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ムーティ、ラザレフ…海外巨匠が駆け抜けた春

コロナの変異種が蔓延し始めた4月、クラシック音楽界にとってビックニュースであり喜ばしい出来事が相次いだ。それは、外国人巨匠指揮者の"奇跡の来日"である。
1月の2度目の緊急事態宣言以降、それまでの間は少し緩和されていた海外アーティストの入国も再び難しくなり、代役を立てての公演が続いていた。そんな中で3月下旬から4月上旬の間に各主催者からの朗報の発表がSNS上を賑わせた。

いずれも、自身は移動自粛のため公演会場に足を運ぶことはできなかったが、幸いにも昨今主流となっているライブ配信でその瞬間を目の当たりにでき、話題を共有することができた。

ヴェルディ音楽の第一人者 リッカルド・ムーティ

まず1人目は、イタリア出身の巨匠であるリッカルド・ムーティ(79歳)の来日だった。
毎年3〜4月にかけて東京・上野の東京文化会館および上野公園周辺で、「東京・春・音楽祭」が開催される。その教育プログラムの一環として一昨年からシリーズで行われている「イタリアオペラアカデミーin東京」への出演のため来日が予定されていた。

主催者側は来日までに文化庁をはじめとする関係省庁への交渉等に相当な労力がかかったよう。
東京春祭のホームページ内のコラムに来日実現までの経緯が事細かに詳しく書かれているので是非参照して頂きたい。

上記コラム内に書かれている実行委員会事務局の様々な努力もあり、4月2日にムーティの来日が叶い4月9日からのアカデミーが無事に幕を開けた。

9日はムーティによるオペラ「マクベス」の作品解説。10日〜16日までアカデミーのリハーサルと続き、19日・21日マクベス演奏会形式、20日若い音楽家によるマクベス(アカデミー受講生の発表の場)、22日・23日東京春祭オーケストラ モーツァルトプログラム(ミューザ川崎、紀尾井オール)と連日公演を続けた。

オペラアカデミーから本番公演まで含めて、いずれもライブ配信で視聴可能であり、自分自身もほぼ毎日のように画面の前に張り付いた。ムーティの熱くユーモアあふれる指導のリハーサルから本番までの一連の流れを見られたことはとても貴重な機会となった。
初日と中日のマクベス(演奏会形式)ではムーティの一振りの指揮で、ものすごいサウンドとなり、海外歌手(3名)も含めたレベルの高い歌手陣にオーケストラと合唱団の充実した演奏で作り上げたヴェルディ作品は、まさに"コロナ禍の奇跡"と思えた。
木曜・金曜の東京春祭オケによるモーツァルトプログラムでは、弱音まで美しく丁寧な音作りで短い2曲の交響曲であっても濃い演奏に充分な満足度!幸せに満ちたムーティのモーツァルトは最高のひととき。
出演者・聴衆の双方にとって素晴らしい3週間であったことは間違いない。
ムーティは次回11月に、相思相愛の信頼関係が築かれている世界最高峰のオーケストラ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との来日が予定されている。こちらも実現されることを心から祈るばかり。

ロシアの名指揮者 アレクサンドル・ラザレフ

2人目の巨匠は、ロシアの名指揮者であり日本フィルハーモニー交響楽団の桂冠指揮者兼芸術顧問を務めるアレクサンドル・ラザレフ(75歳)の来日だ。今回は日本フィルの定期演奏会への出演のための来日が予定されていた。こちらに関しても来日までの紆余曲折があったとのこと。

当初は上記の演奏会以外にも別途2公演が予定されていたものの、隔離期間の影響により出演が叶わなかった。マエストロの日本到着が4月5日、飛行機の本数も少なくモスクワからの日本直行便も現段階では無く今回はアムステルダム経由で19時間かけての来日となったとのこと(本来直行便は10時間のフライト)。そこから14日間の隔離待機(4月6日〜19日)、3日間のリハーサル(20日〜22日)、2日間の本番(23日〜24日)とタイトなスケジュールとなった。奇しくも翌25日からは3度目の緊急事態宣言発令というタイミングとなったことで、まさにギリギリで出演が叶った。※演奏会当日の山崎浩太郎氏のプレトークより一部抜粋。

こちらに関しても、演奏会2日目にライブ配信があり自分自身も聴くことができた。
グラズノフ:交響曲第7番では、”田園”とサブタイトルが付くように雄大なロシアの大地を彷彿とさせるようなスケールの大きな温かみに包み込まれる熱演にロシア音楽好きの自身にとってはたまらなく、ますますグラズノフという作曲家に好感を持った。
後半のストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」では、マエストロの細かく的確な指示を出しつつキレ味よくたっぷり聴かせ、各奏者の見せ場には主役として讃えて見せる(自ら指揮台を降りて奏者を目立たせたり)、指揮をしながら客席の方に振り返って聴きどころを観客にもジェスチャーするなど気配りとサービス精神旺盛なマエストロ。終始、元気いっぱいでお茶目なラザレフ将軍(愛称)は相変わらず健在。

上述したタイトなスケジュールの上、14日間の隔離生活を受け入れて来日してくれたマエストロ。演奏後には観客も楽団員をも笑顔にし、一連のコンサートをハッピーに締めくくってくれたマエストロ ラザレフに敬意を表したい!

緊急事態宣言発令をうまくすり抜けた巨匠達

ムーティとラザレフが本番公演に備えている最中に、政府の緊急事態宣言の発令が決まった。
東京については4月25日からの発令ということで、ホールの臨時休館なども続々と相次ぐこととなった。そう考えると、発令前に無事に公演を終えられたことはこれも"奇跡"と言える。
特に23日のムーティとのコンサート、24日のラザレフとのコンサートは観客も出演者も日曜日(25日)からの宣言発令ということが既に分かっていただけに、会場は熱狂と盛り上がりに満ちた一方でどこか寂しさをも感じる雰囲気をライブ配信の画面越しながらも伝わってきた。

ここでは書かなかったが、ムーティやラザレフの他にも東京春祭関連ではシュテファン・ショルテスの来日や、関西圏では京都市交響楽団の首席客演指揮者に就任したジョン・アクセルロッド(1年遅れの就任披露公演となった)の来日も実現した。
そして来月にはイタリア出身の俊英、アンドレア・バッティストーニが首席指揮者就任5年目の東京フィルハーモニー交響楽団との公演に臨む予定であり、バッティストーニは既に入国済みで隔離期間に入っているとの発表があった。これ以上緊急事態宣言の影響が広がらないことを祈るばかり。
また今回のような熱狂と盛り上がりに満ちあふれた日常が一刻も早く戻ってきてくれることを切に願いたい。

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