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ひらいていく距離

仕方がない、とは思う。
頭ではわかっている。
でもまだどうしてもこの距離を離したくない。
そう思うのは我儘だろうか。


淡い桃色はすっかり散って、木陰が恋しい季節になった。

あれから5年も経っている。
変わらない方がおかしいのだ。

でもまだ、何かにしがみつこうとしてしまう。

大学で出会ってから約10年。
私たちは大人になった。

大学卒業後、私は進学を経て、
周りとは一足遅れて社会人になった。
そこからまた数年が経ち、今では小さいが店舗の店長だ。

学部で一番仲の良かった彼女は卒業試験に受からず、一緒に卒業できなかった。

私が社会人になった今も彼女は学生を続けている。

それでもまだ会おうと連絡を取るのは、
お互いに切りたくない縁と思っているからだろう。

彼女は変わった。

いや、変わったのは私の方か。

もうあの頃のように同じ感情でものを見ることはできないのかもしれない。

お給料から必死に貯めたお金で、
ある日私は一目惚れしたジャケットを買った。
本革のジャケット。色違いで2着も購入した。
一着10万の高級品だ。
翌日からもやし生活の覚悟でカードを切った。

すり減った貯金を見ると不安な気持ちもよぎったが、何よりも嬉しさが優っていた。
一生大事に着ようと決めた。

そんなある日、彼女が私のジャケットを見て言った。

「さすがだね。私なんかの洋服とは違う」

アルバイトを転々としながら学生を続ける彼女の言葉がなぜか痛く突き刺さった。

私だって楽して買ったわけではないのに。



友人の誕生日会があった。
プレゼントは2人で一緒に選んで割り勘するのが毎年の恒例行事だ。
予算は2人で1万円。
今年もその時期がやってきた。

急に彼女は言う。

「社会人だからもっと出したいだろうけど、2人で1万を予算にするのが私のギリギリ。ごめんね」

ああ、そんな言葉いらないのに。

確かに私は社会人で、彼女はアルバイトだ。
10万の革ジャンを買ったことはあるけど、
私の感覚はそこまで変わったわけじゃない。

「そんなことないよ。2人で1万円かなって私も同じこと思ってた」

棘を感じる言葉に、突っかかる勇気はなかった。


私は彼女のことが羨ましいだけなんだろうか。



あれから更に時は経ったが、まだ立場は変わらない。

私は変わらず社会人。
結婚して、家が欲しいと思うようになった。

彼女は変わらずアルバイトで、就職はまだ先のようだ。

変わっていく環境の中、
見える景色が変わり、欲しいものが変わり、
お金の使い方が変わり、守るべきものが変わった。

ずっと同じ夢を追い続け、一直線にそれだけを見ている彼女の姿を直視することはもうできない。

今はただ、平凡に、穏やかに、この生活を守っていきたい。

荒波のない日常を、不安なく透き通った光を家族に与えたい。

「今から会おうよ。終電?大丈夫。車中泊だっていいんだから。泊まりなんてもったいない。車でもネカフェでも夜は過ごせるよ?」

家族の待つ家に安全に帰ることの大切さを、
不安なく待たせることの優しさを、
お金の使い所を、
この先ずっと共有できないのだろうか。

彼女が社会人になれば変わるのだろうか。

ひらいてしまった友情の距離をこれ以上離したくなくて、でもこれ以上は近づけなくて、このままの関係も落ち着かなくて。

どうしよう、どうしようと、
変わっていく環境にもがき続ける。

ああ、もうすぐ彼女の誕生日だ。

このモヤモヤを抱えながら、私はまたLINEを開く。

もうやめたらいいのにと、どこからか声が聞こえた気がした。

未熟ですが、精一杯気持ちを文章にしていきます。よろしくお願いします。