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ドメインエキスパートPMとは何者か?(マネーフォワードに聞いてみた)

はじめに

はじめまして。クライスPMチームの、菱沼です。今年の3月までマネーフォワード社の人事マネージャーを経験した後、クライス&カンパニーに11年ぶりにカムバック・サーモンしました(所謂、出戻り転職になります)。

これまで弊社PMチームでは様々な角度からPMのキャリアや醍醐味についてnoteを発信してきましたが、今回はにわかに採用ニーズとして広がりつつある「ドメインエキスパート」というPM職の一つにスポットを当ててみたいと思います。

初めて聞いた方も多いかもしれませんが、ユーザー理解を追求するPM職ならではのキャリアとも言えそうなので、キャリアの参考までご覧になって頂けたらと思います。


そもそもドメインエキスパートとはなにか?

ざっくり説明すると、会計・経理財務領域や、人事労務、法務などの専門性が問われる業務系ソフトウェアの開発において、開発チームやセールス・カスタマーサクセスなどのソリューション提案部隊と連携して、プロダクトに「ドメイン知識」を吹き込み、プロダクトの提供価値を高める職種(役割)になります。

※この概念図は企業によって考え方が異なる場合があります

最近では、マネーフォワード、freee、SmartHR、LayerXなどのバックオフィス系SaaS企業でこのポジションを募集されており、配属部署や位置づけなどは多少の差はあれど上記図の様な立ち位置で活動されているケースが多いようです。また、一部のバーティカルSaaS企業でも業界のスペシャリストとしてジョインされることも増えてきています。

例えば、プロダクトの仕様策定時にドメインエキスパートが入ることで具体的な業務フローの解像度や、実際の業務ペインの理解が深まりますし、ロードマップ作成時に業務の専門家として入ることで適切な法令対応なども可能になります(特に会計、労務などは頻繁に法改正がありそのキャッチアップがユーザーペインの一つでもあり、実務理解が不可欠だったりします)。
ユーザーインタビューが即チーム内で実施できるイメージです。

これまでも、PM自身がその知識を勉強したり、自社内のバックオフィス部門にヒアリングすることで補完されてきたわけですが、SaaSプロダクトがますます業務の自動化を進めていく上で、より一層の専門知識をつかさどる専門ポジションとして必要不可欠な存在になっていきそうです。

概念的な話だけだと少々わかりにくいので、私の古巣でもあるマネーフォワード社に依頼し、もう少し踏み込んだ形でドメインエキスパートPMの話を聞いてみましたので、是非一つのケーススタディとして読んで頂ければと思います。


マネーフォワードに聞いてみました

【インタビューにご協力頂いた方々】
『マネーフォワード クラウド』CPO 廣原さん(写真左)
『マネーフォワード クラウド会計Plus』PM 杉浦さん(写真右)

Q:マネーフォワードにおけるドメインエキスパートとは?

廣原さん)まず前提をお話しすると、マネーフォワードは他のSaaS企業と比較してもプロダクトがとても多いのが特徴です。人事、経理、インボイス、リーガルなどの領域を手掛けており、『マネーフォワード クラウド』は、計20のプロダクトが存在します。 加えてクライアントの規模によって必要な機能が異なることもあり、一部の業務領域については、「個人・中小企業向け」、「中堅・上場企業向け」で分けてプロダクトを提供しています。

その結果、PMの人数が多いのも事実でして、現在、数十名規模のPMが在籍する会社になりました。

※クラウドERPをコンセプトに掲げており、経理財務領域、人事労務領域、法務領域それぞれの実務経験を熟知したメンバーが必要になる。


廣原さん)上記の図の通り、マネーフォワードの様な業務系ソフトウェアを取り扱う企業においてドメイン知識は通常のPMでも必要です。
とはいっても、実務経験者レベルの知見を持つことはそう簡単ではないので、ユーザー理解の深いPMとして、経理財務領域、人事領域にそれぞれ複数名ずつドメインに強い実務経験者をPMとして配置しています。ドメインエキスパートという職種名で募集をしたこともありますが、どちらというと当社の様な業務系SaaS企業はPMが全員ドメインの専門家であるべきで、ずっと経理のキャリアを歩んできた杉浦さんは理想的なタイプとも言えます。

Q:ドメインエキスパートがいると何がいいのか?

