母親を陰謀論で失った(対策編)

今年の母の日はつからった。

正確に言うと、その数週間前から気が重たかった。母に連絡すべきかどうか、ずっとモヤモヤしていた。

今でも「お母さんの声を聞きたい」という気持ちと「あんな非常識的な人間とは縁を切りたい」という気持ちが半々だ。

数年前、一緒にお茶をしているときに母から「あんたは小さい頃から見栄っ張りでねぇ~『僕が大きくなったら、このお店のもの全部お母さんに買ってあげるからね!』って母の日に私に言ったのよ~」と教わった。
そう懐かしそうに言う母は嬉しそうだった。

結局、今年の母の日は何もしなかった。覚えている限り、はじめての母の日スルーだ。

事件があってから私はネットや書籍で陰謀論、デマ情報、新興宗教などの情報を読み漁った。母が聞いていたこと、見ていたことを追体験しているような感覚だった。

そして、多くの人が現在進行形で大切な人を陰謀論やデマ情報で失いかけていることを知った。

Twitter上でやり切れない想いを吐露している人たちと直接Zoomでお話をさせて頂く機会も得た。

こんなことを言っては元も子もないが、私のケースなどライトな方だ。

小さなお子さんを育てながら、配偶者が反マスク活動でずっと家に居ない方。同居している両親が二人とも陰謀論にずぶハマりしてしまい、自分の部屋にこもるしかない方。お腹に赤ちゃんがいて最もサポートを必要としているにも関わらず、ずっと陰謀論を話し続けるパートナーがいる方


これを読んでる方で、いま、まさしくこの瞬間に家族や大切な人との関係で悩んでいる人もいるかもしれない。
そういう人たちの力になれることを願って、一つの記事を紹介したい。私の反省も併せて記載するので、もし良ければ参考にして欲しい

この記事は、主にアメリカの心理学やコミュニケーション学の専門家(大学教授)が、陰謀論を信じてしまった家族や友人との接し方についてアドバイスをくれるものだ。
*ちなみにコロナに関する陰謀論やデマ情報の多くはその元が欧米にあるようで、その対策に関する情報も英語が多い印象


The New York Tiems 2020年10月25日の記事 「陰謀論を信じてしまった家族や友人との接し方」 by Charlie Warzel
https://www.nytimes.com/2020/10/25/opinion/qanon-conspiracy-theories-family.html



原則1.陰謀論者を論破することは極めて困難と知る

「デマ情報への反論やファクトチェックは、それらを信じてしまっている人たちに対しては逆効果になることが多い。なぜならその人たちの価値観の一部になってしまっているケースが多く、本人は理論的に理解する事はなく『攻撃されている』と感じてしまうからだ」

私も母に対して何度も議論を吹っかけてしまった。「そんなこと普通の人は信じるわけないでしょう、だってXXXとかYYYのデータがあるよね?」みたいな形だ。
今にして思うと、母は私から価値観に攻撃を受けていると感じてしまったのだと思う。
もし誰かがあなたに「正月にお参り行くとか意味わからない、キリスト教では普通の日扱いだよ?」と言われたらきっと不快な筈だ。


原則2.議論をしない(特にオンライン上では)

「昨今、ほとんどのデマ情報のソースはインターネット上だ。貴方の家族や友人がネット上でそれらを広めるのを見る事があるかもしれない。しかし文字だけでコミュニケーションを取るのは得策ではない。最低でも電話をする、そして議論しない事を心掛ける。優しく肯定的に話をし、相手のガードを下げることが出来れば、有害な情報から離れてくれる可能性が高まる」

私は母とよくLINEしていた。私は絵文字やスタンプなどをほとんど使わない。「PCR検査増やして感染者数を大きく見せてる?いやいやないでしょ。はい、これリンク」とかならまだマシな方で、たまに「なにこれ、キモいんだけど」みたいな短文での返事もしてしまっていた。
私が母を心底愛しており、本当に心配しているんだという気持ちは伝わらず、小バカにしているように捉えられたかもしれない。それも無理はない。文字だけだし。
やり直しが出来るのであれば、母からの陰謀論系のLINEには一切返信せず通話に徹する
事実、私の妹は母のLINEに一切返事をしなかった。それが功を奏したのか、妹は未だに母との関係を続けている


原則3.去り際を知る

「悲しいかな、陰謀論を一度信じてしまった人たちに対して私たちに出来ることは少ないことを知るべきだ。陰謀論やデマ情報を信じる人をあなたの近くに置く事は、人生に不安定さをもたらす。暴言を吐く、暴力的なそぶりを見せるなどしたときは、一刻も早くプロの精神科やソーシャルワーカーに任せ、あなたは去るべきだ」

今日も母に会いたくなって母のFacebookページを訪れる。自分によく似た顔をしている女性の画像がある
いまの絶縁状態は辛いし、悲しいし、寂しい。でも、これは私にとって正しい状況なんだと信じている

「家族だもん、大丈夫だよ。俺は絶対にお母さんをあきらめないよ」
喧嘩の前、私は妻に宣言していた。しかしいつもイライラしていた。

母からLINEや電話がまったく来ない暮らしを今や半年。さみしいけど同時に心の平穏を感じている。
私の去り際は、あの電話の日だったのかも知れない。もっと早くても良かったのかも知れない。


原則1,2,3を読んでみて、改めてそれらがどれだけ難しいことか私にはよく分かる。陰謀論やデマによる洗脳がどれだけ強力で強烈かも、身をもって知っている
少しでも今この問題を抱えている人の気持ちが穏やかになりますように

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