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児童書『ビーバー族のしるし』/紹介

白人の少年マットは、
大森林に一人で暮らしながら
家族の帰りを待っている。

ある日、マットはインディアンの少年
エルティアンと出会う。
マットが英語を教えるかわりに
エルティアンから学んだのは、
森で生きていくための知恵、
そしてかけがえのない友情だった。

小学校高学年から。

『読書家の時間』
(プロジェクト・ワークショップ編)
という本の中に、5年生の子が
クラスのみんなに『ビーバー族のしるし』を
紹介する様子が記されています。

みんなの前でこの本を紹介するのは、
これで3回目だけど・・・・・・/
ぼくは、どうしてもこの本を
みんなに読んで欲しいのです。/
『ビーバー族のしるし』に出てくる
先住民は/なんでも自分たちでできるし、
いろいろなことを知っている
すごい人たちなんです。(P134)

子どもが同じ相手に3回も
紹介したくなるような本。
読んでみたら、とても面白かったです。

インディアン
(現在は「北米先住民」とよぶ)の、
自然の中で生きる知恵の豊かさに、
本当に「すごい人たち」だ!
と感嘆しました。

インディアンは、動物の皮で靴を作り、
木の根でウサギの罠を作り、
小枝で釣り針を作り、
弓矢も作ります。

「いる物は、みんな自分で作る」のです。
それも、身近な自然のものを使って作るから、
「新しいの、すぐに作れる。いくつでも」。

彼らは森で迷わない術も知っています。

ここへ来るとちゅう、エイティアンは
しょっちゅう立ち止まっては、
行く手にある木の枝を折ったりしていたし、
モカシン(靴)の先で小石をわきに
押しやっていたこともあった。/
そうやって、注意深く道しるべを
こしらえながら歩いていたのだ(後略)。

そんなエイティアンにマットは言います。

「けど、父さんはいつもナイフで
 木に目じるしをつけてるよ。」
 エイティアンは、うなずいた。
「白い人のやり方だ。インディアンは、
 どこへ行くか、ほかの者に知られたくない。
 狩人にビーバーのうちを、
 見つけられたくないからな」

こんなふうに、読者は、
インディアンがどのように森で生きているかを
具体的に知ることができます。

エイティアンの母は「白い人」に殺されました。
二人の少年の関係は、当初、越えがたい壁に
阻まれていました。

エイティアンはマットと一言も
口をきこうとしなかったし、
マットのほうも、森で何もできない自分を
ばかにされているように感じて、
エイティアンを好きになることが
できませんでした。

でも二人は、サクニスじいさんの取り決め、

エイティアン、狩りをする。
白い子に、鳥とウサギを持ってくる。
白い子、エイティアンに、
白い人のしるしを教える

によって仕方なく交流するうち絆を深めていき、
物語の終盤には、エイティアンがマットを
「白い兄弟」と呼んでくれるまでになります。

ふたりは、ぎこちなく握手をした。
「おまえの父さん、すぐに帰ってくるさ」
エイティアンが言ってくれた。
「おまえ、メインでいちばんでっかい
 ヘラジカをしとめるんだぞ」
マットも言ってやった。
 エイティアンは、くるりと背中を見せて、
森の中に入っていく。(後略)

これは二人の別れの場面だけど、
互いを思い合う様子がよく伝わってきます。
マットが、再会した家族に、

おれには、インディアンの兄弟がいるんだぞ

と胸を張って話す姿も微笑ましいです。

人種も言語も価値観の違いも越えて、
二人の絆が深まっていく様子に
胸が温かくなる作品でした。

『ビーバー族のしるし』
エリザベス・ジョージ・スピア作、こだまともこ訳
あすなろ書房、2009年

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