中学生とパラダイムシフト

なんでこの時代に生きているんだろう、とふと思うことがある。原始時代に生まれてた可能性だってあるし、なんなら時代が現代であっても、すぐたたかれて死ぬ蚊とかに生まれていた可能性もある。蚊が抽象的な思考をしなさそうなことはさておき、この時代に人間に生まれてよかったなと心底思いたいがためにこんな思考をする節はある。

しかしたまに、この人がもしもあの時代に生きていたらどうだっただろう、と考えると感慨深い。私には中学時代友人がいた。絶対に仲良くならないだろうと思っていたらめちゃくちゃ仲良くなってしまい、今でも連絡を取っている。その人はビートルズが好きだった。家族の趣味で一昔前の洋楽やポップスを良く聴くみたいで、歌詞より音が好きだから英語はできない。ファーストフードの問題点とか世界の政治情勢に詳しくて、勉強は嫌いだから社会の点数は普通。テストで高得点を取ることをゲームのように思っていた自分は、点数で測れない能力を持ち得る人がいること、学校で知り得ないことが人生を豊かにすることを、その人から初めて知った。自分の知りたいことを調べたり、社会を自分ごととして捉えたり、ほんとうのことを知ろうとしたり、そういう力は、成績上位者よりもその人の方がよっぽど持っていたし、それができるのが本当は真の「学ぶ人」なんだと思っていた。同級生の中で初めて尊敬した。それでも成績上位者は進学校に行き、その人は望んで普通の公立高に行った。世間はそれをどうとらえるか、もう見当はついている。

だから、もしも違う時代にその人が生まれていたら、その人らしく能力を発揮してすごいことをしていたかもしれない、と思ってしまう。凡人の中に埋もれていないで、さっさと発掘されてしまえと思っている。だけど社会に対して斜に構えているから、活躍するとかは考えていないかもしれない。

そんな人だが、一言で説明するなら「ビートルズを私に勧めてくれた人」だ。これだけ言っておいてビートルズが上回るのだから相当だと思ってほしい。これまでに耳をかすめたことがあった音楽を、作り手を把握し魅力に気づいた瞬間、これまでの人生は何を聴いて過ごしていたんだと思うほどに今が色づく。心地いいリズムと音とハーモニーに一瞬で夢中になった。その人はビートルズよりクイーンやエルヴィス・プレスリーが好きだったから満面の笑みではなかったけど、決して流行ではない音楽を共有したとき、良い友人であると確信したのだった。

ビートルズを知るということは、色あせない音楽を知ると同時に、いつか終わりが来るものを知ることでもある。ジョンがこの世にいないこと、ビートルズの新しい曲はもう出ないこと、リアルタイムで彼らに熱狂することは到底叶わない願いであること。卒業して別の高校になり、「連絡とろうよ!」と交換した手紙を何度も読み返していたころ、書店のワゴンでCDのセールをしていた。どれも古い、その中に何度も見た名前があった。The Beatles のRevolver。あの友達から借りた中にはなかったアルバム。古くて、安かったこのCDが、私が初めて買ったCD。帰って一番に聴いたのは、Eleanor Rigbyだった。

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