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10/16 24:00〜

ふと目が覚める。お風呂に入っていないから、ベタベタして気持ち悪い。ベッドでは息子が寝ていて、夫の姿がない。お風呂に入りたい…でも下半身が痛すぎる……。夫は何をしているんだろう、ゲームしているとしたらその割には静かだし何も聞こえない。1,2分ほどぼーっとしてから、気合いを入れて起き上がる。
寝相の悪い息子が落ちても大丈夫なように、ベッドフレームを使わずマットレスを直に置いている。そのせいで、ベッドから起き上がるのには幾分か力がいる。2月にいまのマンションに引っ越してくる前は、ちょうど腰あたりにマットレスがくるベッドフレームを使っていて、起き上がるのがすごくラクだった。大人と子どもで寝室を分けられるようになったら、絶対高さのあるベッドフレームを買う…と心に決めている。

リビングの入り口に立つと、夫はソファにもたれながらスマホ片手に歯を磨いていた。テレビもついている。眩しくて目を細めると、私に気がついた夫が「(リビングかダイニングの照明)どっちか消していいよ」と言う。どっちとも考えず適当に目の前のボタンを押すと、ダイニングの照明が消えた。「テレビ見てたの?めずらしい…」時計に目をやると24時10分。3時間くらい寝室で寝ちゃってたのか。「さっきまでゲームしてたよ」と夫が答える。

キッチンを見ると洗い物がシンクにたまっていた。夜、夫が寝室に「大丈夫?」と私の息子の様子をみにきたとき「うん、でも暑い…」と答えてエアコンの除湿をつけてもらった。それから「洗い物するね」の申し出に「あ、でも(息子が)起きちゃうかも、朝やるからいいよ」と答えたのだ。それでも汚いキッチンを見るとげんなりする。寝起きのいまからやる気にはなれないし、かと言って朝やるのもめんどくさい。散らかしたのは私だけど…。

ダイニングテーブルに置きっぱなしだったiPhoneを取って、ソファに座ろうとする。夫の隣では、かわいい愛犬がものすごくブサイクな顔をしながら寝ていた。「失礼」と声をかけると、ものすごく驚いて慌てて自分の陣地に戻っていく。愛犬が寝ていた場所は、熱いほどあったかい。

夫が歯ブラシを終えたのか洗面所に向かう。私はソファに寝転がる。座っても寝転がっても、もう何していても体はつらい。まだボーッとしている私はスマホを見る。何件かの通知を確認し、メッセージには返事を打つ。

20時頃に頻繁にお腹が張ったことを思い出す。まだ生まれてこないでほしいから、ひとまず1つ日付が過ぎたことに安堵しながら、トツキトオカというアプリを開く。週数は変わっていないし、さっきからいままでで大きく成長するわけではないから安堵するのもおかしいけれど。アプリの中で週数に合わせて成長するあかちゃんのアイコンに「美容院にいくなら臨月までにね」と言われる。臨月前に髪を染めたところで、赤ちゃんが新生児期に美容院に行ける気もしないし、黒髪にしようかな。

夫がリビングに戻ってきたので「先に寝てていいからね」と声をかける。私もお風呂に入ったら寝るつもりだし。うん、と答える夫はすでに眠そうだった。「テレビの電源だけ切ってほしいな」と言うと、無言で消してくれた。耳にまだ人の話し声が聞こえて一瞬戸惑うも、夫がスマホで何かの動画を見ていることに気付く。
体勢を変えて、ソファに座る。本当に、寝ても座ってもしんどい。

「洗い物だけするわ」と言い、夫は洗い物を始める。めちゃんこ助かります…と心の中でめちゃくちゃ感謝するけれど、寝起きなのとしんどいのとで、それを表現できない。ぼーっとしてから、夫に少しだけ弱音を吐く。それに加えて、これからの不安も口をついて出る。夫は「でも、遅かれ早かれだから」と言った。その遅かれ早かれが、私たち夫婦にとっての話なのか、周囲と比較した話なのかわからなかった。けれど、彼なりに励ましてくれているのが伝わってきて、すごく満たされた気持ちになる。さっさとお風呂に入って、寝てしまおう。立ち上がって、ようやく「洗い物ありがとう」と声をかけ、浴室へ向かった。

