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繰り返される過ちと、起死回生のたらこスパ

「たらこ…スパゲティ…」

思わず口をついて出たのがこれだった。

体調を崩して寝込んでいたので、同じ市に住む妹が買い物を頼まれてくれた。「なんか食べたいものある?」に対して出てきた回答が、冒頭のそれであった。

たらこスパゲティにさして特別な思い入れはない。味は嫌いじゃないし、おいしいと思うが、ふだんわざわざ選びはしない。

しかしこの弱った病身にも優しく染み入り、かつ体力を授けてくれそうなのは、こってりとして重みのあるミートソースやホワイトソースではなく、喉の炎症に油を注ぎそうな明太子でもなく、たらこスパゲティがたしかに相応しかった。

直感によるとっさの回答は冴えていた。身体の欲求をつぶさに汲み取った。しかしひとつ、伝え忘れたことがあった。それは、

「トレー付きのやつな」

であった。

これはよく知られている事実だが、冷凍パスタの食べやすさはトレーが9割を担う。皿洗いを苦手なことリスト筆頭に掲げる私にとってはなおさらだ。なのに、ときたまトレー付きを買い忘れてしまう。人類あるある。時を経てなお繰り返される過ち。開封してはじめて気づく衝撃。この冷凍パスタ、トレーあらへん…。


さてしかし、絶望こそがすべての始まりである。キルケゴールも言っている(ちょっと違う)。ここからが腕の見せどころ。この窮地において、追われた鼠はいかに猫を噛むか。皿を洗いたくない私の策はこうだ。皿にラップを巻く?アルミホイル?いやいやそれすらも面倒くさいしアルミホイルは口に当たると変な味がする。

あと、ここまで書いてから思い出したが、我がアパートに皿はない。

そのままレンチン

至極シンプルな一手である。もっとも労力をかけない原始的で素朴な一手。これこそがこの窮地の上に火花の如く煌めき、策の大輪を開かせるのだ。

もちろん次の一手はこうだ。パーティ開け。

そのままレンチンの後はパーティ開けをし、海苔をかけるべし(孫子)


孫子も言っている(言っていない)。このまま袋の中から箸でつまんですするだけ。あれ、めっちゃ簡単では…?

気がついたらおいしく平らげ、こんな記事まで書けていた。大げさな前フリ、何のオチもない結末、ギャグを愛する関西人読者(いるのか?)の神経を逆撫で、しかしそこは私も関西人の端くれ、どうか許されよ、同族の誼。

まあそんなわけでですね、たらこスパゲティおいしかったです。

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