親の陰謀論で苦しむ子供たち(17歳コトさんのケース)

“自由な選択が与えられない関係を、愛と呼んではいけない” M Scott Peck

母親を陰謀論で失った」を書いて以来、Buzz Feed Japan様で記事にして頂くなどの機会も頂け、いろんな人のお話をお伺いすることができた。

「いまの私と父親がまったく同じ状況だ」、「友人がスピリチュアル系陰謀論を話すようになり困惑している」、「配偶者が子供に反ワクチンを説いている」など。

その中でも特に難しいと感じたケースが、「親の陰謀論で苦しむ子供たち」だ。

20歳を超えればみんな成人だ。成人同士だったら人間関係の問題も、当人同士でなんとかすればいい。

しかし、被害を受けている側が子供であった場合、「本人同士でなんとかしなさい」は通じないだろう。

そのような「子供が苦しんでいる」ケースは、私たちの社会に何を突き付けているのだろうか?私たち大人ができることは何だろうか?

それを考えるきっかけになればと思い、あるケースを紹介したい。


コトさん(17歳)のケース

コトさんは、知的な印象を与える高校生の女の子だ。
的確な受け答えや多彩なボキャブラリーからは、彼女の自頭の良さを感じる事ができる。

しかし、いくら頭が良いとは言え、同居している母親が陰謀論ばかりを口にするというのは、17歳の彼女にとっては酷な状況だ。

「コロナ関連の話になると、『あの怖い母が戻ってくる』と思い、とても恐ろしいです」

コトさんのお母さんが、不思議なことを言い始めたのは1年半ほど前だ。
「ニュースは目障りだ!デマカセだ!」そう言い始めた母親は、コトさんに地上波の番組を見せなくなった。代わりにyoutube動画をずっと流していた。

「前のお母さんじゃない・・・」コトさんは恐ろしくなった。
それでもコトさんは何とか平静を装って母親との関係をつづけた。

コトさんはワクチンに対して特別な思い入れはなく、「メリットがあるなら受けようかな」くらいにしか思っていなかった。
しかしコトさんのお母さんは強く拒否する。それをコトさんにも強要する。家に届いた接種券もいつの間にか無くなっていた。


「コロナ以外の話をする母はいたって普通なんです。外出時はマスクもするし、検温も消毒も、きちんと社会のルールに従ってます。

家のなかで、少しでもワクチンやコロナ関連の話になると、それはもう大変で・・・。甲高い声で一気にまくしたてるんです。

そんなときは、『この家に居ても辛い事ばかりだ。ここに居たくない』と考えてしまい、悲しくなります」


コトさんはお母さんとコロナ関係の話は避けるようにしている。高校の夏休みが始まったいま、お母さんを刺激せぬよう極力 自室に籠るようにしている。コロナが終息し、母親が例の甲高い声でまくしたてる嵐のような時間が過ぎ去るのを、じっとやり過ごそうとしているのだ。


「もう正直言って、コロナの話自体が嫌です。それが人間関係に溝を作ると思います。学校でも、同級生がワクチン関係の話などをし始めると、身構えてしまいます。

『ワクチンなんか打ちたくない』って言う人も、『ワクチンこそが正義だ』みたいに言う人も、両方うんざりです。

そこに科学的根拠があろうがなかろうが、自分の見解を人に押し付けるべきではないと思います。

それで苦しむ人がいる事は、陰謀論を語る人たちにも、陰謀論を語る人を敵視している人たちにも知って欲しいです」


本来であれば、子供が最も信頼でき、守ってくれる存在である親が、子供を偏った意見で苦しめる。

あまつさえ、デマ的な要素を含んだ陰謀論で。

自活する術を持たない子供たちは、その嵐が過ぎ去るのをただ待つしかない。そんな辛い話が、この現代の日本にあるのだ。


共依存としての陰謀論

ここでは私が直接見たわけではない、SNS上で目撃したケースをご紹介したい。

地方で行われた あるイベント(コロナ/ワクチンとは無関係)の壇上に、ひとりの女の子が司会者のマイクを奪い、「コロナは茶番」、「今は情報戦争中」、「ワクチンを打ったら死ぬ」と聴講者に向かって訴えている音声データがSNSに公開された。

司会者も聴講者も困惑している。それもそうだ。まったく関係のないイベントで、年端もいかぬ女の子が急にステージに上がり、デマを声高に叫ぶからだ。女の子はすぐに司会者になだめられ、ステージから降ろされて事なきを得た。

私は当初「なんでこの音声データが流出したんだ?聴講者の誰かが録音してネットに晒したのか?子供に対して思いやりがないな」と批判的に感じていた。

しかし、なんとその音声データを録音し、ネットに公開したのは、そのステージに上がった女の子の母親だった。親子で「コロナ系陰謀論」を信じていたのだ。

常識のある保護者であれば、子供が周りの制止を振り切ってステージにあがり、勝手にマイクで発言するなどしたら、その行動を咎めるだろう。
しかし、この母親は自分の娘にそれをさせ、録音し、ネット上に自慢げにUPしていた。


