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ひと色展旅行記 中

ひと色展控室でバナナパンを頬張ったぼくは、背負っていたリュックを、どっしりとした象のようなソファにどすりと置く。
中身がとても重たかったのだ。
およそチワワ成犬6匹分ぐらいはあったと、そう言い伝えられている。

さて、イシノアサミはどこなのだろう?
姿が見えぬが。

と、うわちゃんに言う。

そだ。お客さんと一緒にまわりながらお話をしてるだよ、とうわちゃんが答える。


それならば先にちょっとだけあたりをみてまわろう。


ソファから見た空。この写真を眺めていると、不思議と雲が動いているように見える。






回廊の中庭から見上げた空。回廊の窓から、うわちゃんに監視されている。気をつけろ!



クッション越しの回廊の中庭。なめろうではない。回廊である。


大倉山記念館は、なかなかに面白い造りになっていて様々な小さな造りのおもしろき趣に目が奪われる。


コードのカバー。河馬革のコート。カートコバーン。鍛高譚。



トムとジェリーで、鍵穴を覗くトムが眼球に釘を打ち付けられるシーンで使われたロケ地。



鍵穴の向こうには、ヒマラヤスギの森。虫や鳥の声がひびき、鈴の音のような涼しい風が吹く森。



ぼーろさん、アサミさん、そこにいますよ?

鍵穴を覗いていると、うしろからうわちゃんに声をかけられる。すると、回廊の端のほうにイシノアサミの姿がちらりと見えた。

ぼくは重厚な金属扉の向こう側へ行き、うわちゃんやさちさんに声をかけた。  

イシノアサミをここに呼んで!
鍵穴を覗かせて!
わたしが来たことは内緒にして!!


彼女たちはにやりと笑ってとてもゆっくりとうなづいた。




さてここで、ひと色展を出た後の、僕の足取りを一足先に一足飛びにお届けする。



大倉山駅→横浜駅→藤沢駅→江ノ島駅


江ノ電 藤沢駅



江の島



弁天橋からの景色



鳥居と人間の♂♀




江の島の中ほどからの景色


江の島ってちっちゃく見えるからちゅるちゅるってそうめんのようにあっさりいただけるものなのだとばかり思っていたら、江の島の奥へ進めば進むほど観光客たちの顔つきが、誤って人を刺してしまったときのような絶望した顔つきに変わってゆくのがわかった。

江の島はとても広く、一周すると四時間かかるそうな。江の島最深部の洞窟では、もはや誰も喋るものはいない。地獄のような顔つきであった。
浮世絵とかだと子どもたちも楽しそうな感じなのに。



江の島では、福岡の宗像大社の三人の女神、宗像三女が祭られている。自ずと社が三つあるのでそれらをめぐろうとすると島を回ることになる。

あんなに観光客が無口な観光地もあんまりないと思う。


汗をかいてそろそろ補給食がほしいと思い始めた頃に饅頭屋があらわれる。塩羊羹などというものも売られていたが、あえて海苔羊羹というものを買う。

海苔の海洋の滋味。
小豆とさとうきびの大地の滋味。

甘味と塩味が、汗でミネラルを失った体中に染み渡る。旨い。
まずマーケティングとしてこの場所で店をしていることが上手い。江の島はエネルギーを使うから、ここでこれを食べていなければ残りの江の島巡りを断念して海の藻屑となって消えていたことであろうな。


そしてこの後すぐにしらす丼を食べる!



江の島にはタイワンリスが生息しているらしく、店の中をしっぽふわふわの可愛いリスが駆け抜けていった。




こんなとこでビールなんて飲めたら最高なんだけど、ぼくはひと色展のときにはぎっくり腰になるという特殊な病を抱えているので、酒はひとなめもしなかったと言われている。(酒は水を奪うので筋肉にとっては大敵。筋肉が凝り固まって腰を炒めやすくなる。中まで火が通れば空芯菜炒めのできあがり)




江ノ島信仰の根源は海水が掘り進めた洞窟の奥にある。土偶のような顔つきの二体の狛犬が護る石の社。
神秘的な空間でとても勉強になこれからまた同じルートをまた歩いて帰らなければならないとおもうとうなだれった。

江ノ島は美しかった。


蘇我入鹿雲



ひと色展旅行記 下 に続く。

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