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【ワープスペースの挑戦】通信革命を宇宙で。生命探査への布石-前編-[中澤淳一郎]

今回は、宇宙で民間としては未だ実証されていない「光通信」の技術を確立することで地球外生命探査への貢献を目指す、新進気鋭の宇宙スタートアップ企業である「株式会社ワープスペース」の事業内容について、ワープスペース CSO(最高戦略責任者)である森裕和さんに取材させて頂きました。担当はSpace Seedlings(SS)の中澤淳一郎です。
 ワープスペースの創るサービス名は、「WarpHub InterSat」。これは、2025年までに、地球中軌道に光通信端末を搭載した中継衛星3機を打ち上げ、衛星間光通信をサービスとして提供するミッションです。まずはこの「WarpHub InterSat」について、その本質を深掘りしていきます。

「WarpHub InterSat」ーどういう課題をどのように解決する事業なのかー

近年、Space Xなどの打ち上げ事業者の衛星開発コストの低下により、地球低軌道(400-600km)のエリアに、10kg未満から100kg程度の小型衛星を数多く打ち上げるコンステレーションが主流になってきました。
これにより地球観測衛星を低軌道に大量に打ち上げることが可能になり、観測データの時間分解能が向上しつつあります。衛星データの流通量が増えることで、広くいろいろな事業者により活用される時代になってきています。

現在、地球観測データのなかでも、各地域につき1日ごとにデータを取得できればよいほうです。しかし、そのように衛星データが一般化した結果、「もっと細かい時間間隔の地球観測データを利用したい!」というユーザーニーズも出てきています。「最近では、1時間ごとといったレベルの時間分解能が求められるようになってきました。」と森さんは語ります。

さらに大量の観測衛星を軌道上に打ち上げれば問題が解決できるかといえば、そうは問屋が卸さないようです。というのも、地球観測データを大量に取得することができるようになっても、それらのデータを地上に下ろす(ダウンリンクする)ための地上局は北極周辺に集中しており、地球低軌道の一周90分ほどのうち、衛星が北極近くに到来する10分ほどのタイミングでしか、ダウンリンクできないという問題があるからです。
このような状況ではやはり、100基程の衛星を打ち上げても、全球をカバーしたデータとなると、一日に一度の時間分解能が限界になってしまいます。

「北極以外に地上局を建設すれば良いのでは?」とも思えますが、地上局を建設できる場所にも、様々な条件があります。海上に地上局を建設することは難しく、また、地政学的に不安定な地域や砂漠、山といった環境では、光ファイバーを通すのが難しく、あまり簡単に地上局は建てられない。平地はすでに人口が密集しており、アンテナどころではありません。そのため、やはり地上局は北極周辺に集中してしまいます。

こうした課題を抜本的に解消するのが、ワープスペースの「WarpHub InterSat」です。

以前から、静止軌道(上空36,000km)に衛星を設置し、通信を中継するサービスがありました。一度低軌道の衛星から静止軌道にデータを送ってしまえば、低軌道よりも地上の広い範囲と通信ができるため、「衛星が北極近くに到来する10分ほどのタイミングでしか、ダウンリンクできないという問題」を解決できます。

「WarpHub InterSat」はそのコンセプトをより実用的にアップデートしたものです。従来のサービスのように中継衛星を静止軌道に打ち上げるのではなく、地球中軌道(2,000-10,000 km)に打ち上げ、地球低軌道の観測衛星よりデータを中継し、地上に転送します。そしてその通信を、従来の宇宙機の通信に用いられていた電波ではなく、光を使うことで、高容量のデータをほぼリアルタイムで降ろせる!そのようなアイデアが「WarpHub InterSat」です。

「WarpHub InterSat」の強みーなぜ地球中軌道に光通信衛星を打ち上げるのかー

森さんの語る「WarpHub InterSat」の新規性は、「地球中軌道」に「光通信」衛星を打ち上げるという2点に集約されます。
では「地球中軌道」に打ち上げることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
 これを理解するためには、「地球からの距離」と「情報を伝達できる速度」の関係、より一般化すれば利得の概念が重要となってきます。

まずは、地球との距離が近い場合。このときは、衛星が地上のアンテナを狙って、狭い範囲にデータ量の多い電波を送る通信モードを利用することが可能になります。花壇にホースから直に水やりをするイメージでしょうか。
一方で、距離が遠い場合。この場合に衛星が地上のアンテナに狙いを定めるためには、高度な姿勢制御が要求されます。
そのため多くの場合では、距離が近い場合よりも広い範囲にデータを送ることで狙いを定める難しさを緩和させます。しかしそのような場合は、地上に伝達できるデータ量が比較的少なくなってしまいます。
先程まで水やりしていたホースに、シャワータイプのノズルをつけて水やりをするイメージが近いかもしれません。水は広がりますが、その分一箇所に届く水の量は減ってしまいます。