「怒りのスイッチが入った娘が、司会者のマイクを奪い、世の中に向けて説きました!これがそのときの音声です!」

嬉々としてSNSで娘の声を晒す母親に対し、

『娘さんの勇気に感動しました』

『本当に素晴らしい、大人も見習わなければ!』

『親子そろって茶番を見抜けているなんて羨ましい!』 


無責任な称賛の声がリプ上には溢れていた。これがエコーチェンバー現象だろう。どれだけ荒唐無稽な主張でも、自分の考えに近しい人が周りにいれば(置けば)どんどん考え方は先鋭化していく。

ここで問題なのは、
子供が制止を振り切ってステージで話す ⇒ 母親がそれを「自分のアカウント」で拡散する ⇒ 母親のエコーチェンバーの住人たちから「母親が」賞賛を受ける、という構図だと考える。

その音声から察するに、かなり若い女の子のようだ。物事の判断がついていなくても不思議じゃない。

これは考え過ぎかもしれないが、もし彼女が「お母さんが喜んでくれるなら」と勇気を振り絞ってステージに上がっていたらと思うと、胸が締め付けられる想いだ。


自分で生活を成り立たせることが難しい子供が、保護を得るため陰謀論を支持する。それを保護者は嬉々として、自分のエコー・チェンバー内で拡散する。

そのような共依存のための陰謀論も、世の中にあるのかも知れない。


選択の自由

私ぺんたんは、先日モデルナワクチンの一回目を受けた。

打った瞬間は「え、もう終わり?」と呆気なかったが、その日の夜38度を超える高熱を出した。ワクチンを接種した左腕には痛みが走り、身体が重くベッドから起き上がる気になれなかった。翌々日には熱も下がり、何事もなかったのように治ったので、それはそれで拍子抜けしたが・・・

そこで改めて思ったのだが、「ワクチン打つも打たないも、人に強要していいもんじゃない」という事だ。私はリモートワークができる会社員で子供もいない。

ワクチン打って数日間 使いものにならなかったとしても、生活に大きなダメージはない。

もしこれが・・・

「シフト制で働くフリーターの方だったら?」
「体力を必要とする、特に腕を使う仕事をしている方だったら?」
「仕事と両立するシングルマザーの方だったら?」

その他いろいろな事情はあるだろうが、直後の副反応だけを考えても、ワクチン接種を躊躇することは至極当然なことだと考える。

そういう人たちに対して、「集団免疫を阻害する自分勝手な人たち」だったり、「統計学的なメリット・デメリットを比較できない人たち」のようにラベル貼りする。

これは悪ではないか?ワクチンを打って、副反応に苦しんでみて、心からそう思う。

『ワクチンなんか打ちたくない』って言う人も、『ワクチンこそが正義だ』みたいに言う人も、両方うんざりです。
そこに科学的根拠があろうがなかろうが、自分の見解を人に押し付けるべきではないと思います。

ワクチンを接種する前の私も、一方的な考えを持っていたかも知れない。「ワクチンを進んで打つ事こそが、このパンデミック禍の正義だ」そんな風に思っていた。

私たちが中庸を失い、一方に偏ったことを主張してしまうことは、コトさんのようなケースを増やすことに間接的でも繋がってしまうのではないだろうか?

精神科医でベストセラー作家でもあるM Scott Peck氏によると、愛のある行為とはその人の「選択の自由を奪おうとしないこと」だそうだ。

ワクチンを打つことも、その人の選択の自由。ワクチンを打たないこともも、その人の選択肢の自由。

30を超えた大人であるはずの私が、十代の女の子からそんな教訓を改めて教わった。


これは立派な社会問題ではないか?

ここで冒頭の「問い」をもう一度。

「親の陰謀論で苦しんでいる子供がいる」

この事実は、私たちの社会に何を突き付けているのだろうか?私たち大人ができることは何だろうか?


ワクチン反対派であろうが、ワクチン推進派であろうが、
コロナは茶番派であろうが、コロナは現実的な脅威派であろうが、
困っている子供を見るのは、同じく心が痛むはずだ。


この問題はとても根が深い。

コロナ禍で「インフォデミック」という言葉が広く知られるようになった今、心理学の専門家、青少年保護の専門家、行政、メディアなどが力を合わせて、この問題をクローズアップできないだろうか?

今回紹介したコトさんのように、自分で状況を整理して人に伝えることができる子供など、少数派ではないか?

お父さんとお母さんに、いつもとは違う不気味な「なにか」を感じてはいるが、ただ困惑するだけの子供が大半ではないか?

そのような子供たちが、今あなたの近くにもいるかも知れない。
わたしたち大人にできる事はあるだろうか?それはなんだろうか?

是非、皆さんにも一緒に考えてもらいたい。


陰謀論で苦しんでいる人たちの心が少しでも穏やかでありますように。


<アーカイブ>

第1話:母親を陰謀論で失った

第2話:母親を陰謀論で失った(対策編)

第3話:母親と陰謀論を受け入れて生きていく(ケヤキさんのケース)

第4話:母親を陰謀論から救い出した(ハナさんのケース)

*メールアドレスを作ってみました。inbouronhelp@gmail.com
身近な人が陰謀論やデマにはまってしまい、誰かに話を聞いて欲しい、アドバイスが欲しい、そのような方はメールを送ってください。
こっちは本業ではないのですぐには返信できないし、話を聞いてあげるくらいしかできません。
でも「助けはあること」を知って欲しいと思います。心から応援しています。

ぺんたん

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