シャワーを浴びながら、生まれてくる子どもの名前を考える。漢字の候補はいくつか挙がっているからそれをベースに考えるけど、どうもしっくりこない。生まれる前に決めることはできなさそうだ。今日買ったはちゃめちゃに可愛いベビー用のカバーオールを思い浮かべる。これまでは出産に対して痛みへの恐怖があまりにも強かったけれど、いまはどんと来い!という気持ちだ。そもそもどんなに怖がっても痛みは変わらないのだから、不安に過ごすより楽しみに過ごす方がいいに決まっている。

お風呂からあがって、リビングに下着やパジャマを持っていき、念入りに妊娠線予防のクリームを塗って、着替える。24時40分。少し眠気がさめてしまった。夫の姿はなく、キッチンはすっかり綺麗になっていた。キッチンカウンターには、先日買った『ふたりは同時に親になる』という本と、今日買ったベビー服が置いてある。そういえば今朝夫に「この本、週末(の遠征に)持っていっていい?新幹線で読もうかな。まだ読むなら別にいいけど…」と言われた。妊娠や出産に関して夫から行動を起こしたことがなかったので、つい驚いて「え、読んでくれるの?どうぞどうぞ!」と言ってしまった。夫は「読んでくれるってなに?別にあなただけが読めるんじゃありませーん」と、ちょっとムッとしていた。あの言い方はちょっとマズかったかな、と思う。まるでプレッシャーをかけるかのように気になるページの端を折ったけれど、夫に厭味ったらしいと思われるだろうか。週末までに直しておこう。

洗面所でシャコシャコ音を立てながらハミガキをしていると、寝室で息子が一瞬だけ泣いた。夕飯も食べずに18時に寝てしまった息子は一度21時に夜泣きをしたけど、フォローアップミルクを200mlあげたら半分以上飲んで、私のお腹を触りながら再び眠りについた。1歳になってからほとんど夜泣きをしなくなったけれど、今夜は何時に起きてもおかしくない。なるべく静かにしようと思いリビングに移動する。

ダイニングテーブルに座りハミガキをしながら、ぼんやりと1日を思い返す。午前中はずっと行きたかったカフェに行って、ゆったりとした時間を過ごした。トーストとゆで卵を食べ、カフェオレを飲んだ。こうやってひとりで行きたいところへ行けるのも、あと少しだ。あと少しと言っても0歳のうちの1年間が山場であって、息子のように1歳をすぎれば工夫次第で自分の時間を作れる。今日行ったカフェには、もう二度と行くことはないけれど。
夕飯後には、買ったベビー服をじゃじゃーん!と夫に見せた。ブランドのものもあって、「すぐ着られなくなるんだからお金かけなくていいでしょ〜」と言われた。わかってる、わかってはいるんだけど欲しかった。「でも半年は着られるし!それにほら、可愛い!!」と言い訳をすると「可愛いとかはわかんない」と言っていた。思ってなくても同調してくれればいいのに…と思った。でもそれを言わなかったのは、思っていないことは言ってほしくないからだ。だからこそ、さっきの「遅かれ早かれだから」はいい励まし方だと思った。適当に人に同調したり、余計な気を遣ったりしない彼らしさがある。「そうだよね、あと少しだからもう少し頑張ってね」とか「あかちゃんを育ててくれてありがとう」とか言われたら、お前に何が分かるねん!とキレてしまったかもしれない。

もう寝よう。今はなんだか気分がいい。キッチンが綺麗になったからかもしれない。洗面所へ行き、ハミガキを終わらせる。リビングの電気を消すときにソファを見ると、愛犬が寝転がりながらこっちをじっと見つめていた。いつも通りの可愛い愛犬だ。
いつかまた一緒に寝ようね、と心の中で思う。遅かれ早かれだから、いまはごめんね。

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