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「宇宙×防災」で創る新たな事業 – 生活 編 & 総括[葛野 諒]

JAXAの共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ/J-SPARC」。そのJ-SPARCから生まれた「宇宙×防災」をキーワードとする新事業について、J-SPARCプロデューサーであるJAXA 新事業促進部 菊池優太 様にSpace Seedlings葛野がお話を伺ってきました。

コロナ禍でも活躍!?宇宙と防災の知見から生まれた空気清浄技術

葛野(Space Seedlings 以下S.S.):次は生活面での防災として吉田工業さんとの取り組みで着目した空気清浄技術に関してお伺いしたいと思います。まずは空気清浄と宇宙、防災はどのように関係するのでしょうか?

菊池さん:空気は宇宙空間では限られた資源です。閉鎖空間の中で空気を正常に保つ技術は有人宇宙機においてとても重要で、これまでも国内外で研究されてきました。国際宇宙ステーションやスペースシャトルでも空気清浄技術は使われています。

JAXAでも空気や水の再生技術の研究開発に取り組んでいますが、今回の取組ではこれまでの有人宇宙ミッションで採用されてきた空気清浄技術を吉田工業さんが活用し、災害用クリーンルーム「ツバメエアクリーン(TAC)テント・ルーム」を開発されました。

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ツバメエアクリーン(TAC)テント・ルーム ©吉田工業

災害時、普通のキャンプ用テントを張るだけでは、衛生面の課題があるそうです。これは、発災後の避難所などの生活環境が原因で死亡する「災害関連死」に繋がる要因の一つでもあります。しかし,それらは本当は救える命なわけですよね。救える命を守るために、災害時にクリーンな環境をリーズナブルに提供できればという思いでこのツバメエアクリーン(TAC)を吉田工業さんは開発されたそうです。

実は、この開発プロダクトは今のコロナ禍でも注目されています。医療機関では新型コロナウイルスの感染者数増大によって病棟が足りておらず、病院の外側にテントが設置されていることもありますが、そういったところで一部採用が始まっています。

S.S.葛野:そうなんですか!災害時でないときも役に立っているんですね!

菊池さん:医療現場で衛生的なレベルを維持していくためには、メンテナンスも少ない方が良いですし、多くの患者さんに提供するためには低消費電力・小型・軽量であることが求められます。そしてこれらは、宇宙開発の現場でも常に求められていることです。つまり、人が限られた空間の中で生きていくための技術は、宇宙だけでなく、地上の様々な状況でも求められているとも言えます。

S.S.葛野:ありがとうございます。課題だけでなく、技術としても求められることが共通してくるのは面白いですね!

菊池さん:企業さんと議論を進めていく中で、僕らのような宇宙関係の人間にとっては特別ではない技術や着眼点が、企業さんたちにとっては新鮮で、地上の課題解決にも使えることが分かってきたりします。今回の吉田工業さんのツバメエアクリーンもそのように着想を得て生まれた商品でした。

防災都市型プロジェクト

菊池さん:今回ご紹介してきた食や教育、住環境における「宇宙×防災」は、BSFP(Bosai Space Fulfillment Project)の取り組みの一環になります。しかし、これらは実際に使われないと作った意味がないんですよね。

S.S.葛野:確かにその通りですね。

菊池さん:これまでBSFPで取り組んできたことが実際の災害時に機能するためには、各市町村の自治体レベルで防災の仕組み作りを進めていく必要があります。そこで、今はワンテーブルさんを中心に「スーパー防災都市創造プロジェクト」を進めています。このプロジェクトはBSFPで作ったプロダクトやサービスなどを一つの自治体でとにかく徹底的に導入し試してみようという取り組みです。最終的には人と物とシステムを全部組み合わさった日本最先端の防災モデル地域を目指しております。

