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救われない夢を見て

地獄のような夢を見た。

寝る前から寝苦しくて、寝る前から寝汗をかいてパジャマも下着も着替えてから眠りについたけれど、やっぱり寝苦しくて、何度も目を覚ました夜だった。

夢の前半はおぼろげな記憶しか残っていない。途中からは鮮明に。



母親とデパートのようなところにいて、父親と合流して家に帰ることになっていた。父を待っているうちに、母はどこかにいってしまう。私も何かを見たかったのだけれど、父のもとに居なければならない気がして、そう思っているうちにいつの間にか父と家にいる場面に切り替わる。

どうしてか極端に不安定になっている父。やたらと話しかけてきて、自分は精神病なのかもしれないなどと言っている。そうだねそうだねと反論も納得もせず受け流しながら、必死に母を待つ。

姉は暢気に自室でラジオを録っていた。傍らには男性。おそらく旦那さん。

ようやく帰ってきた母に私は詰め寄った。どうして父を待たなかったのか。私だって見たいものがあったのに、どうして自分勝手に動くのか。私が父についていなければならなかったじゃないか。

母も私に合わせるように激昂して、私はこれを見たかったのだから仕方ない、などと言い、首元には見たことのない趣味の悪いシルバーアクセサリーがついていた。

出ていけと言われたのか、出ていくと言ったのかはわからないけれど、私は壊すような勢いで財布とスマホを掴み、ポケットに入れて家を飛び出した。いつも通り走っても走れない世界。

追いかけてくる母が見えて、なぜだか傭兵たちも列を成していて、走れないままに私は走った。

もみくちゃになりながら必死にスマホの画面を操作する。求めているページになかなかたどり着かない。

公園につくと同時にようやく電話をかけることができた。こんな大変な状況でも、私は「無理なことは無理って言ってもらっていい」「断られることはわかってるけど、ただ伝えたかった」と無駄な前置きを忘れない。

「今から札幌に行きたい」

そう言いつつ公園の奥へと逃げながら、裏手の駐車場のほうに行けば彼女が来られる。彼女に来てもらおうと次の行動を考える。追いかけて引っ張ってくる見知らぬ誰かを振り払いながら、走る。

気が付くと傍らには小さい頃よく遊んだケイシが居た。

私の夢には彼や彼らがよく出てくる。中学に上がる直前だったか、ふとした私の発言を彼はからかって真似をしてきて、それに酷く傷ついた記憶がある。中学に上がってからはヤンキーとも言い切れない目立つ人になっていき、話すこともなくなった。

特に会いたいとも会いたくないとも思わない彼らが、なぜかよく出てくる。

電話口からは「来たらいい」と暢気な声が返ってくる。暢気な声のように聞こえる、真面目な声だった。

隣にいる彼が手を差し出したので、私はそれに縋り付いた。彼がケイシなのか札幌の人なのか、よくわからなかった。それでも私は必死に握っていたし、彼は確かに握って手を引いていた。

「こっちの方じゃ逃げにくいから、トロケイシのほうに行こう」

トロケイシはその公園の入り口にあるモニュメント。私を探し回る人たちと視線が合わないように、下を向きながら手を引かれていた。

それなのになぜだか急に顔を上げてしまって、追手と目が合い、私は彼の手を離してまた走りだす。



そこで目を覚ました。台風の気配を少し感じる、雲の流れの速い空。気分が悪くなるほどの湿度。頭の重さ。おなかのずんとした痛み。

昨日から無性にパンが食べたいと思っていて、明日、雨風が酷くなければ買いに行こうと思っていた。雨風は落ち着いているけれど、買いには行かなかった。


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