Let It Be

とあるカフェの端の席で男女が会話をしている。
「なすがままにしてれば大丈夫。」
「いつもそれじゃん。今すごく真面目な話ししてるんだよ。」
「うん、知ってるよ。君が旦那さんと別れそうって話でしょ。」
「そうだよ。それなのになんなのよ、"なすがままに"って。適当すぎない?幼馴染の仲だから言うけどその"なすがままに"ってやめた方がいいよ。あなたの相談受けた人みんなその言葉言われたって言ってたわよ。そういうこと言ってばっかだから彼女に振られるんだよ。」
「それとこれとは関係ないじゃん。実際僕が相談受けた人みんなが今幸せって言ってるよ。」
「それは偶然でしょ。」
「いや、僕は相手が幸せになる気がするから"なすがままに"って言ってるんだ。」
「ふーん。とにかく、話し戻すよ。」
「あんま信じてないね、いいよ。」
お互いに目の前にある珈琲を飲みまた話し始めた。
「先週仕事終わって家に帰ったら、旦那が凄く落ち込んでて、どうしたのか聞いたら、リストラにあったらしくて。その日は私もどうしていいか分からないから、何もしてあげられなくて。その後、2日間くらい旦那の気分が下がりっぱなしで、その次の日仕事から帰ったら離婚届を渡されて、旦那が、、」
「こんな状態の俺が君の夫だと迷惑かけてしまう、君も幸せになれない、別れよう。って言ったんだよね。」
「本当にちゃんと聞いてるんだね。それ言われてから私どうすればいいか分からなくて、、、旦那も元々プライド高い人だから、自分が職がない人間って事が許せないんだと思う。それでこないだ精神科言ったら鬱病って診断されたらしくて、余計に私自信なくしちゃって、余計にどうすればいいか分からなくなってる。」
「旦那さんとこれからも幸せに暮らせるか自信なくしちゃったんだね。」
「うん。」
「でも君は旦那さんの事、愛してるんでしょ?」
「うん。」
「なら、"なすがままに"していれば大丈夫。絶対に幸せになれるよ。」
「だからなんでそんなこと言えるの。」
「覚えてる?君が僕の両親が離婚した時にずっと傍にいてくれて僕を励ましてくれたこと。」
「覚えてるよ。」
「その時にさ、君が"なすがままに"していればきっと幸せになれるから大丈夫だよって言ってくれたんだよ。」
「私そんなこと言ってたんだ。」
「うん、それに、君の大丈夫って言葉には得体の知れないパワーがある気がするんだ。」
「得体の知れないってなんかいいんだが悪いんだかって感じだね。」
女はふふっと言いながら言った。
「君が今まで相談を受けて励ました人皆んなが元気を貰ったって言ってたよね。」
「そう言われたけど、お世辞でしょ。」
「いや、きっと得体の知れないパワーで元気を貰ったんだ。だから君も"なすがままに"旦那さんに寄り添ってあげれば大丈夫。」
「ありがとう。ん、信じてみるよ、あなたの"なすがままに"って言葉をさ。」
男は頷いた。その後、他愛もない話を少しし、珈琲を飲み干し店を出た。
「じゃあまた、旦那と幸せになれたら話聞かせて。」
「わかった。ありがとう。今度はあなたの色恋話も聞かせてよ。じゃあ。」
「うん、いいよ。じゃあ。」
男と女は駅で別れた。

数ヶ月後、男スマートフォンに写真付きでメッセージが届いた。
「この間はありがとう。今、とっても幸せ。」と文面が並び、写真には幸せそうなツーショットと女のお腹が少し大きくなった写真が添付されていた。
男は「どういたしまして。これからも"なすがままに"」と文面を打ち送信した。
少し歯痒い気持ちになって男はスマートフォンを机に置いた。

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