見出し画像

アプリが私たちを監視し続ける理由とデータビジネスモデルの本質

アプリのトラッキングが当たり前の世界で、どこまで私たちのプライバシーが守られるのかが大きなテーマになっています。

今回はオックスフォード大学の博士課程でアプリのトラッキングとプライバシーを研究しているコンラッドさんに、アプリのトラッキングとプライバシー問題に関して、お伺いしていきたいと思います。

画像1

Kohei: 皆さんこんにちは。本日もプライバシートークにお越し頂きありがとうございます。本日は英国オックスフォードからコンラッドさんへインタビューしていきたいと思います。

彼は素晴らしい研究者で、これまで数多くの研究結果を発表しています。そんなコンラッドさんに本日はお話をお伺いしていきたいと思います。

本日はインタビューにお越し頂き、ありがとうございます。

Konrad: こちらこそご招待頂きありがとうございます。

Kohei:ありがとうございます。早速コンラッドさんのプロフィールを紹介したいと思います。

コンラッドさんは現在オックスフォード大学の博士課程に在籍されているコンピューターサイエンスの研究者です。スマートフォン利用者に対する監視状況に関する分析を行っています。

研究者であり、アンドロイドユーザーがスマートフォンの監視状況を自ら管理できるTrackerControlの開発者でもあります。メインの活動は、事業者によるスマートフォン監視を減らすような取り組みを行っています。

改めまして本日はお時間を頂きありがとうございます。

Konrad:こちらこそありがとうございます。

Kohei:ではインタビューのテーマに移っていきたいと思います。インターネット上でコンラッドさんのこれまでの活動を色々と拝見していたのですが、面白い分野の研究が数多く実施されていて、私も近い分野に関心を持っているので、とても参考になる内容ばかりでした。

プライバシーを自ら管理することの大切さに気づいたきっかけ

始めにコンラッドさんが、インターネット分野に関心を持ったきっかけに関してお伺いしたいと思うのですが、なぜこの分野を深く研究しようと思ったのでしょうか?

Konrad:プライバシーに関する研究ですよね?そうですね。小さい頃からコンピューターサイエンスにはとても関心がありました。プライバシーに興味を持ち出したのは、15歳くらいからだったと思います。10代の時には、コンピューターを持つことが許されていませんでした。

コンピューターの代わりにラズベリーパイを小さなコンピューターに見立てて遊んでいました。ラズベリーパイのデバイスへGoogleから私のデータを別のサービスに移したりしていましたね。

図:ラズベリーパイを通してデータを移動する遊び

画像2

当時、自分のデータがデジタル上のどこかへ持ち出されて、自分が管理できないことにうんざりしていました。

そこで、自分のデータをラズベリーパイに移そうと考えたのです。色々と試みましたが、残念ながら上手く行きませんでした。当時はとても面倒な作業が多いなと感じたことを覚えています。今では、技術的にも改善されて出来ることも増えています。

プライバシー研究を始めてから、プライバシー保護技術を知り、ドイツの大学でコンピューターサイエンスの学部単位を取ってから、オックスフォードに入学しました。

私がデータ保護とプライバシー研究に携わるようになったのは、これまでに紹介した経験が大きな理由です。今は、オックスフォードで素晴らしい人たちと一緒に研究をすることができています。特にナイジェル・シャドボルト先生にはお世話になっており、周りの研究者の人たちからも刺激を受けています。

Kohei:ありがとうございます。これまでに数多くの研究結果を発表されているとおものですが、コンラッドさんが研究しているメインの研究テーマは何になりますか?

