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激変するバングラデシュ~ダッカの人権活動家アミンさんからの現地報告~

ピープルツリーの母体NGO「グローバル・ヴィレッジ」のタネモリです。

日本でも大きく報じられた、バングラデシュの政変。
大学生たちが公務員の特別採用枠制度に対する不満を訴えた7月半ばのデモは、首相の辞任を求める反政府デモに発展し、多数の死者や負傷者、逮捕者を出した末、8月上旬には首相の国外脱出、議会の解散、暫定政府の樹立など、わずか1か月足らずの間にめまぐるしく情勢が変化しました。

バングラデシュはピープルツリーにとって、特別な国。
1993年にフェアトレード事業を開始し、初めて輸入したのはバングラデシュの紙製品でした。今も取引を続けるこの団体を初め、最も多くの生産者パートナー団体を擁する国なのです。


生産者グループと音信不通に

学生デモが激化した7月中旬、SNSを通じた結束を阻害するために、バングラデシュ全体でインターネットが遮断されました。その結果、パートナー団体との連絡がとれなくなり、情報がなく、心配していました。間に合うはずだった、月末の展示会のためのサンプルが届かないという不測の事態も起きました。

インターネット復旧後のやり取りで、パートナー団体のスタッフやダッカ中心部から離れた郊外や農村部にいる職人グループの中に、一連の暴動に巻き込まれた人は今のところいないことが分かり、安堵。

ピープルツリーのオフィス入り口に飾っているバングラデシュの地図。紙製品、竹製品、手織り生地など20以上の職人グループの所在地を印しています。(★印が首都ダッカ)

ダッカから届いた悲報

ところが8月12日、ピープルツリー/グローバル・ヴィレッジが20年以上に渡って支援している「バングラデシュ衣料産業労働者連盟(NGWF)」の理事長を務める人権活動家、アミルル・ハク・アミンさんから、悲しい知らせが届きました。

NGWFは、縫製工場など衣料産業で働く労働者の組合連盟で、9万人余りの労働者が加盟しています。

7月19日から20日にかけてのデモにはNGWFのメンバーも多く参加しており、鎮圧の際に7名が命を落とし、少なくとも50名が怪我をし、100名以上が身柄を拘束されているとのこと。アミンさんからのメールには、担架に横たわる傷だらけの若い男性たちの痛ましい写真が添えられていました。

デモの鎮圧による死者は600名以上にものぼるとのこと。
デモの参加者の多くは、リクショー(人力車)やトラックの運転手、日雇い労働者、個人商店主といった低収入で不安定な暮らしを強いられていた人々でした。

学生デモがあっという間に政権を覆すほどの大きな反政府運動に広がった背景には、15年間の長期政権の下、経済発展の陰で貧富の格差が広がり、前政権の政策に不満を募らせていた人々の存在があったのです。

暫定政権への期待

NGWFは8月14日、他の3団体の労働組合連盟と共同で記者会見を開き、声明を発表しました。ノーベル平和賞受賞者のムハンマド・ユヌス博士が率いる暫定政権の発足を歓迎し、衣料産業労働者を始めとする低賃金労働者の待遇を改善するため、13の項目を挙げて実現を要求しました。

