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孤毒

樹莉さんは大学時代、いつも一緒の同性の友人がいた。樹莉さんは非常に消極的な性格で、大学へ入るまで周囲から、のけものにされていた。まさに孤独だ。そんな中、根明の友人は樹莉さんを第一に考え、側にいてくれた。そして気づけば親友になっていた。

けれどある時を境に距離を置くようになる。親友が思う男に、樹莉さんも恋をしたからだ。その男は蒼という名であった。いつも孤独な雰囲気を纏い、大学でも1人。最初は彼の不穏な雰囲気に近づき難いものを感じたが、次第に惹かれていくことに気づく。彼の孤独な雰囲気が自分に似ていたからだ。しかしある時、親友が彼に恋心を持つことを、樹莉さんに打ち明けた。その時初めて親友に対し、嫉妬の感情が芽生えた。それを知らぬ親友は勇気を振り絞り声を掛け、やがて距離を近づけた。蒼は徐々に自分の生い立ちを打ち明けた。
「自分と関わると皆死んでしまう。何かの毒が回るよう、ゆっくりゆっくり」家族や親戚や友人、皆全て亡くなったと話す。だから自分に近づくなとも忠告してきた。最初は冗談だと思ったが、蒼の表情は儚げで真剣だ。親友はそんな蒼の悲しい生い立ちに、一層気持ちを強めた。ただ樹莉さんの前に、悪魔の囁きが聞こえる。消極的な自分はこのままいっても、気持ちを打ち明けられない(けれどもし蒼の話が本当なら...あの子は)
樹莉さんは自分の気持ちを偽りながら、親友の恋を後押しすることにした。そして猛烈なアプローチにより、押しかけ女房のように蒼と結ばれた。

樹莉さんは嫉妬と後ろめたさにより、親友から距離を取る。彼女の嬉しそうな笑顔を、いつも遠くから見つめる。すると徐々に親友に変化が現れた。顔色も悪く痩せ細り、お洒落だった外見や明るい性格も消え、別人のように変化した。そして翌る日、蒼の隣から消えた。蒼に近づき、樹莉さんは彼女のことを尋ねる。「やっぱり耐えられなかったみたいだよ」儚げに、そして残念そうな表情で彼は答えた。(やはり蒼が話していたことは本当だったのだ)それを理解した瞬間、彼に抱いていた恋心を消えた。しばらくして親友の訃報が届いた。その時初めて、唯一自分を考えてくれた存在を、自らの手で葬ったのだと悔いた。それ以降、蒼を大学内で見かけることもなくなる。樹莉さんは学内の人間に彼のことを尋ねた。しかしそんな男はいなかったと、皆口を揃え答えた。そしてまた彼女は孤独になった。

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