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ゆうれい中華飯店 前編

その場所に、中華料理屋があるということは、7、8年前から知っていた。

田んぼの中にあるデイリーヤマザキを越えて、中古車販売の土地の、長いこと売れていない軽自動車の群れを過ぎて右に曲がる。
ふるぼけた民家と、とても小さな水路の間に、その店はある。

店といっても、普通の中華料理屋の雰囲気ではない。
数台駐められる砂利の駐車場には、セイタカアワダチソウやペンペングサがそこかしこに生えていて、窓やガラス戸は、屋根をつたう雨水のカルシウムか、はたまた駐車場の砂煙のせいなのか、擦りガラスのように白くなっている。

店の名前は、黄色いビニールのひさしに、赤色の文字で書かれては、いる。
けれど、営業中の札も、準備中の看板も出ていない。人の気配のしない、まったくもって静かな建物。その建物は「かつては」中華料理屋だったのだろうけれど、現在は営業していない、そんな建物だった。



数年前のこと。
昼ご飯を食べる場所を探そうとGoogleマップを開くと、その店の名前が載っていた。
おもわずタップすると「営業中」とでている。

もしかしたら、誰かがあの空き店舗を買い取って、新装開店したのかもしれない。
ちょうど昼時だったので、僕は車を走らせてそこへ向かう。

店の前につくと、相変わらず駐車場には雑草だらけ。廃墟のような雰囲気で、もちろん人の気配もない。

僕は車を降りて店の中を覗く。
けれども、擦りガラス風ガラス戸の向こうの、スルメ色に日焼けして破れたカーテンに遮られ、中の様子は見れない。
ため息をつく。

もう一度Googleマップを見る。
「営業中」となっている。
もう一度店を覗く。
あきらかに営業中ではない。
いやそれどころか、もう何年も、この建物には人が入っていない。



それから何度も店のそばを通ることがあったけれど、やはりそこは中華料理屋ではなく、ただの廃墟だった。







それから何年もたったある日、というかこの前のこと。
ぼくが例のごとくGoogleマップをいじっていると、すると、またもやその店の名前が表示される。またもや例のごとく何気なくタップしてみると、またもや例のごとく「営業中」となっている。

もう、だまされない。

スワイプすると、レビューがいくつも出てくる。
7〜8年以上前の日付で、結構いい評価ばかりが目に付く。


「酢豚が好き。(七年前)」

「学生の頃はとてもお世話になってました。中華そばがあっさりしていてくせになります。(8年前)」

「 昔ながらの懐かしい味付けの中華屋さん。
子供の頃からお世話になっていて、私の娘もここのチャーハンが大好き。
親子三代で通っています。
看板娘のみーちゃんも可愛くていつも癒されています。   (2ヶ月前) 」




ん?


え?


に…2ヶ月前?



いやいや、え?
ここ廃墟でしょ?



店の写真を見ると、やはりあの廃墟。
けれど、美味しそうな料理の写真も掲載されている。

そして…電話のマークもある。

いやあ、これ、電話かけて、もし電話出たら、それはそれで怖いなぁ。


おそるおそる、電話のマークをタップする。
























るるっ

(か、かかった!)





ぷらららららら

(ほんとにかかるんや。…まあでも出ないよね)






ぷらららららら 

(逆に、電話に出られても怖いよなぁ、)










ぷらららららら

(出ないよね、そうだよね、切ろうかな、)








ぷらっ ぼちんっ がさっ がががす ガチャ!

(ん…?)













「はあい!はあい!あらやだっ、ごめんなさぁいね!〇△飯店ですぅ!」











つづく


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