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Cemetery(個別トラック編)

はじめに

コード進行編に続き、個別トラック編です。
こちらでは音作りや音楽的な考察についてパート毎に解説して行きますが、これまで同様、音源はStudio Oneに付属しているPresence XTにて作成しております。


トラックの概要

大きくパート分けした場合、以下のようになります。

・プラック
・リードシンセ
・ピアノ
・コーラス
・ブラス
・オルガン
・ストリングス
・ベース
・ドラム

上から順に解説して行きますが、リードのパートはメロディの音楽的な分析を含んでいますので、コード進行編でも使用した以下の楽譜を参考にして頂けると幸いです。

Cemetery 楽譜

また、部分的にですがピアノロールのスクリーンショットを添付しているパートもありますので、そちらも参考にしてください。


プラック

<イントロ>、<A>&<A'>
イントロから鳴っているプラック系の音です。
音色的には、生楽器っぽい音だったので似たものを探しましたが見つからず、結局それなりに音が近かったチェロのピチカートを使いました。原曲の音は3次倍音が強く出ているように聴こえます。

左右にパンが振り切られており、左には16分音符のディレイが掛けられています。

フレーズに関しては、コード進行編でも解説したように、キーをDマイナーと捉えた場合、2度のペンタトニックと考えられます。多少話は逸れますが、ここでその2度のペンタトニックについて詳しく解説します。

メジャースケールの主音を変えると7つのモードスケールができるように、同じ理屈でペンタトニックの主音を変えれば5つのペンタトニックスケールができますが、実際に使われる殆どのペンタトニックはメジャー(1度が主音)か、マイナー(6度が主音)のペンタトニックで、他の3つのペンタトニック(2・3・5度が主音)は、ほぼ見かける事はありません。

長・短調に自然な形で乗る、1・6度のペンタトニック以外を見かけないのは当然とも言えますが、上手く使えば独特の雰囲気を出す事ができます。

そして今回俎上に載せた、2度のペンタトニックが使われている具体的な曲例として、最も馴染み深いものは国家である君が代でしょう。
君が代は、上行・下行でスケールが異なりますが、上行時はこの2度のペンタトニックになっています。

君が代のスケールは壱越調律旋という事になっているようですが、その名称はともかくとして、実質的には上行時(実音)<レ・ミ・ソ・ラ・ド・(レ)>、下行時<レ・シ・ラ・ソ・ミ・(レ)>となっています。

つまり、上行時に「ド」だった音が下行時は「シ」になっており、上行と下行で半音異なる訳ですが、では何故下行系は半音下がるのか、という理由については諸説あって、明確な理由は定かではありません。
一つ例を紹介すると、下行するフレーズは歌唱時に音程が下がりがちになる為、歌いやすいように元から下げられている。といったものがあります。

また、明治時代の「俗楽旋律考」という書物の中で、西洋の長調と短調のように、日本の俗楽(長唄や箏曲等)に於ける基本的な旋法として、陽旋法と陰旋法という2つの旋法が規定されており、君が代はその内の陽旋法(田舎節)に、上行系・下行系とも忠実に沿っています。
例えばCの音を主音とした場合、上行系は<ド・レ・ファ・ソ・シ♭・(ド)>、下行系は<ド・ラ・ソ・ファ・レ・(ド)>になる訳ですね。

ただ、君が代の成立の方が先なので、君が代がこの陽旋法を用いて作曲された訳ではありません。

俗楽旋律考は、明治時代の学者である上原六四郎が著した、当時の日本の俗楽に使われている音階を研究した書物です。
因みに俗楽旋律考に於ける陰旋法(都節)の方は、陽旋法の2音目が半音下げられているのが上行系、更に5音目が全音下げられているのが下行系となります。Cの音を主音とした場合、上行系は<ド・レ♭・ファ・ソ・シ♭・(ド)>、下行系は<ド・ラ♭・ソ・ファ・レ♭・(ド)>ですね。童謡の「とおりゃんせ」や「うさぎ」を思い浮かべると雰囲気が掴めるかと思います。

俗楽旋律考に於ける2つの旋法は、現在では一般的に日本の音階ともされている、メジャー・マイナーのペンタトニック(1・6度が主音)とは違い、西洋音階に於いて曲の明暗を決定する3度の音が存在しません。

3度の音の不在について、「白黒をハッキリしない日本人の精神性が表れている」といった、文化論的な類推をしたくもなりますが、実際のところは分かりません。ただ、興味深い点ではありますね。
また、3度の代わりに2度の音が明暗を決定しているように思われ、西洋と日本の感覚の差異について考えさせられます。

最後に、通常の君が代(陽旋法)と、陰旋法に移旋した君が代を聴き比べられる簡単な動画を用意したので、興味のある方は聴いてみてください。陽旋法では、ある種グレゴリオ聖歌的な聴感もありましたが、陰旋法では完全に和風な感じになるのが面白いところです。


リードシンセ

<A>&<A'>
音色的には、プレーンなシンセストリングスといった感じです。

オクターブ ユニゾンされていて、ビブラートが掛かっていますが、あくまでピッチのモジュレーションという事であり、音量や周波数が揺れているのではありません。
このビブラートが音色に色気を添える大事なポイントとなっています。

またフレーズ的には、<A>(Aマイナー)から<A'>(Cマイナー)へと平行移動で転調する際、<A>はコードの5thからメロディが始まるのに対して、<A'>はコードの9thからメロディが始まるのがポイントです。

