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ようやく手放した荷物

たった今、私の部屋に残っていた彼の荷物を出してきた。B4ダンボール一つ分。

彼はお母さんと二人暮らし、私は一人暮らしなので、必然的に私の部屋に彼のものが増えていく。半年前この部屋で別れ話をして、冗談を言い合いながら彼の荷物を紙袋二つにまとめて、泣きながらハグをして、そして笑顔で手を振り見送った。

それでも残っていた彼の冬用の部屋着や漫画。そして彼に買ってもらい、お気に入りだったぬいぐるみ。どうしても処分できず、でも置いてると寂しくなるときがあるので、お返しして任せることにした。

お別れしてからも、何度かデートをした。私が彼のお店に行き、彼から連絡がきたことがきっかけで。いつものように映画を見たり、アウトレットに行ったり。ただ泊まることやキスやハグをしないだけ。毎日連絡もとっていた。

正直、別れてからのデートの方が気が楽だった。「これは好きじゃない」「あれがやりたい」と自分の気持ちを言えるようになっていた。彼との恋人という関係性が終わったからなのか、それとも別れ際の彼から感じた愛情を素直に受け取ることができたからなのか、どちらかはわからない。

終わりを決めたのは彼だった。1番の原因は、すれ違いだと思う。すれ違いで別れるとかあるのかと不思議に思っていたけど実際あるのね、とどこか他人事のようにも思えた。

終わりを決めたのは彼の方なのに、彼は泣いて、私を強く強く抱きしめて、しばらく離してはくれなかった。まるで、私が別れようと言ったみたいに。

彼が泣いているのを見るのは初めてだった。感情的になったり、感動したりで日頃からよく泣いている私は、どんなに感動的な映画を見ても泣かない彼に「最後に泣いたのはいつ?」と聞いてみたことがある。「覚えていない。覚えていないくらい前かな」という答えだった。その彼が、泣いていた。離してくれなかったのは、泣いているのを見られたくないからだったのかも。

きっと彼は別れたくないんだろうな。でも別れた方がお互い幸せになれると思ったんだろうな。そんな風に思って、こんなに愛してくれていたんだなとも思った。

だから彼との関係も、全てを終わりにしたくはなかった。恋人ではなくても、友達なのか、元仕事仲間なのか、形を変えて笑って話していたかった。

それでもあるとき思った。「恋人ができたよ」と彼から言われても、何も不思議はないんだな、と。そして、それを聞くのは嫌だ、と思った。あぁ好きなんだな。私はまだ彼のことが好きなんだ。それを痛いほど思い知らされた。本当に心臓が痛かった。

そんなに好きならヨリを戻せるように頑張りなさいという声が聞こえてきそうだが、私にはそこまで突き進めないひっかかりもあった。彼との感覚の違いやなんか。共通の友人から「彼はあなたとヨリを戻そうとしているよ」と聞いているのにもかかわらず、進めなかった。

恋人にも友達にも元仕事仲間にもなれなかった。

だから1ヶ月前、何気ない会話の途中で私は連絡を絶った。LINEをブロックし、インスタのフォローを外し、彼のアカウントでこれからも見てていいよと言われていたNetflixからもログアウトし、私は彼から離れることを決めた。

彼のお店に行くのもやめた。彼のお店は私が働いていたお店でもあるし、一番大事なお店でもあるから、そこに行けなくなるのはかなりきつい。居場所を一つ、失ったような気分だ。

彼は私のインスタを相変わらず見ているみたいだし、私のアカウントのDisneyDXを見ている。それに気がついてほっとしている自分もいるのだから、自分の弱さに呆れる。呆れつつも少しでも前に進みたくて、部屋に残っていた荷物をダンボールに詰めた。

喧嘩したわけでもなく一方的に関係を絶ってしまったので、手紙を添えることにした。思い返せば、中学の頃にも私はものすごく仲の良かった人たちから、一方的に関係を絶った。今まで言えなかった思いを全て手紙に書いて渡し、そしてさようなら。

最後にしか自分の気持ちを言えないなんて、相手に失礼な人間だなと思うが、それでもどうしても伝えたい思いがあるのだ。自分から離れるくせに、忘れないでともがいているみたい。

彼への最後の手紙は、なかなか書き終えることができなかった。途中で泣き出してしまったり、何が伝えたいかわからなくなってしまったり。書き終えても封ができず、そしてまた泣いて、自分はどうしたいのかをひたすら考え、そして考えることを止め、繰り返した挙句いつのまにか1ヶ月が過ぎてしまった。

レターセットはまるまる1つ使い切ってしまった。いまだにきっと私は彼が好きだし、彼となにか繋がりを求めているし、戻りたいとも思う。だけど、それで幸せになる自信もない。彼を幸せにする自信もない。答えは出せていない。

だから、ありがとうという気持ちと、私は頑張って生きているということ、そしてあなたの思いのままに生きてという願いを書いて終わりにした。うまくかけたかどうかはわからない。でもなぜだか今日は、書き終わり、何度か読み返し、封をして、ダンボールに入れ、ガムテープをして、発送伝票を作り、出してきた。

これでもう本当に終わった気がしている。大好きだった。本当に。そしてやっぱり、泣いている。この半年、目が腫れるほど泣いた日が何日あるかわからないのに、涙は枯れない。枯れてしまえば楽になるだろうか。

私は今までの人生、後悔していることはない。いくつも選択をしてきたけれど、結局今となってはそれでよかった、と不思議と受け入れられている。ただ今回ばかりは自分の行動に自信がない。いつか思い返した日に、「あれでよかった」と思えるだろうか。今日出した荷物は、あの重さ分、私の心を軽くしてくれるだろうか。

荷物を出したのは夜8時。上着は必要だったが、確かに春の匂いがした。別れた夏の終わりから秋、冬を越え、時間は進んでいる。

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