見出し画像

エキスパートが欧州委員会の会議で求められる役割とは

※このインタビューは2023年5月5日に収録されました

欧州委員会では幅広くAIについての議論を進めています。

今回はリサーチサイエンティストとして活動し、欧州委員会の各種検討会にもエキスパートとして参加されているアガタさんに、欧州委員会で議論されているAIに関する取り組みについてお伺いしました。

Kohei: 本日もPrivacy Talkにお越し頂きありがとうございます。今回はポーランドからアガタさんにお越し頂いています。彼女が専門家として活躍しているAIとデータについて、お話を伺っていきたいと思います。アガタさん、本日はインタビューにお越し頂きありがとうございます。

Agata: みなさま、こんにちは。本日はインタビューにご招待頂きありがとうございます。私の考えや意見をお伝えできる貴重なインタビューの機会を準備いただきありがとうございます。

Kohei: こちらこそご参加頂きありがとうございます。では早速アガタさんのプロフィールを紹介していきたいと思います。アガタさんはAIとデータの専門家、そしてIA/CA A&RリサーチサイエンティストとしてポーランドのResearch Lab CODR.PL, WWSISで活動しています。

現在は欧州委員会でエキスパートとして、イノベーションに友好な規制について検討する委員会、デジタルプラットフォーム経済調査に関するアドバイザリー委員会、人工知能とデータに関する教育及び研修についての委員会を始めとした様々な委員会で活動されています。

今回のインタビューでは、アガタさんのこれまでのご経験や活動についてお話をお伺いしていこうと思います。改めて、本日はインタビューの機会を頂きありがとうございます。

Agata: こちらこそありがとうございます。インタビューに参加でき光栄です。

欧州委員会でエキスパートとして働き始めることになった理由

Kohei: ありがとうございます。では早速始めの質問に移っていきたいと思います。アガタさんはこれまでに欧州委員会のエキスパートとして様々な委員会に出席されてきたと思います。ここまでの活動についてとても興味があるのですが、欧州委員会で活動することになった背景と、これまでのご経験についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

Agata: わかりました。欧州委員会へ関わり始めたのは、私が研究活動に邁進している時でした。かなり前の話になりますね。元々は欧州法について関心があったのですが、法律だけでなく情報技術についても関心を持って研究していました。

当時、クラウドを活用してデジタルコンテンツとして博士論文を提出したポーランドで初めてのケースだったと思います。研究を通して、私の経験や知見に関心がある人たちへ広く情報を伝えていきたいと思ったので、研究結果を形にして発表することにしました。

欧州委員会ではエキスパートを選定するための手続きがあり、私は独立エキスパートとして研究を進めていく過程で運よく参加することになりました。当時参加した委員会は、欧州でのデジタルプラットフォーム経済についての研究会で、デジタルプラットフォームの公正性と透明性について検討する委員会でした。

その後、デジタル単一市場について検討する様々な委員会へ参加することになります。各委員会では、私の知見や意見を独立した専門家の観点から提供し、人工知能の活用目的や教育やトレーニング等についても議論を行い、ガイドラインの取りまとめ等に関わってきました。

それだけでなく、複数の異なる活動にも積極的に参加するようになりました。最近欧州委員会が公表した国際的な友好関係に関するアドバイザリーグループ等でも活動を始め、現在も引き続き議論を進めています。

私が政府の活動に関わっている理由は、より良い未来を作っていくために私がこれまでに築いてきた観点や興味について、一意見として役に立ちたいと考えているからです。

勿論、私個人の意見だけが正しいというわけではありません。私は、委員会等の活動に参加することによってより良い人間社会に貢献したいと思っています。

私が掲げていることは理想論に近いことでもあります。研究を始めてから15年が経ち、独立した専門家としての活動が非常に重要であるとも感じています。ルールを検討する際に人を中心にした倫理的な考えや子供への配慮、年配の方への対応等を十分に検討することが必要になります。

加えて、複数の参加者やステークホルダー等の意見も広く募りながら議論を進めていくことが重要です。複数のステークホルダーと連携することによって、特定の個人や企業の利益に偏ることなく幅広い関係者の考え方を考慮した上で検討を進めていくことができるようになります。