つまり、短3度上への転調に於いて、メロディは短7度上に移動しているという事であり、こうした平行移動する形の転調はよく耳にしますが、大概はそのままメロディも含めて全体をトランスポーズするような場合が多い為、その点工夫が凝らされていますね。
メロディが短7度上がる事で、ポジションがより高くなるのに加えてトータル的な縦の和声感も変化する為、単純な平行移動の印象を打ち消す効果があります。

また、転調時のメロディの繋ぎ方も、Cマイナーに転調する際にはスケールに沿って上行し、Aマイナーに戻ってくる際には5度音程の平行移動を使って半音で下行しており、これも上行・下行でアプローチを変え、聴き味に変化を持たせています。
上行はスケール内の音でインサイドに、下行はスケール外の音を使ってアウトした感じにしている訳ですね。

尚、ここまで解説してきたメロディと和音との兼ね合いや、別スケールの繋がりに関する話は、このパートをモードと捉えた場合でも通用するものであり、機能和声の用語で解説したのは、コード進行編と同様に解説の便宜上とご理解ください。


ピアノ

<A>&<A'>
コード進行編で解説した、4度積みのコードを鳴らしているのがこのトラックです。
コーラスを深めに掛け、EQで高めの帯域を強調すると似たようなチャラチャラした感じの音になると思います。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは8分)

ピアノ<A>$<A'>

<D>
ここでクレッシェンドして入って来る無限音階的なフレーズも、音色はピアノであろうと思われます。

音作りに関しては、ショートディレイを掛け(今回はエフェクトを使わず実音で入れました)、フィードバックを深めにしたフランジャーを掛け、更にそこへリバーブを掛けてと、散々弄った結果、まあまあ似たような感じにはなりましたが、上の方の倍音が足りていない為か、これ以上はどうにもなりせんでした。

そしてこのフレーズが楽音的にどうなっているのか、何とか聴こえる音を手掛かりに勘案した結果、「半音で32音上昇するフレーズが、半分まで上昇した16音の時点で繰り返している」と思われます。
言葉にするとよく分からないと思いますので、添付のスクリーンショットをご参照下さい。

半分まで上昇した時点で次の上昇フレーズが入って来て音が重なる為、結果的に2声で上昇している状態になります。

また1音の音価が32分3連なので、1拍に12音、4拍では48音入る計算となり、フレーズ全体は32音上昇しますが、16音まで上昇した時点で次のフレーズが始まる為、フレーズが繰り返されるタイミングは48/16= 3、つまり4拍3連の位置という事になります。よく聴くと4拍3連でウネっているのが分かるでしょう。

また、フレーズの起点と終点の音(B♭0とF3)に関しては、何度聴いてもよく聴き取れなかった為、トータル的な和声感から推測して設定しました。
このフレーズを確実に聴き取れる方が居られましたら、正解を教えて頂けますと幸いです。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは32分3連)
頭から2声入っていますが、これは半分上昇したところで終わってしまう最後の上昇フレーズの残り半分を前に持って来た為です。
どのみちクレッシェンドして来るフレーズなので聴こえないのと、譜づらを綺麗にしたかっただけなので気にしないで下さい。

ピアノ<D>


コーラス

<B>
音色的には、サンプル系音源なら大概収録されているようなもので、今回はChoir Hahというパッチを使いました。

フレーズはコード進行編で解説した通り、F7の分散和音になっていますが、最後に和音全体がピッチダウンしています。このアプローチには、コードの響きも含めたギミック的なサウンドとして聴かせる意図が感じられます。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは8分)

コーラス


ブラス

<C>
単体では似たようなブラスが無かったので、トランペットにシンセブラスをレイヤーしてあります。

左右にパンが振られており、ボイシングもドロップ2といった生っぽいブラスの感じでは無く、クローズの基本形で3声をオクターブ重ねしています。


オルガン

<C>
オルガンの中でも、チャーチオルガンの音色ですね。壮麗な雰囲気を出す良い味付けになっています。

3rdの音を抜いた、所謂パワーコードでベタ弾きされています。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは4分)

オルガン


ストリングス

<C>
ここはベースが抜ける為に、ストリングスが白玉のオクターブユニゾンでベースノートを弾いています。

<D>
深めにフランジャーを掛け、フィルターとアンプをLFOのランダム波形で揺らしたところ、大体似た感じの音になりました。2声のオクターブから、上声がB→A#、下声がB→Cを8分で繰り返します。
ブラスが弾いているコードはE♭ですが、ストリングスのフレーズは、B音に解決するような動きをしています。
そのB音がコードトーンとぶつかる為、不安定で怪しげな独特の雰囲気を出す訳ですね。


ベース

フレットレスベース的な音色とフレーズが特徴です。
上にかかるベンドが民族音楽的な雰囲気を出していますね。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは8分、一部ベンドでピッチを変えておりベンド幅は12でデータは下欄に表示)

ベース


ドラム

最初から最後まで延々4分でキックが打たれるシンプルなパターンです。
フィルインでリムショットとスネアが出て来ますが、こちらも最低限の音しか使わておりません。<C>で出て来るタムが多少派手な程度です。

金物も、シェイカーにタンバリンのベルとクラッシュ程度で、パターンだけで無く使用される楽器数も少なくまとめられていますね。
ただ、<C>ではキックの音色が一時的に変わり、リバーブも深めに掛けられています。


あとがき

トラック数も少なく、コピーは楽な方でしたが、ループ前の無限音階的フレーズだけは鬼門で、なかなか聴き取れずに苦労しました。

また最終的なミックスは、時間が掛かりすぎて残りの6曲を消化できそうに無い為、今回からそれなりで終わらせる事にします。

次回はSlashならぬOP.13です。

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