廣原さん)ドメイン知識が重要というよりは、ユーザーや業務の理解が重要と考えています。この「理解」がないとユーザーが抱えているペインも業務課題も解決できません。また、PMという職に就いてからジョブローテーションなどの機会を作るのも難しいため、予め経験に基づいた理解を有しているのは非常に大きなアドバンテージになります。ユーザーサイドの経験者がチームに1人いるだけでチームの雰囲気がガラッと変わります。開発メンバー周りの人からすると経理の人が隣にいるイメージで、プロダクトづくりにおける空気感が圧倒的に変わります。

例えば「仕訳」という作業においても、エンジニアだと「登録・入力作業」と呼びますが、経理経験があるPMは「仕訳を切る」と呼んだりします。このニュアンスの違いでプロダクトの世界観が全く変わってくるんです。スプリントにおける会話も変わってきますね。当社はドメインに強い人が複数人いることで、実際にユーザーにとって手触り感あるモノづくりができるのだと思います。

実際に経理職からPMに転身した杉浦さんに話を聞いてみました

Q:なんで経理からPMへキャリアチェンジをしたんですか

杉浦さん)僕は2018年7月にマネーフォワードに入社し、経理業務を1年経験した後にPMに転身しました。もともと、自分で手を挙げたわけではなかったんです。当時のプロダクトは上場企業向けの仕様になっておらず、とにかく手間や面倒が多くて(笑)。自社のプロダクトチームにあれこれ依頼・要望をし続け、経理担当にとっての理想を伝え続けていたら、そのままPMチームに引き込まれました。

※笑顔が素敵な杉浦さん

Q:実際にドメインエキスパートとしてPMになってみてどうでしたか?

杉浦さん)最初は職種名がかっこよくて、なんかイケてるな~ぐらいの気持ちで飛び込んだのですが、正直最初のインプット・勉強はとても大変でした。経理や、会計の仕事はある程度正解があり、間違わないことを目標にして動きますが、PMの仕事は答えがない、正解がない仕事でもあり。失敗できる環境ではあるけど、上手く導けないと全くユーザーのためにならない・・という怖さがありました。

ちょうど3年前はまだPMに関する日本語訳の参考書が少なかったこともあり、自分なりにアジャイルコーチや社内の人に質問したり、著名なPMのブログも一通り読み、ちょっとでもPMに関係ありそうな本は読み漁っていたら100冊を超えていました。それでもわからないことだらけで、インプット量が半端なかったです。
今も大変で、慣れるのに1年半はかかりましたが、開発チームの仲間や先輩方のサポートは大きかったですね。

Q:経理と比較してPMの楽しいところは?

杉浦さん)自分が経理担当の視点で「こうなったらいいのに」の理想がしっかりある中で、想像を超えたプロダクトができた時は最高に楽しいです。自分の力では絶対にできなかった機能がエンジニアやデザイナーと共に形にできたりすると本当に最高です。元々わからないことを調べるのが好きで、会計の歴史を紐解き、複式簿記500年の歴史に対し、今の技術、チームであれば、もっと便利にできるんじゃないか・・という実感もあり、そういう楽しみも感じてます。

バックオフィスの仕事ってどうしてもミスが許されない仕事になりがちですが、プロダクトづくりはチャレンジして、失敗から学ぶことが評価になる。これは圧倒的な違いですね。合う人、合わない人ははっきりすると思いますが自分はこのサイクルが好きです。

Q:どんな方がドメインエキスパートに向いてますか?

杉浦さん)私自身、経理実務でめんどくさくてやってられないと感じることや、憤りをたくさん感じていました。どうやったらできるようになるのか?理想の状態はどんな形なのか?どうなったら皆は喜ぶのか?を考えていたら、自然とプロダクトづくりに行き着きました。このような現状の仕事に対する怒りのような気持ちを持っている人には向いていると思います。

また、勉強好き、探究好きなタイプには向いていると思います。現にマネフォで僕と同じルートでPMになる方は最初の1年目はエンジニアの勉強会に参加したり、バックログを書いてみて小さい機能をリリースまでやってみたり、インプットは多いですが学びが楽しい人にはお勧めしたいです。自分が今までやってきた仕事や作業を否定する作業にもなるので、アンラーニングというか適切に自分を否定し、新しい視点を持つことに貪欲な方が向いていると思います。

Q:CPOの視点ではどうですか?

廣原さん)経理でも人事でも法務でも必ず1人はいると思うのですが、勝手に自動化のためにマクロを書いたり、SQLを叩いて周囲のメンバーの手助けをしているような人っていますよね。これ、あなたがつくったの??と思わず聞きたくなる人。誰しもストレスを感じているけども、変えられなかったことをいきなり変革しちゃうような人。そんな方はかなりPMとしての才能があり、職種転向しても、努力ができる人だと思います。

ドメインエキスパートとは突然変異的なキャリアチェンジではなく、案外PMの適性ってそういうことかもしれないと思ってます。是非、業務の理想を持っていて、そこに対する課題意識を持っている方に出会えると嬉しいですね。


最後に:新しいキャリアとしての選択肢

これまで、経理や人事労務、法務といったバックオフィス系職種や、会計士、弁護士、社労士などの士業のキャリアを歩んできた方は、基本的には同じ職種でステップアップするか、他社に転職して年収UPするような転職事例がほとんどでした。
ただ、ここまでご説明した通り、新しいキャリアの選択肢として、「ドメインエキスパートとして、業務ノウハウ・ナレッジをプロダクト開発に落とし込む」というキャリアが生まれつつあります。

今後、ますますソフトウェアによって業務が自動化され、DXが促進されていく中で、ドメインエキスパートという職種、キャリアパスが広がっていく可能性を感じています。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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