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犬の毛

2024.04.14
ペギンの日記#14
「犬の毛」


中学卒業以来、ずっと会っていなかった友人に再会した。
お互い違う高校に行ってからはほとんど連絡は取り合っていなかったし、中学のときも学校でしか顔を合わせていなかったから「友人」と呼べるかと言われたら怪しいのではあるが、知り合いというのも何か無責任な表現なので、友人ということにしておこう。

そんな彼女が春休み、たまたま地元に戻ってくるとのことで連絡をくれた。
もともと体育の時間に一緒にバドミントンをしたことで仲良くなったこともあり、地元のスポーツセンターでバドミントンをして遊ぶということで予定がたった。

なぜそんないきなりバドミントン?って感じではあるが、まぁお互いにお互いの近況を知りたかったのだろう。私は前々から、都会に進学していった同期の誰かには話を聞きたいなと思っていたし、彼女もこっちの様子を知りたがっていた。私も彼女も、中学時代は色んなグループをフラフラして、誰かと特別強いつながりを持つことはしない人だった。だから言ってしまえば話ができるなら誰でもよかったのかもしれない。

とまあそんな感じで、ちょっと距離のある人に会うのだから、準備は入念になる。
私は気合を入れて、ドラゴン桜の岩崎楓ヘアで行ってみることにした。バドミントンと言えばこれでしょ。

岩崎楓役の平手友梨奈 
ドラマ『ドラゴン桜』第1話より (c)TBS

高校に入ってから髪型をレイヤーボブにしたので、このアレンジは簡単にできる。といってもバドミントンをする日の前日に一回作ってみて、安全確認をしてからの運用である。

当日の朝、バスの時間に十分間に合うように起きて、諸々の準備を終えてから洗面台に向かう。
ドライヤーでセンターを分ける。
ダッカールで髪をより分けながらアイロンでウネウネさせていく。
後頭部が絶壁なので、そこはボリュームを持たせられるように入念に。
全部終わったらバームでまとめていく。
お?お?これはもの凄く良いのでは?昨日の練習の成果も出て、なんかめっちゃいい感じになってきている。
バームが終わったら、右側のおでこの髪をちょっと取って、ねじりながら後ろに持っていき、ピンで止める。
スプレーを全体に軽くして完成。

びっくり。
なんかとっても素敵な髪型の人が鏡に写っている。
ちょっと時間かかるけど、これからこのセットで学校行こうかなってくらい自分に自信が持てる髪だった。
髪が良すぎて、着ているパーカーのちょいダサさが後悔されるくらいだった。まぁ機動性考えたらこれが一番だったのだからしょうがない。

そんなこんなでルンルン気分でバスに乗り、スポーツセンターでその友人と合流。

1年ぶりの再開に「わぁー!」と声を上げながらお互い走り寄る。
彼女は中学と変わらず前髪を作らないオールバックポニーテールで来ていた。でも彼女はその髪型で美人に見えるのだから、ポテンシャルが半端ない。

「そっちの生活どう?」
「もうやばいやばい」
「何がさ」
「寮の相方と喧嘩したw」
「なにしてんのー!w」

もう話しだしたら止まらない。家を出る前のちょっとした緊張が嘘みたいだ。バドのネットを出し、ラリーを始める。ちょっと集中モードに入る。

いい感じにラリーの感覚を取り戻し始め、安定するようになってきたところで彼女が少し言いにくそうに切り出してきた。
「ぺぎんの髪さ、なんていうか髪質変わったよね。中学から。」

お、気づいたか?そうだぞ今日は気合い入れてセットして来たんだぞ。褒めろ褒めろ。

彼女が続ける。
「言い方合ってるか分からないけど、犬の毛みたい…。」

…。

「ちょっと待って!w犬の毛ってなんだよ!」
予想外の彼女のコメントに、頭が考える前にツッコミを入れていた。

「いや!なんか、もっとストレートだったし、なんていうかさ」
しどろもどろになる彼女に私は爆笑しながら説明する。
彼女はすごく興味深そうに私の今朝の作業の話を聞いてくれる。

「へぇー!バームってので固めてんだ。」
「固めてるっていうか、まぁ?」
「え、触ってもいい?」
「いいよいいよ」
「うわすごい!束でウネウネしてる。えでも表面ツヤってよりかはザラって感じだね」
「バームの上からスプレーで固めてるからね。」
「へぇー!でもやっぱり犬の毛だってこれ」
「人の髪に犬の毛とか言うなw」
「でもすごいよこれ。よくできるよ。尊敬」
「へへーん、凄いでしょ」

彼女の言葉には裏も表も無いように感じる。犬の毛っていう言葉も、予想外ではあったが、後になって考えてみると、言われてすごく嬉しかった。
数多のクラスメイトから言われる量産型の「可愛い!」よりも、私の髪に注目してくれて、疑問を持ってくれた「犬の毛みたい」という言葉の方が、私にとっては何倍も頑張りを認めてもらえたように感じた。

うちより都会の高校に行って、なんか変わっちゃってるんじゃないかなぁなんて少し不安だった。
そんな彼女も、美容に関してはほとんど進歩してなくて、ちょっと安心した。

彼女は都会に染まらないでいて欲しい。彼女のその無垢な言葉で、人を笑顔にできる人のままで居てほしいなって、ちょっと押し付けがましいことを思ったりする。

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