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児童書『うそつきの天才』/感想

「うそつきの天才」と
「シェークvs.バナナ・スプリット」の
二つの短編。

前者は、嘘をついて痛い目にあった
少年ウルフが、
「もう嘘はつかない」と誓いながらも、
懲りずに友達に作り話を披露するお話。

後者は、作文に目覚めたウルフが
ライバルのヨーランと競い合い、
嘘の作文で「見る目の正しい」先生に
絶賛されるお話。

小学校高学年から。

ウルフの嘘がとても楽しくて、
何度も笑いました。

嘘はつかないと誓ったそばから、
他人の家の庭からとった果物を
「クラスの修学旅行の資金にする」と言って
売り始める。

警察に捕まっても嘘の住所を言って
切り抜けようとする。

家出をして、心細さにセンチメンタルに
なっていたくせに、次の日に学校で、
まるで冒険の武勇伝を語るように
クラスメートに嘘をつく。

ウルフ、強心臓だなあ。笑
そして、いちばん笑ったのは物語の最後、
ウルフの「犬」の作文は嘘なのに、
「評価にきびしい、見る目の正しい先生」に
褒めちぎられる場面です。

ウルフ、いつもそういうふうに
書けばいいんだよ。
きみの身近に起きたことをそのまま書けばいい。
話をつくる必要はない。いいね。
きみはその犬を心から愛していたんだろう?

はい……

きみの作文を読んでいて、
その気持ちが実によく伝わってきた。


ウルフは犬を飼っていないのに、
いつも的確な先生が、嘘の作文を
熱っぽく褒めている姿が、
とても滑稽で、笑いが込み上げてきました。

でも、ウルフはただの
嘘つきではありません。

でも、作文を書いているあいだ、
ぼくはほんとうに
犬を飼っていた気分になっていた。
犬を飼うことは、ずっとまえから
ぼくの夢だったんだ。

ウルフは自分の夢を見つめ、
心に浮かんだ景色に没頭し、
それを本当に体験しているように書いたのです。

「嘘」はお話のすばらしさに
つながることなんだなあと、
心にストンと落ちました。
実際、ウルフの作文を読んで
とても感動しました。

この本を読みながら、
ドイツの児童文学作家ケストナーが
『点子ちゃんとアントン』のまえがきで
書いていたことを思い出しました。

じっさいに起こったかどうかなんて、
どうでもいいんです。たいせつなのは、
そのお話がほんとうだ、ということです!
じっさいに、お話のとおりのことが
起こるかもしれないなら、
そのお話はほんとうなのです

「嘘」と「本当」、
そして「お話」について、
また考えさせられました。

ウルフが架空の犬の話を作文として書いたのと、
ヨーランが作家の盗作をしたのを
並べているのも面白いです。

ヨーランの「嘘」は、
ただの模倣で独創性はないけど、
ウルフの「嘘」は豊かな独創性に満ちています。
こうしたところにも、ウルフの「嘘」を
キラリと光らせる工夫がなされていました。

ウルフは天性の嘘つきで、作家でした。

『うそつきの天才』
ウルフ・スタルク著、菱木晃子訳、
はたこうしろう絵
小峰書店、1996年

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