0.2ミリシャープペンと和解した先にあったのは、溢れんばかりの愛だった【#忘れられない一本 06】
誰にでも、忘れられない一本がある。
小学生の時に初めて手にしたシャープペンデビューの一本、
持っているだけでクラスの人気者になれた自分史上最強の一本、
受験生時代お守りのように大切にしていた一本。
そんな誰しもが持っている、思い出のシャープペンと、
シャープペンにまつわるストーリーをお届けする連載
「 #忘れられない一本 」。
ぺんてる社員がリレー方式でお届けしていきます。
第6弾は、ぺんてる入社12年目の、飯塚さん。
あなたの忘れられない一本は、なんですか?
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わたしはマーケティング部でシャープペンの担当をしている。
担当である以上、どの製品にも変わらない愛情を持って接してきた。
と言いたいところだが、
どうしたって贔屓してしまう、かわいくて仕方ないシャープペンがある。
それがわたしにとっての忘れられない一本。
みなさんはオレンズというシャープペンをご存知だろうか?
「ペン先から芯を出さずに書くことで、芯が折れない」というトンチみたいな特徴を持った製品だ。
そのシリーズの中に、0.2ミリという超極細の芯径が存在する。2014年に発売され、超極細なのに折れない機能が話題となり、異例のヒット。今や各社から発売されている「折れない系シャープペン」の先駆けだ。
わたしとオレンズ0.2ミリの出会いは最悪だった。
今から4年前、マーケティング部に配属されて2年目の春、同僚の異動に伴い担当替えが行われることに。ノートの罫線なんて気にせずに、大きくノビノビとした文字を書くことが好きだったわたしは、密かにゲルインキボールペン「エナージェル」や「サインペン」の担当を狙っていた。どちらも濃くはっきり書けるのが特徴のペンだ。しかし、上司から言い渡された担当製品はシャープペンとシャープペン替芯…。
高校卒業を機にすっかりシャープペンからは遠ざかっていた。
消しカスは出るし、ハッキリとしないあのシャープペン特有のグレーの筆跡も、硬い書き味も、なんだか不自由な感じがして、大学に入ってからは主にボールペンを使うようになった。シャープペンを使わない自分が少し大人になったようで、そんな優越感もあったと思う。
そんなわたしがシャープペンの担当になったわけだ。
せっかく担当になったからにはシャープペンを使うところから始めようと、当時社内で絶賛売り出し中だった「オレンズ」、その中でも最も特徴的な超極細「0.2ミリ」を相棒に選んだ。
新しい相棒とノートを手に会議に参加、メモを取り始めたのもつかの間…
ん?
急に書けなくなってしまった。
慌ててノックをすると内部からなんだか鈍い嫌な音がする。
え?
先金を外して中を確認してみる。細かく砕けた芯が出てきてしまった。
なにごと?
会議そっちのけでオレンズ0.2ミリと格闘。結局手が真っ黒になっただけで、会議時間内に書ける状態に戻すことは出来なかった。
社会人にもなってこんなに手が真っ黒になるなんて…!(正直むかついた)
芯を詰まらせる、というオレンズ0.2ミリの洗礼を受けたのだ。
そう、超極細の0.2ミリは使いこなすのにコツがいる。
担当じゃなかったら、すぐに使うのをやめていただろう。しかしわたしは担当なのだ。何とか担当者使命を奮い立たせ、オレンズ0.2ミリと仲良くなるために、とにかく使い倒すことに決めた。製品の良さをユーザーさんに伝えるには、まずは担当であるわたしがその良さを理解しないと。
(正直うまく使いこなせない自分も悔しかった。そう思わせる不思議な力がオレンズ0.2ミリにはある。)
まずは超極細0.2ミリの使用機会を増やすために、手帳兼ノートを小さいサイズのものに買い替えた。手帳部分はマンスリーしかない強者だ。それからの打合せや会議やセミナーなどには、この使い慣れない1冊と1本で臨んだ。
そして、実際にオレンズ0.2ミリを使っているユーザーさんがどのように感じているのか、SNSを使って調べることを日課にした。通勤時間など、暇さえあれば検索欄に「オレンズ」「0.2 シャーペン」などと入力した。
「オレンズなのに折れるじゃん」
「芯が詰まって使い物にならない」
などなど、予想通りの感想がたくさん出てきて、そうだよなーと共感した。
一方で、すごく好きでいてくれる人も一定数いることがわかった。
「オレンズ0.2ミリしか使えない身体になってしまった」
「これなしだともう絵が描けない…」
「とにかく使ってみて!!!」
そんな人たちは決まって驚くほど熱量が高かった。なるほど、こんな声もあるのか。
さらに見ていくと、0.2ミリで書いた文字や線や絵がアップされているのを発見。
0.2ミリで描かれた繊細で美しい髪の毛の線、びっしりと文字で埋め尽くされたノート、消しゴム判子の下書きという思いもよらない使い方をしている方もいる。どれも印象的だった。
こうしたユーザーさんの熱量や実際に書かれたものに触れるたび、オレンズ0.2ミリの可能性を感じ始めていた。
その頃、オレンズの進化版「オレンズネロ」の発売を控え、特設サイトを開設するための準備をしていた。オレンズネロは、1回のノックで芯が出続ける「自動芯出し機構」を搭載した、ぺんてるのシャープペンのフラッグシップモデルだ。
シャープペンの開発拠点がある埼玉県・吉川工場に足を運んで、開発部門の数名にインタビューをした。たくさんの興味深い話を聞くことが出来たが、いちばん印象に残ったのは、みな0.2ミリという芯径にこだわりと誇りを持っているということだ。ぺんてるにとっての0.2ミリは、今から47年前の1973年に「スライド02」を発売して以降、廃番を繰り返しながらも諦めずに挑戦してきた芯径なのである。高い技術も必要だし、当然コストがかかるにも関わらずだ。実際、いま超繊細で扱いが非常に難しい0.2ミリの替芯とシャープペンを生産し、販売出来ているのはぺんてるだけだ。
諦めずにこだわりを持って、唯一無二の0.2ミリを作り続けてきたからこそ、熱量の高いユーザーさんと出会うことも出来たのだ。
一気に愛着が湧いた瞬間だった。
オレンズ0.2ミリと毎日を過ごし、徐々に仲良くなってきたわたしは、芯を詰まらせることも少なくなった。最初はあんなにむかついたのに、普通に使えている。むしろ、0.2ミリならではのキリッとしたシャープな線や、ノック1回で書き始められるスマートさに魅了されていた。あんなにノビノビ大きな文字で書くことが好きだったのに、小さな手帳に細かく文字を書いて紙面が埋まっていくことに達成感すら感じていた。
