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『環で拓く宇宙での植物栽培』-後編[山岸 奏大]

10月に引き続き、株式会社DigitalBlast様に取材させていただきました。前回の記事では、同社が手がける宇宙植物実験プラットフォーム「環 - TAMAKI」についてお届けしました。

今回は、宇宙を舞台にデザインすることの課題や可能性について、「環」のデザインを手がけた山下さんと大熊さんのお二人にお話を伺いました。

SS山岸:環は宇宙植物の実験機器でありながら、単なる実験機器の域を超えたプロダクトとしてのこだわりを感じます。環のデザインにあたって、大事にしていることを教えてください。

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山下さん:環をデザインするにあたっては「ただかっこよくすれば良い」ではなく、目的を強く意識して進めました。

まずは大前提として使いやすく美しい機器に仕上げる事がありますが、駆け出しの本プロジェクトが広報的な視点で目立つことも大事です。そしてビジネスパートナーとなってくださる方々に向けて、技術的に説得力がありつつ魅力的なものだと感じてもらえること。そして宇宙空間で使用されるデザインの正解とはなんなのか研究する事。

これは誰も答えを持っていないので、きちんと考察をして学術的に実証していく事が大事だと考えています。

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とはいえ実験機器である以上、機能性が損なわれることだけはないようにしないといけません。
これが何をする機械で、どこを操作すればいいのか、といったところがきちんとデザイン上に表れていることが、実験機器のユーザビリティを向上させたり、説得力を上げていく上で大事なのかなと思っています。

そのことを前提としたうえで、表面処理やディティールをしっかりと美しく作り上げていき、宇宙が住空間になった時のインテリアとしても成立するような作りこみとをしていく事で、宇宙ならではの実験機器デザインが出来上がります。

こうしたことは民間だから取り組めることであり、環がこれまでとは違うということが一目でみてわかる要素になっていると思います。


SS山岸:環のデザインにあたっては、デザイナーとエンジニアが一緒に作業する必要があると思います。その上で難しかったことはなんですか。

山下さん:デザイナー目線で一番感覚が違うと感じたのは、安全性や冗長性に対するハードルの点です。その点は自分がこれまでに専門にしてきた産業機器での認識から、常にアップデートしていく必要がありました。しかし、自分は以前人工衛星の開発を経験したこともあり、その際に得た基本的な知識は互換性があったので、想像していたよりはスムーズにとりかかれた印象です。

大熊さん:スムーズだったというのは自分も同じ印象です。山下は元々人工衛星開発にも関わっていたので考え方の違いはそれほど感じませんでしたが、デザイン特有の考え方も他方で存在していて、そのことを相互に認めながら、お互い一番いいところを目指していく必要があると考えています。安全、信頼性第一でありつつも、弊社は民間であり、これからビジネスをやっていくとなるとやっぱりデザインを大事にしたい。だから単に安全性、信頼性があって動けばいい、だけではなく、デザイン性もできるだけ取り入れたいというのは自分も思っているので、そこは山下と話しながら進めています。

SS山岸:宇宙で使われるものを、全く環境の異なる地上で設計するにあたって、実際の環境できちんと機能するのかどうか、その検証が難しいのではないかと考えます。実際、どんな検証が行われているのでしょうか。

山下さん:デザインのプロセスは、まず我々が想像力を働かせて「こうなるんじゃないか?」と仮説を立てるところから始めます。宇宙空間で使うためにはどんなインターフェースがいいのだろうか?また形はどうあるべきなのか?と経験と知識を絞って想像します。また、既存の宇宙機器でされている工夫についてリサーチし、その背景を読み解いていくことも行なっています。

じゃあそれが実際に使いやすいのかどうかというところは、実際に環で実験をしていく事になるでしょう無重力を模擬した状態で操作してもらって、使いやすいか、安全上問題ないかなど宇宙飛行士や専門家に評価してもらうことになると思います。

