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エイハブの六分儀-2023.1月号 西 香織

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

去年の暮から年始にかけて、夕暮れ時の空に勢ぞろいした惑星たちを見上げたでしょうか?夕空を楽しみながら、冬至を過ぎて日が少しずつ伸びていることに気づかれた方もいるかもしれません。昼が少しずつ長く、太陽も少しずつ高くなっています。でも、その影響がすぐさま出るわけではありません。太陽の光はゆっくりと大地をあたため、大地から熱が放射されて大気はあたためられます。日照時間が最も短く、低い太陽からの斜光が続く冬至の頃の影響が、およそ1か月かけて大地に冷えをもたらします。冬至から約一か月後に太陽は黄経300°で輝き、今年は明日1月20日(金)に二十四節気の大寒、まさに寒さのピークを迎えています。

エイハブの六分儀-1月号掲載

では、夜ごと存在感をます冬の王者オリオン座を見つけましょう。午後8時、南をむいて南東の方角を見上げると、3つの星が行儀よくならんだ三ツ星、それを4つの星が囲んでいます。左上には赤い星のベテルギウス、右下には青白い星のリゲルです。いつ見てもイケメンです。(星空案内でのイケメンは見つけやすいの意)オリオン座のすぐ下に暗い星々で横向きのゆがんだHの文字が結べたら、そこに今年の干支のうさぎ座がかくれています。12年ぶりの主役ですから、いつも踏んづけているオリオンを投げ飛ばす姿を妄想しても許されるでしょうか。

さて、オリオンのベルトの三ツ星をつないで高い方へ伸ばしていくと、オレンジ色のアルデバランが輝いています。今は明るい火星がお邪魔してとてもにぎやかです。アルデバランは「後に続く者」という意味、もう少し先をいく星の集団、すばるを追いかけている星です。すばるは、別名プレアデス星団。幼い星々の集まりの散開星団です。プレアデスの7人姉妹がオリオンから逃げて星になったといいますが、今でも逃げ続けています。

そんなアルデバランとすばる輝くこの辺りには、おうし座が描かれています。アルデバランが牛の右目。その下あたりに、淡い星たちで小さなVの字を結んだら、それが牛の顔です。Vの字の端から上にむかって、2本の立派な角が生えています。Vの字は、やはり同時に誕生した星々が少しずつ離れているヒアデス星団です。おうし座は、フェニキアのエウロパという可愛らしい娘に一目ぼれした大神ゼウスが化けた真っ白い牛の姿で、エウロパが背中に乗ったとたんにクレタ島へと連れ去ってしまった、それから、その地一帯をヨーロッパと呼ぶようになったという話は聴いたことがあるかもしれません。

フェニキアとは、今でいうとレバノンやシリアのあたり。その周辺に暮らしていたのがフェニキア人です。海洋民族である彼らは、太陽や星をつかった航海術を駆使し広い範囲に広がり、レバノン杉の木材や美しい染料など魅力的な品々を扱う貿易により地中海沿岸で繁栄しました。一説では、古代メソポタミア(現在のイラク)で生まれた星座を、ヨーロッパに伝えたのは彼らだったといわれています。フェニキア人たちによって伝えられた星座はやがて、古代ギリシアの地でギリシア神話と結びついていくわけです。星座の他に、アルファベットもフェニキア人が使用していた文字がもとになっているとか。歴史上とても重要な役割を果たした人々なのですね。

おうし座の西どなりに描かれているのは、おひつじ座です。ハマルという2等星のめじるしの星が見えますか?ギリシア北部のテッサリアのフリクススとヘルレ兄妹を、血のつながらないいじわるな母親から助け出した空飛ぶ黄金の羊の姿です。羊は二人を東へ連れ出しますが、あまりの高さにヘルレは海へと落ちてしまいました。羊はフリクススだけをのせたまま黒海を東へ渡り、コルキスという国へたどりつきます。コルキスは今でいうとジョージア周辺です。去年は、このあたりの地図を目にしない日はありませんでした。今も極寒の中、激しい闘いが続いている地です。その後、黄金の羊の毛皮は、アルゴ船の冒険で知られるギリシア神話の英雄たちに奪還されるという有名な神話へと続きます。

ほかの多くの星座同様に、おひつじ座やおうし座の神話の舞台は、今現在の私たちが使用している世界地図で見つけられる土地であり、その内容から、ふるくから人々がさかんに交流したり、時には奪い合いや小競り合いがなどあったことなどをうかがい知ることができます。時には星座をきっかけに地図をひろげて、頭の中で時空をこえた旅はいかがでしょう。

見上げれば一期一会の輝きがそこに…今年も星巡りを楽しんでいただけたら嬉しいです。


西 香織
コスモプラネタリウム渋谷「星を詠む和みの解説員」。幼い頃からプラネタリウムに通う。宇宙メルマガTHEVOYAGE 「エイハブの六分儀」で毎月の星空案内を担当。そそっかしく、公私ともに自分で掘った穴に自分でハマり(ついでに周囲の人も巻き込んで)大騒ぎしながらも、地球だからこそ楽しめる眺めを満喫する日々。


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