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推しの必勝祈願 初めての百度参りやってみた


ついに訪れた絶好のタイミング

2023年も残り2週間。将棋の応援(推し活)を通して今年もあちこちへ出かけ、たくさんの思い出ができた。
必勝祈願も推し活の一つとして、私が初めて百度参りした時の事をレポートにまとめたので、お時間が許せばお読み頂けたら嬉しい。

百度参りという言葉を聞いて、正しく知っているというかたは少ないだろう。
何しろ時代はDX(デジタルトランスフォーメーション。情報技術で生活を豊かに変革する)、タイパ(タイムパフォーマンス。様々な時短方法で効率化する)が浸透しているのに、100回もお参りするなんて…と思われても致し方無い。
実際私も時代劇などで白装束を着て髪振り乱して夜な夜な行う、呪術的なものだと勘違いしていた。

印象が変わったのが昨年第5回ABEMAトーナメントのチーム動画で、チーム豊島のメンバーである丸山忠久九段と深浦康市九段が、王位戦の挑戦者となった豊島将之リーダーの必勝祈願をされていたのを観てからだ。
撮影は東京都中野区の神明氷川神社で行われ、おそらく7月上旬頃だと思われる。宮司の方のご説明によると、古くは平安時代から行われていた風習で、本来なら願掛けには100日間連続でお参りするところを、急を要する願いの為に1日で行えるよう工夫したものだそうだ。
撮影日の気温は34°だったという。立っているだけで汗が吹き出そうだが、お2人の先生方は豊島リーダーの為にと暑さの中、文字通り一心に祈っておられた。
途中で端折る事なくガチで100回というハードなロケ内容に、深浦先生はたとえ弟子の佐々木大地がタイトル戦に挑戦しても百度参りは引き受けないです、と苦笑しながら仰っておられた。
今年大地先生は棋聖戦と王位戦のダブルタイトル戦を戦われたので、深浦先生は100回とは言わずとも、きっと必勝祈願をなさったことだろう。

本当に事前に知らされていないサプライズな企画だったようで、オンエアされてから豊島先生ご自身が驚きと感謝のポストをされていた。大ベテランお二人の応援がとても嬉しく、心強かったに違いない。

最後の一文、「暑い日が続くので、ファンの皆様はマネしないでください笑」は、お優しい豊島先生が心からファンの健康を案じて仰っておられるのだろうが、そう言われると余計に⁈やりたくなってしまうものだ。しかしこの時は実際にかなり暑い時期(7月)だったため、実行には移せなかった。

いつか機会があればチャレンジしてみよう、とずっと心に温めていたが、ゴールデンウィークの予定が直前に中止となり、思いがけず完全に空いた。豊島先生は今年も複数のタイトル戦挑戦に向けて重要な対局が続く。行くなら今しかないと思い立ち、車を走らせた。

加賀市・薬王院温泉寺へ

GWの交通渋滞に巻き込まれないよう、自宅近隣で百度参りできる寺社を探して見つけたのが、石川県加賀市の薬王院温泉寺だった。山代温泉の温泉街に位置し、奈良の東大寺建立を指揮したことで教科書にも出てくる行基上人が開祖の由緒あるお寺である。

百度参りは寺社によって百度石から本殿までの距離が違うので、場合によってはかなりの運動量になるらしい。長丁場になることを想定しランニングシューズを履いては来たものの、何しろ初体験なのでイメージが湧かない。丸山先生と深浦先生の大変さは見ていたので、どうしても100回出来なかったら無理せずに出来るところまでやってみようと決めた。

山代温泉街の中心に位置しているが喧騒は無い
迫力満点な仁王像のある仁王門

周囲を鎮守の森に囲まれ、すぐ側には四つ星の高級温泉旅館が立ち並ぶ、静かで美しいロケーションだ。到着したのがAM11時と、旅館のチェックインとチェックアウトのちょうど間の時間帯だったため、参拝客の姿もまばらだった。山門を抜け、目的の本殿を目指す。

緑に覆われた庫裏は静けさそのものだ
寺院の装飾品も加賀が誇る伝統工芸が見事で美しい

本殿に到着すると、さらに奥に階段を降りて距離20m弱の所にお目当ての百度石を発見した。石をくり抜いた中に木札が設置されており、上の段で1から10までを数え、10回終わったら下の段で10刻みで20、30と数えられるようになっている。参拝客は私ひとりだったので、これを使わせて頂くことにした。

ABEMAの番組内で宮司の方がご説明されていた通りに、ここを起点として本殿までを100往復する。
往復しても50mなら約5km、ウォーキングだと思えばどうって事ないよねと、その時は思った。しかし、実際に開始してみるとなかなかどうして、そんなに甘くはなかった。

ここを起点に、いざ百度参りへ!

