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ぺテルでエルミタージュ博物館②

前回「ぺテルでエルミタージュ博物館①」では、エルミタージュの王道見学ルートに含まれていないエリア、シベリア・アルタイ地方の遊牧騎馬民族の遺物などについてご紹介しました。

ちなみに王道の見学ルートというのは、エルミタージュが推奨する、オーディオガイドにフォローされている2種類のルート取りのことです。

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エルミタージュ美術館というのはなにしろ馬鹿でかく、その広さは46000㎡と東京ドームとほぼ同じ、延べ床面積にいたっては230000㎡もあり、歩くだけでも大変な距離です。むやみに階段も多く、アップダウンを余儀なくされます。そしてそこに収められた収蔵品は300万点以上、世界最大といわれています。

観光客が「ちょっとエルミタージュでもみていくか」と思って気軽に見切れるような量ではありません。

そこで美術館がお勧めルートを設定し、なるべく有名な収蔵品をコンパクトに鑑賞できるように提案しているのです。
ルートに沿えば、サラリと見るならおよそ2時間半くらいで目玉の収蔵品をそれなりに鑑賞できます。

エルミタージュ目的の旅でもない限り、旅行者が一つの美術館に半日以上かけるのはあまり現実的ではないため、上記ルートを活用するのが賢い方法ですが、ぺテルに住んでいらっしゃる方々は気軽に何度も行けるいまのうちにルート以外の展示物を見てみるのもまた一興ではないかと思います。

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さて今回は①で予告した通り、シルクロードのオアシス都市国家の遺物、ベゼクリク壁画をご紹介したいと思います。

オアシス都市国家とはシルクロードの要所にあたり、天山山脈やパミール高原、ヒンドゥークシュ山脈などの雪解け水を水源として発達したものです。
パミール高原を境として、西のシル川、アム川流域を中心とする西トルキスタン、東のタクラマカン砂漠を中心とする東トルキスタンに分かれており、壁画が発見されたベゼクリク千仏洞は東トルキスタンのトゥルファンに位置します。
いままさに中国がウイグル人を弾圧しているとして世界的な人権問題に発展している新疆ウイグル自治区です。

オアシス

8世紀末以降この地域を治めたのは仏教を信奉していたウイグル人であり、その仏教遺跡の中で最大のものがベゼクリク千仏洞です。
ベゼクリクとはウイグル語で「絵のあるところ」「美しく飾られたところ」というような意味だそうです。

ベゼクリク千仏洞の石窟群はおよそ5世紀から14世紀に作られ、現存するものは10世から13世紀頃の天山ウイグル王国(ウイグル・カラ・コジャ王国)時代のものと言われています。

石窟内部は全面に鮮やかな壁画が描かれていましたが、19世紀後半から20世紀前半にかけてドイツ探検隊をはじめとするヨーロッパ、ソ連、日本の探検隊などが調査に入り、壁画を切り取ってそれぞれに持ち去ったため、現地にはほとんど残っていません。

エルミタージュに展示されているのはこの時ソ連によって持ち去られたもの、ということになります。

こう書くとまるで盗み取ってきたような印象を持ってしまいますが、最初に調査隊が入った時、石窟は砂に埋もれ、一部は羊飼いの住居となるなど荒れ果てており、砂を取り払って現れた壁画の多くは偶像崇拝を禁止するムスリムによって損傷を負っていたといいます。
15世紀半ばから16世紀半ばにかけてトゥルファン一帯がイスラム化したことにより、ベゼクリク千仏洞は長らく完全に放置されていたのです。

現在ふたたびアフガン問題が勃発していますが、前回のタリバン政権がバーミヤンの磨崖仏を破壊して世界的な批判を浴びたことを覚えていらっしゃるでしょうか。こうしたことは昨日今日起こったことではなく、はるか昔から歴史的に繰り返されてきたことがよくわかります。
壁画を持ち去ることで異教徒などによる破壊を避け、遺物を保護したという側面もあるわけです。

しかし、持ち去られて丁重に博物館に収められてメデタシメデタシとなるかといえば、そうとも言い切れません。
ル・コック率いる調査隊によってドイツに持ち去られた壁画はもっとも膨大な量、そしてもっとも貴重なものを含んでいましたが、第二次世界大戦中の1944年、収蔵したベルリン民俗博物館が空爆の直撃を受け、その結果なんとほぼ消滅してしまったというのですから…

本当に、世の中、なにがどうなってしまうのかわからないものです。

ちょっと前置きが長くなりすぎたので2回に分け、次回はエルミタージュに実際に展示されている、ウイグル仏教芸術の白眉と称されるベゼクリク誓願図やその展示場所などをご紹介したいと思います。By けーいち

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