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陳浩基『ディオゲネス変奏曲』 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 感想 1/3 ミステリ・人情・SF・ホラーが詰まったお得な短編集

 noteを始めてみたものの何を書いていいか迷ったまま2ヶ月ほど放置してしまい、このままではまずいと思い直し、とりあえず趣味の読書を活かして、無難に読んで面白かった本の感想でも書いてみることにしました。

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陳浩基『ディオゲネス変奏曲』概要
「今、新たな潮流として注目を浴びている華文(中国語)ミステリ。その第一人者・陳浩基が持てる才能を遺憾なく発揮したのが、この自選短篇集である。大学生たちが講義室にまぎれこんだ謎の人物「X」の正体を暴くために推理を競い合う本格ミステリ「見えないX」、台湾推理作家協会賞最終候補作となった衝撃のサスペンス「藍を見つめる藍」、密室殺人を扱った「作家デビュー殺人事件」、時間を売買できる世界を描いた異色作「時は金なり」など、奇想と仕掛けに満ちた驚愕の17篇を収録。著者デビュー10周年記念作品。」
(裏表紙より)

 この夏、中国SFにハマったことから、同じく評判の中国ミステリも読んでみようと手を出した一冊。ミステリだけでなく、ホラーありSFありの幅のある作品集という印象。読破した短編を順番に(ネタバレになるべく配慮しつつ)紹介していこうと思います。(書籍タイトル『ディオゲネス変奏曲』の意味についてはあとがきで著者自ら詳細に解説されています。こだわり強っ!)

『藍を見つめる藍』

 2度読み推奨なミステリ作品。
 ある女性のブログに執着するネットストーカー視点からのサスペンス。
 ストーカーである主人公がブログに描かれた記事の内容をヒントに、執筆者の女性の居住地を徐々に絞り込んでいく過程、ダークウェブでの悪趣味なやりとり、自宅に侵入しようと悪戦苦闘する様子、住居内でターゲットが帰って来るのをじっと待つ間の緊張感、といった数々の緻密な描写が続きます。読んでいてその都度自分も追体験するかのように恐怖、羞恥心、背徳感、焦燥感、快感と諸々の感情が押し寄せてきます。やべえやべえ(笑)
 終盤いよいよターゲットと対峙して?からの大どんでん返し!
『藍を見つめる藍』という意味深なタイトルからして何か裏があるなと警戒していたのですが、そうきたか!とうなりました。翻訳もアンフェアにならないよう気を使って丁寧に訳されている印象です。
 この主人公は間違いなくヤバい奴なのですが、どこか妙に憎めない、とついつい感じてしまうあたり、カリスマ的な魅力を持ったマジモンにヤバいソシオパス野郎なので、名探偵か名刑事の登場が待たれます(笑)

『サンタクロース殺し』

 雰囲気ががらりと変わって、暖をとるホームレスたちのたわいのない雑談から始まる物語です。あるホームレスが「殺害予告を受けていたサンタクロースが、首を切断されて殺された寓話」を話したことから、サンタクロースが殺された理由をみんなで推理していきます。
 ミステリというよりも主題は家族からずっと逃げていた男が現実に向き合う勇気を取り戻す、ハートウォーミングな人情話だと思いました。サンタクロースの死体はなかなかショッキングな描写でしたが(笑)

『頭頂』

 少し社会風刺的な印象も感じるホラー作品です。
 ごく普通のサラリーマンだった主人公はある日目覚めて鏡を見たら、頭の上に異形の怪物が乗っていることに衝撃を受けます。手で払おうとしても触れません。怪物は主人公に直接的には害を与えてこないものの、その醜悪な見た目がとにかく不安を感じさせます。
 混乱するまま家を出た主人公が目にしたのは、街中の人々の頭にも同様にグロテスクな化け物たちが蠢めく悪夢のような光景でした。日常の風景すべてがおぞましい地獄絵図となってしまい直視できなくなった主人公は、藁にもすがる思いで病院に助けを求めるものの……。             (ここら辺の描写は読んでいて思わずPCアダルトゲーム『沙耶の唄』を連想しました。あと中国の実写版『カイジ』でナチュラルトリップしたカイジの見る幻覚!ただただ悪趣味で醜悪なやつ!!)
 パニックに陥った主人公がテレビに映る人々の頭に一際巨大な怪物を認めるシーンを読んでいた時は「この能力を有効活用して、通常では知り得ない情報を集めて、罪を免れている悪漢を懲らしめる話になるのかな?」と期待していたのですが、本編は欠片も救いのないオチでした(苦笑)
 ついついスマホばかり見てしまう現代人の一人としては、「ちょっと俯きがちかもしれないからもう少し顔を上げることを意識しようかな?」と冷や汗まじりに思った次第です。


 今日の分はとりあえずここまで。少しずつ更新していこうかなと思っています。


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