1)死者を出した制圧行動の責任者を明らかにし、罰する
2)怪我人に対して適切な治療を支援する
3)抑留者を無条件で解放する
4)死傷者の家族に対して適切な補償を行う
5)衣料産業労働者に対して「生活賃金」が支払われるよう、法的な最低賃金を引き上げる
6)600万人の店舗従業員のためにただちに賃金委員会を設置する
7)労働法が定めるとおり、店舗従業員には週1.5日、建設労働者には週1日の休日を保証し、雇用契約書、身分証明書、労働記録簿を提供する
8)420万人の衣料産業労働者、600万人の店舗従業員、370万人の建設労働者ほか低賃金労働者に、配給制を提供する
9)輸出加工区(EPZs)*での労働組合の活動を禁じている法律を廃止し、一般の労働法を適用する 
  *政府が外資を呼び込むために企業を税制面で優遇する経済特区
10)ILO(国際労働機関)87条** と98条*** に合致するよう、労働法を改正する
  **結社の自由と団結権の擁護
  ***団結権及び団体交渉権
11)衣料産業労働者が組合を結成し労働条件の改善を求める権利を阻む法律や経営者の誤った認識を取り除く
12)家庭や地域社会、職場において、女性の権利や賃金を等しく保証する
13)暫定政府に、巨大プロジェクトと腐敗を排し、衣料産業労働者、店舗従業員、建設労働者、農業従事者ほか低賃金労働者の基本的なニーズを満たすよう求める

NGWFの記者会見でのリリースから
8月14日の記者会見の様子

5)~12)は、NGWFが前政権に対しても要求してきたことです。

NGWFは、1984年の発足以来40年間、一貫して衣料産業労働者の権利を守るために活動を続けています。その成果として、60~70%の労働者が週に一日の休日がとれるようになり、90%が祝日のボーナスを受け取り、80%の女性労働者が産休をとれるようになりました。

2013年に起きたラナプラザ事故(ビルの崩壊によって縫製工場の労働者1,000人以上が犠牲になった事故)の際にも先頭に立って活動し、犠牲者とその家族への補償と労働者の待遇改善を求めて、縫製工場への発注者である海外大手ブランドのコンプライアンス改変の一翼を担いました。

NGWFは、暫定政権、そして今後発足する新政権に対しても、労働者の地位向上を実現するよう、声を挙げ続けるといいます。


日本にいる私たちができること

アミンさんにメールで、「暫定政権や新政権の下で、状況はよくなると思いますか?」と質問したところ、こんな返事が返ってきました。

「暫定政権がどのように機能するかは、時間が経てば分かるでしょう。断定的な判断をするのは時期尚早ですが、私たちは、労働者の権利と民主的改革のための啓発活動を続けることで、前向きな変化が実現する可能性に希望を持っています」

「この状況に関心を寄せていただいていることに感謝します。ぜひこれからも、私たちの活動を応援してください」

グローバル・ヴィレッジは、NGWFの活動を支えるために毎年支援金を送っています。今年も1,000ドルの支援金を送ることをアミンさんに約束しました。

長期政権が続いた国で改革が実現するまでにはさまざまな紆余曲折が予想されますが、その改革が立場の弱い人びとの声が反映されたものになることを願い、NGWFやフェアトレードパートナーたちの活動をこれからも支え、見守っていきます。

アミンさん(左)と筆者。2022年12月、現地調査のために訪れたダッカのNGWF事務所にて

NGWFへの継続的な支援金は、グローバル・ヴィレッジに寄せられる会費や寄付によってまかなわれています。賛同いただける方は、会員やサポーターとして活動を支えていただければ幸いです。

会員やご寄付のお申込みはこちら

Vポイントを使った募金もできます。

https://donation.tsite.jp/


背景をもっと詳しく知りたい方へ

去る8月10日(土)、シャプラニール=市民による海外協力の会により、オンライン緊急企画「バングラデシュで今なにが起きているのか」が開催されました。

シャプラニールは、1971年のバングラデシュの独立直後から農村支援の活動を始め、50年以上に渡って継続している国際協力NGOです。現在は、バングラデシュ・ネパールそして日本で、児童労働削減、多文化共生等の活動に取り組み、フェアトレードについても日本における草分け的存在です。

オンライン緊急企画では、同NGOバングラデシュ事務所長の内山智子さんが現地の様子を時系列で、バングラデシュ地域研究を専門とする立教大学准教授の日下部尚徳さんが事件の背景説明を分かりやすく伝えてくださいました。

そのアーカイブ動画がYoutubeで一般公開されいるので、ぜひご覧ください。


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