こちら、国の補助金などの支援を受けて、スタート当初は全国5つの自治体をスーパー防災都市として指定して一緒に進めております。そこでちゃんと回る仕組みを作ったらまた違う自治体に展開していこうと考えています。

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©ワンテーブル

菊池さんが取り組む「宇宙×防災」への思い

S.S.葛野:最後の質問ですが、菊池さんは今回お話していただいた「宇宙×防災」事業に対してどのような思いを持って取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

菊池さん:これまでの宇宙開発で、防災分野への貢献というと、人工衛星を活用して災害に備える「防災」「減災」に向けた取り組みや、災害時の緊急観測など、宇宙から物理的に観測するものが象徴的でした。これは宇宙開発のハードを活用した防災とも言えます。しかしそれだけではなく、宇宙での暮らしに対する考え方や工夫といったソフト面でももっと貢献できることがたくさんあるんじゃないかなと私は思っています。今回お話したBSFPの防災ツールは、宇宙の視点を用いて、被災者に寄り添う形で貢献できないかと考えた中で生まれました。

S.S.葛野:「宇宙×防災」と一口に言っても、様々な形があるのですね。

菊池さん:最初はワンテーブルの社長さんと話していく中で、防災食と宇宙食って似てるよねというところから始まりました。つまり、宇宙と防災の衣食住に関する性質上の共通点から入ったわけですが、進めていく内に一緒にやっていくこと、つまり「共創」の意義について考えるようになりました。そこで議論を重ねた結果、「一つの命も落とさない」ことがお互い共通の目標であると至りました。有人宇宙開発は、多くの危険がある中で技術やチームプレーで一つの命も落とさないよう先人が挑戦してきた歴史があります。どんな有事があっても人の命を守っていく、一つの命も落とさない、という宇宙と防災に共通する思いを持って事業に取り組んでいます。

菊池さんご講演写真

Smart Kitchen Summit Japan 2018での登壇の様子(2018年8月8日)

S.S.葛野:ありがとうございます。菊池さんの「宇宙×防災」に対する熱い思いを伺うことができて、改めて宇宙開発や宇宙利用の意義について考えさせられました。 また、私が以前震災復興ボランティアをしていたときは「宇宙」と「防災」を別個のものと捉えていましたが、色々な共通点があると分かったことで、防災に対して身構えずに、もっと自然体で向き合っていいんだと思えるようになりました。菊池さん、お忙しい中貴重なお話をたくさんありがとうございました!

参考資料
防災・宇宙フルフィルメントプロジェクト(BSFP)
ニュースタンダード社会における防災・宇宙フルフィルメントプロジェクト(BSFP)始動|株式会社ワンテーブルのプレスリリース (prtimes.jp)
綺麗なクリーン空間を提供する ツバメエアクリーン(Tsubame AirClean)


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菊池 優太(きくち ゆうた)

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
新事業促進部 事業開発グループ J-SPARC プロデューサー
/ 一般社団法人 SPACE FOODSPHERE 理事

人間科学分野の大学院修了後、JAXA入社。主に非宇宙系企業の宇宙ビジネス参入に向けた新規事業や異分野テクノロジーとの連携企画に加え、共創型プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の立ち上げ・制度設計に従事。現在は、J-SPARCプロデューサーとして、主に宇宙旅行・衣食住ビジネス、コンテンツ・エンタメビジネス等に関する民間企業等との共創活動を担当。地球と宇宙に共通する食の課題解決に取り組む一般社団法人SPACE FOODSPHEREでは理事を務める。


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葛野 諒(くずの りょう)

東北大学大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻 博士前期課程1年

【専門・研究・興味】宇宙エレベーター/宇宙テザーなど宇宙空間における柔軟構造物の研究
Space Seedlingsの活動を通して、皆さまの「宇宙」が広がるお手伝いができれば幸いです。

【活動】
SELECT(宇宙エレベータークライマー製作)
Tohoku Space Community
復興応援団
Flexible Spacecraft in Julia

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