コンピューターサイエンスが解決するユーザーのプライバシー問題

Konrad: そうですね。私はコンピューターサイエンティストとして活動しているので、コンピューターサイエンスの観点からデータ保護とプライバシーに関して研究しています。

データ保護に関する研究では法律や政策をテーマにしている方もいると思いますが、私はこれまでにそういった分野を深く学んだことはないので、専門知識があるわけではありません。

私の場合は、これまでにコンピューターサイエンスを学んできたので、コンピューターサイエンスの手法を活用して政策に貢献できる方法を研究しています。

実際に、2017年と2020年にアンドロイドとiOSを合わせて200万のモバイルアプリデータを集め、ユーザーに対して長期的な未来に起こりうる影響を分析してきました。

この分析を通して、アプリ上でのプライバシー行動の変化がわかったので、その結果をもとに現実世界でプライバシーに関する人の行動変容を生み出す手法を開発しています。そして、個人に対してどういった影響を与えるのかも研究しています。

図:アプリを分析することでプライバシー行動を理解する

画像3

Kohei: わかりました。とても重要な研究テーマですね。データを安全に保護するためには、サードパーティトラッキングやアプリのトラッキングは解決する必要がある問題だと思います。コンラッドさんの研究は企業が規制に対応し、消費者に安全なサービスを提供するためにも必要な研究だと思います。

GDPRが誕生して私たちのプライバシーは本当に守られているのか

次に、これまでのプライバシー研究内容をもう少し深くお伺いしたいと思います。私が拝見した研究結果には、トラッキング分析の内容が記されていました。

研究結果では、GDPRが施行された後にも関わらず、サードパーティトラッキングは減っていないと書かれていたことが印象に残っています。

個人的にこの研究結果にとても関心があるのですが、結果を詳しく教えていただくことはできますか?

Konrad: わかりました。私たちが行った研究は、GDPRの施行前と施行後でアプリのトラッキングにどういった変化があったのかを分析したものです。結果を説明する前に、なぜこの分野を研究しようと思ったのか背景をご紹介したいと思います。

私が研究に携わる前の、2017年と2018年に同じ研究メンバーが100万近くのアンドロイドアプリデータのプライバシー分析を既に行っていました。

どういった企業がデータを多く保有し、どのようにマーケットで優位な立ち位置を築いているのかということをテーマに研究を行っていました。この研究は同僚のMax、Binns、そしてナイジェル・シャドボルト先生が分析した結果です。

今は、同じ研究メンバーが過去に実施した研究手法を活用して、GDPR施行前と施行後でどういった変化が起きているのか、法律以外の要素も含めて分析をしています。私たちはモバイルアプリデータに関する分析を中心に行い、これまでに行われてきたアプリデータの監視状況の分析を行っています。

アプリが私たちを監視し続ける理由とデータビジネスモデルの本質

当初私たちは、新しく法律が施行されたことで企業のプライバシー対応も変化したのではないかと考え、2017年から分析してきた100万のアプリと新たにダウンロードした100万のアプリの比較検証を行いました。

2017年に実施した方法と同じ手法でアプリをGoogle Storeからダウンロードし、同じ環境下で比較を行いました。2017年に英国のGoogle Storeで検証した際には、英国は欧州の一部で、GDPRが2018年5月に制定されてから影響を受けていましたが、その後英国は欧州から離脱しています。今回の研究では、離脱前と離脱後の2017年と2020年の結果を比較しています。

図:GDPR後のアプリデータの傾向を分析

画像4

分析を行う際には二つの傾向を観察するようにしました。一つ目が、アプリのトラッキング量に関しての分析です。

データを分析をして、トラッキング企業へのデータ提供設定を変更していないアプリが全アプリの平均値を上回っていたことがわかりました。これは2017年の研究同様に、多くのデータがトラッキング機能を利用して、FacebookやGoogleに渡っているということになります。

二つ目に、データを所有する企業の割合に大きな変化がなかったということです。別の方法で表現すれば、少数の企業が大規模なデータを保有している状況が続いているということです。

ただ、この結果はGDPRが施行された後に、何も変わっていないということを意味するものではありません。アプリは現在もデータ提供モデルに依存していて、このモデルで少数の企業がビジネスに成功しているということです。

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編は、次回お届けします。〉

データプライバシーに関するトレンドや今後の動きが気になる方は、Facebookで気軽にメッセージ頂ければお答えさせて頂きます!
プライバシーについて語るコミュニティを運営しています。
ご興味ある方はぜひご参加ください。

Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?