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"なんか変“ は小児科医の "匠の技" か?

「心停止が切迫していること」にどうやったら気づけるか?

前回、「救急のセッティング」だけでなく、全ての小児に出会った瞬間に、緊急度に着目し「今まさに心停止に到らん」としているかどうかを、 "STEP 0" として意識的に判断する事が大切であることをお話ししました。

とはいえ、いったいどうやって気づいたらいいのでしょうか。

小児科の研修を始めると、"なんか変(not doing well)" と気づき、悪化する前に介入することが大事である、と教えられます。この "なんか変” こそ、 致死的病態、すなわち、心停止が切迫しているかどうかを迅速に認識する、小児科医の ”匠の技”といえます。

どうしたら “なんか変” に気づけるのだろう。。。

研修を始めた当時の私は、「経験の積み重ね」が重要、まさに ”匠の技” であると教えられ途方に暮れておりました。そして研修が進み、いつしか "なんか変" と感じられるようになったものの、今度はそれを後輩にうまく教えられないもどかしさに苦しむことになりました。

"なんか変” を言語化する

『救急蘇生法の指針 2015(医療従事者用)』(2016年, へるす出版)では、患児が視野に入った瞬間に「生きていると感じられれば(生命徴候あり), 引き続く数秒以内に, 第一印象により心停止切迫の程度を評価する。」とされています。

第一印象とは、意識、呼吸、循環の三要素で構成された「見た目」のことで、まさに小児科の匠の技、"なんか変” を言語化したものといえます。"なんか変" を暗黙知とすることなく、第一印象のフレームを意識的に活用し「心停止が切迫している」かどうか、緊急度を判定しましょう。


意識

小児の「意識」は非常に評価しにくく、泣いていると評価できない、と良くいわれますが、そんなことはありません。力の入り具合(筋緊張)、普段通りのコミュニケーションができるか?などを総合的に評価します。母親とのやりとりや、医療従事者に対する反応にも注目します。

呼吸

呼吸仕事量が増大している徴候(=鼻翼呼吸、陥没呼吸)がないか?空気の出入りがスムーズかどうか?を評価しています。「変な音(喘鳴、呻吟)」がした場合は、スムーズでない、ということになります。
喘鳴は吸気に聴取すれば "stridor", 呼気時に聴取すれば "wheeze" と表記します。stridor は気道の太い部分、wheeze は末梢気道の閉塞を表します。呻吟は、あえぐような声を出しながら呼吸をすることです。
呻吟は声帯をくっつけていきんでいるときに生じます。声帯をくっつけ空気をせき止め、肺を膨らませる作用があります。

循環

心臓から血液が拍出された結果、十分に酸素が臓器に届いているかどうかを評価しています。脈拍は心臓から血液が拍出された結果、動脈の拍動として触れます。脈拍がしっかり触れると言うことは、心臓からしっかりと血液が拍出されているということに成ります。心臓からの血液の拍出が十分でない、血液に酸素が十分に取り込めていないなどの状況では皮膚色が変化します。網状チアノーゼといわれる「まだら模様」(下図)はショックの時などによく見られます。

評価・介入

「第一印象」のフレームを意識的に評価し、なにか引っかかる状態があれば、積極的に「心停止が切迫している」と判断します。結果的に「軽症」であったとしても、構わないと考えています。第一信用を評価する段階では、オーバートリアージを許容し、ざっくりと、「やばそうか」「やばくななそうか」を判断し、最悪の事態を想定しながら評価を継続します。

心停止が切迫している、と判断した場合は、
 ①応援および資機材の要請
 ②高濃度酸素投与
 ③パルスオキシメトリおよび呼吸心拍モニターの装着
を速やかに行って下さい。



小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン