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カタールW杯から見るフォーメーション

はじめに

どうも、東大ア式蹴球部テクニカルスタッフ2年の高橋駿平です。

「一般的な」大学生活は4年であり、W杯の開催周期もまた4年です。つまり、大学生の間にW杯を経験できるのは1回で、その中で今回この時期にア式マガジンのテクニカル連載が回ってきたのは非常に幸運だ(?)と思っています。
そんなわけで今回はW杯について思うところを書いていきたいと思います。

「リスペクト」と「フォーメーション」

さて、本題に入ると、今回のテーマは「フォーメーション」。1試合1試合の内容を見るのは流石に困難だと判断したため、「表面的に」チームの意図が少なからず読み取れるフォーメーションについて今回は考察しようと思う。

日本人ならば、今回の日本の快進撃に衝撃を受けた人は多いだろう。大会前に十分には試合で試していない3(5)バックを実践したことは非常に衝撃的だったわけが、一方でドイツやスペインに対して一定の対策を敷いたのは大方の予想通りだとは思う。
スペイン戦後のインタビューで、鎌田大地が「前半は相手をリスペクトしすぎた」と話していたことは、自分の中で非常に印象に残っている。確かに、相手をリスペクトした戦い方をしたイランが、大会2日目にイングランドにボコボコにされたことは衝撃的だった。相手を想定した戦い方とはどういうものか。また、その適切な度合いなんてものは存在するのだろうか。
そんなわけで、「どこまで相手をリスペクトするのか」が反映されうるフォーメーションについて調べてみることにした。

3(5)バックの流行(?)

今大会、3(5)バックを使用するチームは非常に多かったように思う(他のW杯については全く調べていないが)。もちろん、チームの中心システムを3(5)バックにする国もあったが、相手に合わせて3(5)バックを使用するチームも一定数あった。

ちなみに、今回は3バックと5バックを同じものとして集計している。「(一般的に多い)4バックではない」という逆説的な定義に当てはまる、というのが一番の理由ではあるが、「後ろに人数が多い」というのが直接的な理由になると思う。「[3-5-2]と[5-3-2]は違うんだけど!」という意見や、「(ドイツみたいに)4バックでも攻撃時に3バックに可変するし!」という意見もあるかもしれないが、今回はシステム的にも分類しやすい、という理由で割愛する。

ここで、集計結果を一つ。

全て3(5)バックでスタートしたチーム
カタール、オランダ、チュニジア、セルビア
3(5)バックと4バックを併用したチーム
エクアドル、イラン、ウェールズ、メキシコ、デンマーク、コスタリカ、日本、ベルギー、カナダ、ガーナ、ウルグアイ
全て4バックでスタートしたチーム
上記以外の国


3(5)バックを大会中に(スタートから)使用したチームは以上の通り。試合中のシステム変更(例えばドイツ戦の日本など)を考慮するキャパシティと時間はなかったので、今回はこれで許して頂きたい。集計すると、3(5)バックでスタートしたチームは11チーム。その中で太字で表記しているオランダと日本がノックアウトステージに進出したチーム。「2/11チームは少ねえな、、」と思った方も多いと思う。「デンマーク、ベルギーあたりが順当にGS突破してくれれば楽だったのになあ」とか個人的には思いつつ、少し異なる視点を持って検証してみることにした。

3(5)バックあるある、守備的な時にやりがち。その心としては、後ろに人が多い。もっと言うと、ブロック時に人が多い。この考えが戦術に落とし込まれるとどうなるのか。「必ずしも勝たなくても良い」という場面に使用されるのである。勝点1を獲得するのに適した戦い方の一つとして認識されるのである。実際、11チームのうち8チームはFIFAランクで自分よりも上位にあるチームとの対戦で3(5)バックを使用しており、強豪国への対策としてブロック時の後ろの人数を増やそうという意図は確実に多かったように見える。

グループステージで、32チーム×3試合という形で96チームが存在したと考えると、その中で3バックでスタートしたのは26チーム。その合計勝ち点は24であり、平均勝点は0.92/チームとなる。この値を見ると、「あながち悪くないのではないか?」と少しは思える。つまり、引き分け=勝点1狙いのチームが平均的に0.92の勝点を取れるなら万々歳だよねという考え方である。

「変幻自在しか勝たん」

W杯において各チームは少なからず対戦相手のスカウティングをしているはずである。スカウティングは相手の特徴を掴む道具になると同時に、予想外の出来事へ対応が遅れる一因ともなりうる(悪い意味でバイアスがかかりすぎる可能性がある)。ドイツ戦の日本がその筆頭であり、日本の3(5)バックオプションを知らなかったドイツは混乱に陥り、痛い目を見た。(森保JAPANの全試合を見ていた筆者もやると思わなかった。わかるわけない。)各チームは、このような「混乱」を引き起こすために複数のオプションを用意し、実践した。特に中堅国は一貫したスタイルを持った強豪国に対し、様々なパターンを用意して試合に臨み、それはシステムにも反映されている。

グループリーグの3試合を通して同じフォーメーションを使い続けたチームを調べると以下のようになる。

カタール、オランダ、チュニジア、スペイン、ドイツ、クロアチアスイス
(太字はGSを突破した国)

「痛い目を見た」ドイツをはじめ、比較的強豪国が並んでいるように見えるだろう(カタール邪魔だなあ)。注目すべきは、システムを複数持って挑んだチームが圧倒的多数だということ。選手個人のキャラクターに合わせたマイナーチェンジも複数システム採用に数えているため、やや過度に多く集計している節はあるが、それでもこれは一定の意味を持つだろう。

この結果の中でも、やはり中堅国は強豪国に合わせてシステムを変化させた例が多い。例えば、イランやエクアドルは、それぞれイングランド、オランダに対して3(5)バックをスタートから採用し、「守備から入り、失点をしない」戦い方を選んだのである(この試合のエクアドルは比較的イケイケでしたが)。
一方で、マイナーチェンジも含め、強豪国でもシステムを変化させた例はある。初戦でサウジアラビアに衝撃の敗戦を喫したアルゼンチンのように、失敗の後に修正を加えたチームもあれば、対戦相手や自チームの出場選手に合わせて、配置は類似しながらも変化を加えた国もある。
他にも、日本やコスタリカのように成功体験から配置を加えたチームもある。前者はドイツ戦での圧倒的成功の下、スペイン戦で3(5)バックを採用し、後者はスペイン戦での教訓を活かし望んだ日本戦での成功を見て、3(5)バック愛好会に加入した。
システムを変えながら戦うチームは確実に増えている。表面的に各チームのスタートのフォーメーションだけでこれだけのチームの変化がみられのだから、試合中のシステム変化はもっと多様なはずだ。W杯は超短期過密日程大会ではあるが(だからこそ)、短い時間でいかに修正するか、また複数のオプションを持ち、相手を混乱させるかが重要な要素になっていたのは間違いない。
結果論になってしまうが、プランBを持たないスペイン(GS、トーナメントを通して4-3-3、チームスタイルも一貫)がベスト16で散ったのもそれを示しているように思えるし、アルゼンチンは3(5)バックと4バックを併用して優勝に至ったのである。果たしてこれは偶然だろうか。信じるか信じないかはあなた次第。

まとめると、「変幻自在しか勝たん」大会だったのである。

「意外」vs「不慣れ」?

最後に、事前システムからの変化を見てみようと思う。事前システムとは、大会前の試合を見ておそらくこのシステムでくるだろうと推測されるシステムのことを指す(というか、そのように筆者が定義する)。GS内の試合を全て検証すると、大会中のシステム変化と重複する点が多くなり、それこそ混乱に陥りそうなので、今回は初戦だけで考えてみる。
(事前システムは、『footballista 』第93号 (令和4年11月1日発行)を大いに参考にしている)

次戦システムと異なるフォーメーションで挑んだチームは以下の通り。

エクアドル、セネガル、イングランド、イラン、アルゼンチン、ポーランド、フランス、オーストラリア、チュニジア、カナダ、モロッコ、セルビア、ガーナ、ウルグアイ
(太字は初戦に勝利した国)

事前システムから変更したチームは予想より多かった印象。とはいえ、本選で日本のようにほとんど見たことなかったスタイルを採用したチームは少なく、対戦相手の予想の範囲内でのシステム変化だったのだろう。
例えば、イングランドが3(5)バックと4バックの両オプションを持っていたのは、筆者でも知っていたのである(ウォーカーがRCBかRSBで出場する)。
「相手に想定されない」というメリットと、「自分達が慣れていない」というデメリットがある事前システムからの変更。正直どちらがいいとかはないのだと思う。

最後に

ここまでW杯のGSにおけるフォーメーションについて見てきたわけだが、やはり「変化」や「適応」は現代サッカーにおいて不可欠な要素になっているのだと非常に感じた。格上の相手に合わせて3(5)バックを使用することはもう驚くようなことではないし、複数のオプションを持たずに大会に挑むチームの方が少ないのだ。「相手がいてこそのサッカー」というのは、誰が言ったのかわからないが、結局その通りなのだろう。(これは、決して一貫したチームスタイルを批判するものではなく、あくまでチームスタイルの上に「変化」なり「適応」なりが乗っかっていると言うイメージで話している。)
あまりにも表面的な事象について追いすぎたため、あまり期待した結果は得られなかったというのが本音である。しかし、「調査なんて思い通りに行かないよ」と、信頼ある先輩東大生からお言葉を頂いたので、今回はポジティブに捉えて、現代サッカーのトレンドの一端を垣間見たなんて思いながらこの記事を締めたいと思う。

悲劇

思い通りの結果が得られないながらも、少しは手応えを感じていた3(5)バック採用チームの平均勝点0.92。ほっと胸を撫で下ろしていたわけだが、よく集計を見直してみると、オランダがGSでしっかり勝点7を獲得していたことが判明。オランダを抜いて計算し直すと、平均勝点は0.73/チーム。撫で下ろした胸に多少の刺激。あぁ、心臓に悪いこと。

やはりこの記事は綺麗に締まらなかったわけだが、最後に一言。

全部オランダのせい。


東大ア式蹴球部 テクニカルスタッフ2年 高橋駿平


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