当初、本当に行けるのか不確定な中、チケット発売日にとりあえずの気持ちでチケットを取った。

初のびわ湖ホールへ!

こちらに関しても、感染対策を万全にして細心の注意を払いながらの鑑賞と行動に努めた。
滋賀県・大津駅から琵琶湖畔方面に20分ほど歩くと、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールが聳え立つ。

今回はコロナ禍ということもあり、通常の上演方法では無く、感染対策を考慮した「セミステージ形式」という上演方式が取られた。(内容は後述)

公演は全3幕で、途中休憩25分を2回挟み、約4時間半の長丁場。

公演概要
ステージング(演出):粟國 淳
指揮:沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)
管弦楽:京都市交響楽団
合 唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル

そもそも、今回のセミステージ形式とは。
オーケストラピットの密を避けるため、京響はステージ上中央で演奏、合唱団(びわ湖ホール声楽アンサンブル)は舞台後方ひな壇に距離をとって整列しマスク着用で歌唱。オーケストラと合唱団の間には透明なビニールを張り飛沫対策。そして、歌手陣は舞台前面に置かれた台に配し、各番号をふり一定の距離を保てるようにしたとのこと。そして舞台背面にはスクリーンを設置し映像の切り替えによって場面ごとの世界観を作り出した。

福井敬、森谷真理、大西宇宙…圧倒的歌唱力を披露した歌手陣!

今回は入国制限により海外歌手の入国が叶わないことから、オール日本人キャストでの上演となった。これは逆の意味でコロナ禍が功を奏したかもしれない。
中でも、タイトルロール(ローエングリン役)を演じた福井敬さんのダイナミックな歌唱には圧巻!エルザ役の森谷真理さんの流麗かつ抜群の歌唱力!そして完成度の高さ!
また、何よりもその存在感を表したのが伝令役の大西宇宙(たかおき)さん。圧倒的なスケールの大きさと存在感ある歌唱がとても印象深かった。

沼尻竜典&京都市交響楽団の音楽に痺れる!

このオペラの全てを率いたのが、びわ湖ホール芸術監督の沼尻竜典さん。そして音楽面の中心を担った京都市交響楽団の楽団員たち。
今回のセミステージ形式では演技等が少ない分、音楽的にも集中できたことが1番のメリットだったように思う。沼尻芸術監督の冴え渡るタクトに京響の美しく迫力ある演奏に度肝を抜かれ"音楽に痺れる"とはこういうことか!と実感。
もうひとつは、オペラの根幹である声(歌)の豊かさがこれ程にじっくり堪能できたということ。

地方劇場からの創造と発信

今回初めてびわ湖ホールを訪れてみて、滋賀県という地方都市で、首都圏に引けを取らない規模とクオリティの総合舞台芸術が発信されているということに驚きと素晴らしさを痛感した。
首都圏であれば東京、関西圏であれば大阪に一極集中しがちなエンターテイメントや芸術文化。それを中心から少し外れた場所で、劇場としての個性を自ら発信し、地方劇場でこれだけ感動的なワーグナー作品を堪能できたことはとても大満足であり、昨年までの"びわ湖リング"シリーズに多くの人々がのめり込んだ理由が今回行ってみて実感することができた。
来年はワーグナーオペラの最終作パルジファルが上演予定であるが、今回のローエングリンを観てしまったらますます行きたい…!という思いに駆られ始めている。

"創造し発信する劇場"というびわ湖ホールのコンセプトは、コロナ禍を迎えてもなおブレることなく着実に歩みを進め発展し続けている。

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