大熊さん:JAXAでも、宇宙飛行士のインターフェースの部分では、地上で元宇宙飛行士の方にコメントしてもらうということをしています。

インターフェースにおいて環は、これまでJAXA、NASAが作ってきた実験機器とまるでデザインが変わってくる。その違いが宇宙飛行士にとってどう受け取られるのか、というのは本当に大事なことです。そこは地上で、宇宙に行ったことのあるメンバーにフィードバックしてもらえたらと考えています。

SS山岸:最後に、「環」についてではなく「宇宙を舞台にしてデザインすること」についての質問です。

デザイナー目線だと、宇宙という舞台における「条件」に関心があります。月面と地球とでは重力が違うという「環境の条件」の違いがあります。例えば月面で階段を設計するのであれば、ステップの大きさは地球上よりもはるかに大きいものを構想できるかもしれません。

このように、宇宙を舞台にする上で、造形に関与するような「条件」のうち、特に関心のあるものがあれば教えてください。

山下さん:確かに、現在のデザインとは「条件」が大きく異なりますよね。
一番大きな関心は自分もやはり「重力の有無」です。
自分はプロダクトデザイナーであり、モビリティのデザイナーだったので、意匠というと「重力の中で最適化されたものという前提でやってきました。車にしても家電にしても、絶対に「重力」の中で機能性能を最大限発揮するための形でできているし、人間の審美眼というのもそれにならってできてきたと思います。

重力という制約がなくなったとき、その中での「美しい」ってなんなんだろう?上下も前後もない空間で、果たして何が「美しく」「機能的」なのか、というのは大きなテーマだと思います。詳しくは、東京大学生産技術研究所の山中俊治先生も書籍で触れておりますので、興味のある方は是非読んでみてください。



最後に
取材を通して、安全性、信頼性を突き詰めた先にある「機能美」こそが、『環TAMAKI』の美しさのコアにあるということがわかりました。

また宇宙という、空気も重力もない空間の中で、機能性を突き詰めて生まれた造形に果たして私たちは「美しい」と感じるのか、というとても興味深いテーマについてもお話を伺うことができました。今後より盛んになってくるであろう「宇宙でのデザイン」を見つめる一つの視点として、"宇宙における「美しい」ってなんなんだろう?"という点に注目していきたいです。


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堀口真吾
株式会社DigitalBlast代表取締役CEO。
野村総合研究所、日本総合研究所等にて、主にデジタルテクノロジーを活用した新規事業、マーケティング戦略の立案・実行に従事。特にハイテク産業、宇宙産業を専門とする。2018年、DigitalBlastを創業。

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大熊隼人
株式会社DigitalBlast取締役CSO。
宇宙航空研究開発機構JAXAにてI SS日本実験棟きぼうの地上管制官として宇宙実験運用管制業務に従事。 また、きぼうに搭載する実験装置の開発や宇宙実験データを用いた研究を実施。
その後、外資系コンサルティングファームおよびベンチャーコンサルティングファームにてITコンサルタントとして従事。
DigitalBlast執行役員を経て、2021年6月取締役に就任。

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山下コウセイ
株式会社DigitalBlast CCO 、宇宙開発団体
リーマンサットプロジェクト(RSP) クリエイティブディレクター。
2014年多摩美術大学卒業。ヤマハ発動機にて海外市場向けプロダクトデザイン及び企画に従事し、欧州駐在時にMT-07のデザインを担当。宇宙への憧れから、RSPに参画し宇宙開発領域でクリエイターが活躍できるか”デザイン実証実験”を重ねた。開発及び打ち上げに成功した世界初のデザイン人工衛星”Selfi-sh”は宇宙で自撮りミッションを遂行中。2021年より現職にてChief Creative
Officer。世界でもまだ少ない宇宙領域専門のデザイナーとして活躍中。

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山岸 奏大
twitter: https://twitter.com/ymgsknt
instagram: https://www.instagram.com/ymgsknt/
東京理科大学 工学部 情報工学科 4年
雑多にものづくり。一日ひとつの「塵」の字をデザインし、Javascriptで特設サイトに降り積もらせる「ChiritsumoChallenge」実施中です。

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