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映画「モンテ」MONTE <2016 伊・米・仏> ネタバレあり

アミール・デナリ監督作品

イタリアにこんな荒涼とした風景があるのかと驚く。

草ひとつ生えない崖のように切り立った山の麓。
幼い娘の埋葬。
村とも呼べない小さな小さな集落。
そびえる岩に遮られ太陽の光も届かない。
土地は痩せ、作物は一切育たず、人は死ぬ。

そして夫婦と息子1人の1家族以外は全員、家族をともなってこの地を離れてしまう。

「子どもたちが差別されるようにしたくない」

夫が村におりる。
「またあの異端者が来た」
「悪魔の目に目を合わせるな」
とささやきあい、避けていく人たち。

粗末な材料で作った道具類を売ってなんとかしのいできたが、それすらままならなくなる。
妻の髪飾りを売ろうとするが、盗んだ品だと思われ村人や警察に追われる。

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とっさに隠れた教会の中。
そこで夫は手を合わせて祈りそうになる。
しかし、彼にはできない。
目の前には磔刑像、背景には幼子イエスを抱く聖母の壁画。
異端ゆえに祈れないのか、生活ゆえに神を信じられないのか。
太陽が照らない土地で生まれ生きる人に神は感じられないということかもしれない。

彼が家に戻ると妻子が連れ去られていた。
一人になった男は岩山を砕き始める。

積極的に忌まわしさに立ち向かうのはここから。

ほとんど役に立たない一突き一突きを延々と続ける。
妻が戻り、やがて息子も戻り、3人で黙々と山に向かう。

小さな一突きが大きな破壊を導く。
そして射す光。

ラストはありきたりではある。
この1時間半の苦しみの帰結が山の崩壊と光、あるいは神の救いというのは拍子抜け。
観ていて「ニーチェの馬」を思い出したが、神がかった安易な終わり方はもったいない。
ここに神の技ではなくもっと人間を描いて欲しかった。

チラシに「打ち砕け!人間の業(カルマ)を」とあるが、主人公と妻子は聖なる存在で人間の業は彼らを虐げる他者にある。
彼らの澄んだ魂が彼らを阻むものを打ち砕いたという意味でならそうであろう。
でもやはり、彼ら自身の神聖さを表すラストの方がよかった。
神より彼らが聖であった。

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