38.スタイルの良いクマ
皆さん、「スタイルの良いクマ」と聞いてどんなクマを想像しますか??
クマではなく、人間だったら容易に想像がつきますよね。
顔がこぶしのように小さく、手足がスラっと長い、いわゆるモデルのような体型がスタイルの良い人間だと思います。
では、クマの場合はどうでしょうか。
ご存知の通り、そもそも人間とクマでは体つきが全く違います。
ちなみに僕は「スタイルの良いクマ」と聞いて、はじめに、筋肉隆々の逞しいクマを想像しました。
そして次に、毛並みが艶やかで気品のあるクマを想像しました。
そもそもクマは人間とは違い、4足歩行の動物です。
まさか人間と同じような、10頭身でモデル体型の2足歩行クマなど、想像だにしませんでした。
のんびりとした休日の昼下がりのことです。
妻は思い出したかのように言いました。
「そういえば、お世話になってた大学の先輩にお子さんが産まれたんだよね~。何かプレゼントしたいなあ。」
「そうだね~。何が良いかな~。」
僕が何気なく相槌を打つと、妻はひらめくのです。
「そうだ!作っちゃえばいいんだ!」
それからの妻の行動は、速く的確なものでした。
オーガニックコットンの生地を買いに行ったかと思うと、ミシンとハサミを使い黙々と作業を始めるではありませんか、、!
獲物を狩る前の野生動物のようにキラリと輝かせた目つき、楽器を弾いているかのように繊細かつ高度な手つき。
それは、まさに創作に没頭している人間の姿でした。
みるみるうちに布が形を成していきます。
出来上がったのはクマのフード付きブランケットです。
クマの耳がついた可愛いフードに、体をやさしく包み込むようなオーガニックコットンのブランケット。
子供が着れば、無敵な愛くるしさが生まれること間違いなしの作品です。
「うん!自分でもよくできたと思う!」
妻はいつもの通り笑顔です。
「そうだね。さっそく包装しようか!」
「……いや。ちょっと待って。」
妻の笑顔が消え、鋭い眼光で僕を見つめます。
「私は、もっと、できる!」
そう言い残すと、またもや黙々と作業を始めるではありませんか。
「集中するから、ちょっと向こうに行ってて!!」
妻は僕を部屋から追い出しました。
途方に暮れた僕は、のんびりとした休日を送るべく、コーヒーを淹れて休憩しようと思いました。
時間がまったりと流れます。
平日の忙しない日々が嘘のように感じ、あとは小鳥のさえずりなんかがあれば完璧だなあ。
なんて思っていた矢先です。
「きゃあああああああああ!!!」
妻の部屋から大きな叫び声が聞こえました。
僕は考えるよりも先に動いていました。
扉を勢いよく開き、妻の安否を確認します。
「どうした!なにがあった!大丈夫か!?!?」
妻はひどく怯えた様子で、何かを指さしています。
震えた指が、事態の深刻さを物語っていました。
「へ、変なのが、できた、、、!!」
変なの??
僕は恐る恐る、指のさす方向を確認しました。
なんと!そこには、いるではありませんか!
「スタイルの良いクマ」が。
パリコレモデルの頭身なんて何のその。
エバンゲリオンやガンダム、ひいてはキャプテン翼のキャラクターの頭身を彷彿とさせる、ナイススタイルのクマのぬいぐるみがどっしりとした2足の脚で立っているではありませんか!(オーガニックコットン製、手触り抜群)
妻は小さな声で、呟きます。
「頭身、間違えちゃった。」
灰になる寸前の妻を見て、僕はナイススタイルのクマに腹が立ちました。
こんな奴が生まれたせいで、妻の心が折れたじゃないか!
目に力を入れて、クマを睨みつけます。
ても、クマは動じません。
微動だにせず、闇よりも暗い眼差しで、僕を見返します。
こちらの感情を一切汲み取ろうとしないナイススタイルクマに対して、僕は、思うのです。
「こ、こいつは、さ、サイコパスだ、、、!!」
きっと、こいつは他人の家の冷蔵庫を躊躇なく開けることができるだろうし、彼女がデートで一張羅を着てこようが平然と「その服、似合ってないね。」なんて言ってのけるだろう。
幼い頃から、友達に借りた消しゴムの角を迷わず使えただろうし、短くなった鉛筆も難なく捨てられただろう。もちろん、ロケット鉛筆に心を躍らせたこともなかっただろう。
そんな奴を目の前に、僕は立ち尽くすしかありませんでした。
「くそう、何なんだ!!このクマは!!」
苛立ちをあらわにしている僕の肩に妻はそっと手を置き、言います。
「だから、頭身を間違えちゃったんだって。」
僕と妻は大きくため息をつき、天井を見上げました。
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