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素粒子論の研究者が絵本をかきました

素粒子論という研究分野を知っていますか?日本では、湯川秀樹先生、朝永振一郎先生、南部陽一郎先生、益川英雄先生、小林誠先生がノーベル賞を受賞している分野です。(素粒子実験でも小柴昌俊先生、梶田隆章先生がノーベル賞を受賞しています。)日本人が大活躍している分野です。
 理学部物理学科に入学する学生の多くはアインシュタインに憧れているのではないでしょうか。アインシュタインも素粒子論の先駆けの研究者です。

 私もアインシュタインに憧れて理学部物理学科に入学しました。そして、アインシュタインだけでなく、たくさんの偉大な物理学者を知りました。そのうちの一人が、朝永先生と一緒に量子電磁気学の研究でノーベル賞を受賞した、リチャード・ファインマンさんです。(量子電磁気学は実験値と理論計算が1兆分の1よりいい精度で合致する科学史上最高の理論です。)ファインマンさんはどんな難しい研究でも中学生にわかるように説明できなかったら、本当にその研究のことを理解しているとは言えないとおっしゃっていたと思います。実際、難しい量子電磁気学を、子供の幼稚園の親御さんに説明する動機で、本を書いています(光と物質のふしぎな理論: 私の量子電磁力学 (岩波現代文庫))。

さて、私の父は小学校の教師で、私も小さい頃から父を見て教師になりたいとずっと思っていました。しかし、父のように音楽や絵など何でもできるわけではなく、でも、アカデミックな雰囲気にずっと憧れていました。父は、遠く離れて何年も帰省できない私の子どもたちに、自分で描いた絵本や素敵な絵を手紙にかいて、頻繁に送ってくれていました。そんな父と一緒に絵本を出版できたらいいなあと思ったのが絵本をかこうと思ったきっかけです。もちろん、かく以上はファインマンさんの言葉を忘れずに、どんな難しいことも誰にでも分かるようにかきたいとこころに決めて。

はじめは父と二人で完成したいと思いかなり努力しましたが、パソコンでの作画が難しくて挫折してしまいました。そこで、新聞のコラムを3年ほど書いていて(それが本になったのが、「素粒子の探究で宇宙がみえてくる: 波場センセイのとっておき50話」(丸善出版)です)、このときにイラストを担当していただいていたコダマアキコさんに、彼女の先生である宇野厚美さんを紹介していただきました。絵本の原稿を宇野さんにわたして、一緒に作成していきました。それが、3年くらいかかったと思います。それをいろいろな出版社に持ち込みました。その間に、7つほど続編の絵本の原稿を書いて、それも一緒に出版社に持ち込みました。そして、小峰出版との縁がうまれました。編集者の渡部のり子さんと増田秀彰さんと出会い、もとの原稿が大きく修正され、ついに、絵本「宇宙の果てへ(量子力学体験ツアー)」(小峰書店)が完成できました。編集者さんたちの本をつくりあげていく過程はとても勉強になりました。それにしても、絵本をかき始めて7年後です。ついに完成できました。

「量子力学体験ツアー 宇宙のはてへ」表紙画像

「量子力学体験ツアー 宇宙の果てへ」
はばなおゆき 作/うのあつみ 絵(小峰書店)

この絵本では宇宙のかなたに向けて冒険します。3月に発売される次作では、ミクロの世界を冒険します。宇宙とミクロの世界が、(SFではなくて)つながっていることを、最先端の物理学をふまえて解説していきます。

「ものをどんどん砕いていったら最後にはどうなるのだろう?」
そんな疑問を誰もが一度は思ったことがあるのではないでしょうか?たいていの人は大人になる過程でそんな疑問を忘れてしまうでしょうし、学校の理科で原子や原子核なんかを習ったとき、「受験のために覚えなきゃ」と思ってそれ以上考えることをやめてしまったかもしれません。でも、そんな疑問を大人になっても、年寄りになっても、ずっと考え続けているのが素粒子物理学者で、私もその一人です。

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イラスト:コダマアキコさん

「ものをどんどん砕いていったら最後にはどうなるのだろう?」という疑問を追求すると、まったく想像しなかったいろいろなことにつながってきます。(数学でも予期せぬつながりがあることがよくありますよね。)そのうちの大きな一つが、宇宙の始まりや構造が見えてくることです。例えば、現在の人間が知っている最大の構造物は、無数の銀河が泡状に分布していることでしょう。なんと、このことは「ものをどんどん砕いていったら最後にはどうなるのだろう?」という疑問と密接に関わっているのです。

「えっ?そこっ!?」

とびっくりして、目からウロコが落ちて、・・・ハアハア・・・興奮です。

ああ、この世界の真理のなんと奥深いことか!

こんな興奮はなかなか味わえません。どんな美味しい料理を食べたとしてもどんなこの体験には負けてしまうと思います。まるで、何かの中毒のようです。とても抜けられません。

私が一番尊敬する南部先生のようにノーベル賞を受賞するのが目標です。ノーベル賞をとるからといって結婚してもらったので頑張らないと!

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波場直之(南部先生と【阪大准教授時代】)
http://www.phys.shimane-u.ac.jp/haba_lab/haba_j.html

大阪大学理学部物理学科卒業、
名古屋大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了、 理学博士。
三重大学助手、徳島大学助教授、大阪大学准教授、北海道大学教授、島根大学教授。現在、大阪公立大学大学院理学研究科 物理学専攻 教授

主な著書:
絵本「宇宙の果てへ(量子力学体験ツアー)」(小峰書店)
「素粒子の探究で宇宙がみえてくる: 波場センセイのとっておき50話」(丸善出版)
グリフィス 素粒子物理学(丸善出版)原著D.J.グリフィス、(著)花垣和則、波場直之

アウトリーチ活動としてオンデマンド講義の一部をYouTubeチャンネル「物理は面白いよ!」で公開中(よかったらチャンネル登録してくださいね)
https://www.youtube.com/channel/UC_ZaKBghXOjWmElGD3S5ytg

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