それに、たまに太い芯径のシャープペンやボールペンを使うと、違和感がすごい。文字がぼんやりして見えるようになっていた。
**もしかして、わたしも0.2ミリしか使えない身体になっている…!?
**
発売から3年ほど経った頃、オレンズ0.2ミリは、発売当初の勢いがすっかり落ち着いてしまっていた。その繊細な性質さゆえ、万人受けする製品ではないためだ。当初のわたしのように、むかついて使うのをやめてしまった人も多かったのかもしれない。担当でもないのに、折れたり芯を詰まらせても根気強く使い続けてくれる人がどれだけいるか…それは想像に難くない。国内営業本部内でも0.2ミリに対しては半ば諦めムードが漂っていた。
すっかりオレンズ0.2 ミリに魅せられたわたしは、この状況が悔しかった。
とても繊細で扱いが難しく使う人を選ぶが、そこを理解した上で正しく使えば、最強のシャープペンなのだ。ぺんてるが世界に誇る技術が、使いづらいだけのシャープペンというレッテルが貼られたままでいいのか。この状況を放置すれば、いずれは廃番だ。
気難しくて誤解されやすいけど、ものすごいポテンシャルを持ったこの子を何とかしてあげたい!
この子の良さは全員に分からなくてもいい。
でも、**もっとこの子の魅力に気付いて、深く愛してくれる人が増えてほしい!!
**
その一心で、他の製品とは比べ物にならないくらいの、特別待遇(えこ贔屓)を始めたのだ。その一部を紹介したい。
特別待遇(えこ贔屓)その1:擬人化してみた
まずは、オレンズという製品について正しく知ってもらうこと。
折れない、と謳われると、どんな使い方や扱い方をしても折れないと思ってしまうのは仕方のないことだ。そこで、0.2ミリがどれだけ繊細で、扱いに気を遣う必要があるかを明らかにすることで、最悪な出会いを回避出来るようにした。いちいち気にせずに使いたい人には、0.3ミリか0.5ミリを選んでもらえばいいのだ。それだけだと0.2ミリは単に面倒なシャープペンだし、興味を持ってもらえるはずがない。
そこで、0.2ミリにしかない魅力を伝えることはもちろん、ミステリアスで構ってあげたくなる、才能を秘めたキャラクターとして擬人化(シャープペンを擬人化!?)した。まずは興味を持ってもらうことと、使ったことがある人には愛着を持ってもらうことが狙いだ。
このキャラクター、とってもかわいいのにまだまだ知名度が低いので、ぜひオレンズのサイトを見てほしい。0.3ミリ・0.5ミリと明らかに待遇が違うのをわかってもらえるだろう。
特別待遇(えこ贔屓)その2:オレンズ0.2ミリのオレンズ0.2ミリによるオレンズ0.2ミリのための特設サイトを作った
擬人化だけでは、オレンズ0.2ミリを使うとどんなことが出来るのか、どんな可能性が広がるのか、オレンズ0.2ミリの魅力は何なのかを伝え切れていないと感じていた。
そこで思い出したのが、SNSで見つけた0.2ミリユーザーさんだった。実際に愛用しているユーザーさんの使用方法や作品を見てもらうこと、そして偏愛とも呼べるような熱量の高さを知ってもらうことが魅力を伝える最善の方法だと考えた。
かつてのわたしがその熱にあてられたように。
そこからは0.2ミリユーザーさんにひとりひとりお声がけをしたり、ツイッターアカウントを使って我こそはという方を募集した。
結果集まった30人分の使い方とコメントをまとめて、特設サイト「知られざる0.2mmの世界」を作った。
ひとつの製品のひとつの芯径だけで特設サイトを作ることは極めて異例だが、それを許してもらえたのは、わたしの愛(親バカ心)が周りに伝わったからなのかなと思っている。
これらの特別待遇プロジェクトによって、どれだけの方にオレンズ0.2ミリの魅力を伝えられたかはわからない。
しかし日課のSNSチェックでは、ネガティブな意見よりもポジティブな意見が増えてきたように感じている。何よりまだ、廃番にはなっていない(嬉しい!)。
そして、わたしのオレンズ0.2ミリへの愛情はどんどん大きく、どんどん深くなっていくばかりだ。
人一倍手はかかるが、どんなに手をかけてでも守っていきたい一本。
この仕事をしていて、そんな一本に出会えたわたしは幸せものだ。
どうかオレンズ0.2ミリが、一人でも多くの人にとっての忘れられない一本になりますように。
これからも、しっかりと「えこ贔屓」をしながら、愛情深く見守っていきたいと思う。