まとめれば、地球からの距離が近ければ高速の通信ができるが、遠ければ低速になる、ということです。
 しかしだからといって地球に近づきすぎると、今度は北極域上空の10分間しかデータを下ろせないという先述の問題が再び立ち塞がります。その間をとったのが、「WarpHub InterSat」が打ち上げられる地球中軌道になります。

では次は、「WarpHub InterSat」のもう一つの強みである、「光通信」について、その特徴を森さんに伺いました。
「光通信」は、まだ軌道上では民間の実用レベルとしては実証がされていない、宇宙業界では新しい技術です。従来の宇宙空間での通信では、電波(波長数mm〜数km)がメインで利用されてきた歴史があります。
光通信は、電波と比較して、通信速度が断然早いと言います。
地上では光ファイバーなどの有線のイメージですが、「WarpHub InterSat」の光通信では、指向性の高い高密度のレーザーを用いた無線での通信になります。

このような電磁波を用いた通信では波長帯で規格されています(下図を参照)。この観点から言うと、光通信には地上などの通信で用いられている4Gや5Gといった規格はありません。なので、ワープスペースが今後展開する光通信の実証に伴い、こうした規格がまさにこれから出来てくるそうです。
それにより、数umの近赤外線の波長が、これからの宇宙での光通信のデファクトスタンダードになると森さんは語ります。
(ちなみに、携帯電話の通信などでよく聞く4Gや5Gや、はやぶさ2などの通信で用いられているKaバンドなどは、電波のうちミリ波と呼ばれる波長数mmの規格になります。)

電磁波の波長ごとの名前 (光ファイバセンシング振興協会HPの図を一部改変)

しかし、こうした近赤外線の利用にも課題があります。宇宙空間の通信ならば問題はありませんが、宇宙から地上へと通信する際、雨雲や砂塵による擾乱を受けてしまいます。まさにこうした課題への対策が、今年から来年にかけての光通信の実証におけるホットな開発課題とされているようです。具体的な対応手法としては、様々な位相の赤外線を同時に送り結合させたり、時間差で送り合成開口するなどの手法が検討されています。

取材の様子:左上 SS中澤 中央下 森裕和様(WARPSPACE)

今回の記事では、ワープスペースの手掛けるミッション、「WarpHub InterSat」がどのような問題をどのような手段で解決するのか、そしてその手段の強みについて、技術的な側面から深くお話を伺うことが出来ました。
 8月号以降では、ワープスペースの人や会社の理念・戦略・将来像にフォーカスをあて、どのようなメンバーがどのように集まったのか、また宇宙スタートアップ企業の戦略や課題について、現場を誰よりも知る森さんが語り尽くしてくださった内容を紹介していきたいと思います。ぜひともご期待ください!!

森裕和
株式会社ワープスペース CSO。英エジンバラ大学理論宇宙物理学部飛び級入学・首席卒業。
エジンバラ王立協会から支援金を受け、理論宇宙論の研究(重力波・修正重力論)経験あり。
プロダイバーとして地中海で活躍し若手プロダイバーとして欧州・地中海エリアで賞も受賞し有名ダイビング雑誌に掲載される。バックパッカーの経験もあり、現在までに約90カ国訪問。日本に帰国後、国内最大手のコンサルファームで経営コンサルタントとして、宇宙×グローバル×DXの新規事業創出と事業戦略をテーマに戦略コンサルティングを行う。オーストラリア政府主催の地球観測会議GEOWEEK2019のインダストリトラックや宇宙産業の若手有志によるイベントNEXTSPACE Vol4等で登壇。趣味は沈船・海中洞窟ダイビング、飛行機操縦、ピアノ演奏、美術、宇宙物理等。現在JAXA宇宙飛行士選考0次選抜通過中。

中澤淳一郎
総合研究大学院大学5年一貫博士課程2年。JAXA宇宙科学研究所にてアストロバイオロジーを志し、宇宙生命探査のためのサンプラー開発に従事している一方、個人的興味から彗星の爆発現象やダイオウイカの生態についても研究している。宇宙生命探査の探査対象天体であるエウロパやエンセラダスといった海洋天体について解説するYoutubeチャンネルも運営中。(https://twitter.com/Hitchhike_guide?t=_lfWIi0X9a3ni9-Li5O-qw&s=09


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