気温24°、AM11時スタート

お賽銭は100枚用意すべきなのかもしれないが、急だったので用意できず、まとめた分を御布施として100回目に賽銭箱に入れる事にした。
作法としてお参り中は、あまりペラペラと話してはいけないそうだ。自分一人なので(逆にブツブツ独り言を言いながら百度参りしていたら絵面だけでも怖い)黙々と、お参りを繰り返した。

道中で雑念はよぎるものの、単純動作である事と、地味な暑さで心拍数が上がり、段々と集中していくのを感じた。
お参りを続けながら、この回数は人生の年齢と通ずるところがあるかもしれない、と思っていた。
25回目ぐらい、つまり25歳ぐらいの頃まではとにかく早く結果が欲しくてたまらない。自分もそうだった。恋愛成就したかったり、仕事で昇格したかったり。じわじわと体力が奪われる為、余計に早く終わりたい、と気持ちが前のめりになっていた。

50回目あたりで一連の動作に慣れてきたこともあり、やっと心にも余裕が出てきた。あぁ、私と同い年か、人生100年だとすると半分折り返したんだなとしみじみ考えていた。
60回目からは将棋AIの評価値になぞらえていた。よし、60%なら指しやすくなってきた、あとは100%まで少しずつ優位を拡大しよう、と。

長い時間をかけて黙々と行う事で、心のデトックスにもなっていた。ヨガでいうと太陽礼拝にも似ているかもしれない。単純動作を繰り返すので、段々と他の事に意識が向かなくなっていく。ここに来るまでには色々な悩みでざわざわと波立っていた心が、いつのまにか静まっていることに気がついた。

PM12時30分、百度参り終了

スタートから約1時間30分。最後の参拝で御布施を納め、深く一礼して終えた。とても清々しく、100回やり切ったんだという達成感があった。
普段デスクワークの私にとって、1時間30分でもウォーキングとはいえ運動し続ける事は大変だったが、体力の無い私でも頑張れば出来るんだという自信にもなった。

ちなみに寺社巡り好きな私がこれまで一番きつかったのは、香川県の金刀比羅宮本宮だった。785段の石段、海抜251mはちょっとした登山(登山好きのかたには鼻で笑われるだろうが日頃運動不足の私には大いにこたえた)レベルだったので、帰りの石段では筋肉疲労で産まれたての子鹿のように脚がガクガク震えた。
※金刀比羅宮本宮参拝のレポートはこちら

お参り後には、隣接する「山代温泉 総湯」(共同浴場)でひとっ風呂浴びるという、我ながら観光モデルコースのようなチョイスになった。泉質は無色透明で温泉特有の香りなどのクセも無く、豊富な源泉掛け流しのため、季節にもよると思うが湯温は熱めだった。42〜43℃くらいはありそうだ。

サウナや露天風呂は無く、湯船と洗い場だけというオーソドックスさがノスタルジックでもある。
かなりしっかりと温まるのを感じたので、特に運動後すぐに入浴する場合は、湯あたりしないようにこまめに水分補給しながら、無理せずに楽しんで頂きたい。
温泉玉子やソフトクリームも販売されていて、温泉情緒を味わう事ができた。

後日判明 痛恨の勘違い…

100回達成に気を良くしていたら、後日よくよく調べてみると、こちらの百度石は本殿との往復用ではなく、この隣に写る「あいうえおの小径」という石段用だったと気がついた。私の早とちりだったのだ。この石段を100回登り降りすると願いが叶うという言い伝えがあるらしい。
確かにこの石段なら数十段あり、高低差もあるので100回はかなりの難関だ。だから本殿までの距離が短かったのか…自分に都合良く解釈しては駄目だと反省しきりだった。
しかし参拝した事には変わりないので、御本尊の薬師如来様もきっと温かい目で私のお参りを見守ってくださった事だろう。

勘違いとはいえ、百回数えさせて頂いたことに感謝

百度参りは心を整える動的瞑想

今回必勝祈願の百度参りをやってみて、これは他の願いごとの時にもお勧めしたいと思えた。
悩み事をしている時というのは、大体がじっと座ったり寝転んでいたりと動かない時が多いのではないだろうか。考えるな、動き出せ、とブルース・リーが言いそうな言葉が頭に浮かんだ。

どうにもならないと感じる時でも、実際に体を動かす事で打開策が閃いたり、気持ちが前向きになったりもする。
自分で決めたお参りの目標回数を達成できた事自体が大切で、たとえ願いが叶わなかったとしても、一生懸命に取り組んだ記憶と、穏やかに整った心が、明日からまた頑張ろうと思える活力になるはずだ。

さて、次の機会は…再チャレンジはここぞという願い事ができた時に、なるべく過ごしやすい季節に考えたい。
くれぐれも皆様は暑さ寒さの厳しい中ではマネされませんように笑。

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