関係者と一緒により良い未来について検討を進めていくために、実装を見据えた理想的なアイデアを検討することができるようになります。

Kohei: 素晴らしいですね。アガタさんが欧州委員会の会議に参加する前には、どういった研究分野を専攻されていたのでしょうか?法律に関する研究もされていたと思うのですが、ご自身の専門分野を決めた理由についてもお伺いできると幸いです。

欧州委員会の中で求められる専門的なスキルと考え方

Agata: そうですね。私の場合は少し複雑で、物理と法律を同時に研究していました。加えて、バイオ技術に関する研究にも関わっていました。一つの専門分野を極めるというよりも、複数の専門知識を組み合わせる学祭的な研究に取り組みながら、それぞれの分野の関連性について研究していました。

研究を通じて、それぞれの専門分野がどのように繋がり、科学的な知見とプログラミングやコーディング等のスキルが上手く連携していくのかについて関心を持って活動をしていました。

一方でここまで紹介したように、どうやってこれまでの私の経験を提供し、法律家としての専門性も組み合わせながら関わっていくことが良いかについても考えているところです。

興味や関心ごとが異なる人や、持っているスキルが全く違う人が集まって議論を行うことはとても有益です。複数の専門性を組み合わせることで、より幅広い知見をもとに議論を進めていくことができ、特定のグループ内で議論を行うよりも幅広い視点で物事を捉えることができるからです。

画像:専門性を組み合わせることで視野を広げる

多様なバックグランドを持った人が集まるため、意見がまとまらない時もあります。他人の考え方を自分なりに解釈してしまうので、そういったコミュニケーションのすれ違いが起こりがちです。

そこで、私の場合は数学と物理学を組み合わせ、法律の背景にある考え方を専門性を持って話をするようにしています。この伝え方は、委員会の会議に限らず幅広く応用できます。

異なる要素を自分なりに組み合わせることが大切です。数年前から私自身の専門性や背景について、ポーランドで議論する際にトレーニングを行なってきました。

テクノロジーと法律の観点を組み合わせたり、経済と倫理的な考え方を法律の専門性に基づいて組み合わせることによって、科学的な知見を持った方にわかりやすく伝えられるようになります。

私は、こういったスキルをこれまでに培ってきたことで、他の参加者にとっても気持ちよくやり取りができるような場の設計を考えています。

エキスパートが欧州委員会の会議で求められる役割とは

Kohei: 貴重なご経験を共有いただき、ありがとうございます。アガタさんの素晴らしい専門性は、欧州委員会の専門家グループでの最近の活動にも繋がっているのではないかと思います。

これまでに様々な委員会へ専門家として参加され、貢献をされてきていると思います。現在、欧州委員会の専門家グループではどういった役割を担われていて、これまでにグループメンバーとどういった議論を展開されてきたのでしょうか?

Agata: ありがとうございます。欧州委員会は欧州連合の中で民主的に議論を取りまとめていく一つの部門であり、欧州域内の1000以上のテーマについて議論を行なっています。私たちは一般の市民からも意見を広く募り、政策を決める人たちに対しての要望や懸念についても話を伺っています。

例えば、一般の方からウェルビーングに対する懸念点等についても意見を募集したことがあります。こういった広く意見を募る目的から、欧州委員会と欧州議会ではアドバイザリーボードを設置し、独立した専門家や組織、その他関連するステークホルダーが議論に関わることができるような機会を設計しています。

このように開かれた設計にしている理由は、より良い政策を作り上げることを目的としているからです。政策を議論する過程において、どういったテーマについて議論を深めていくか、目的は一体何かを選定した上で、目的から議論を進めていくことになります。

このアドバイザリーボードは、ただアドバイスや貢献するために設置されたものではありません。特定の目的を達成するために、必要な条件に集中するために準備されたものです。

ですので、独立した専門家として議論に関わることができることは、とてもありがたいことです。専門家は議論の中で、これまでの経験や知見、一般市民に関連した政策テーマを取り上げます。

議論の中では、それぞれが異なる役割を持って参加します。参加するグループ内で、15から多い時は30人が参加し、特定の時間で発言を行います。グループでの会議に向けて、スケジュールや計画を準備してくれる方がいて、欧州域内からの参加者の状況を考慮しながらそれぞれにあった形で準備を進めてくれます。

画像:幅広い専門家が委員会の議論に参加する

先月行われた会議では、欧州のことに限らず少し意見が発散してしまう場面もありました。会議の中では、インターネットの接続環境や物理的なセキュリティサービス、データ利用の際の共有、複数のアプリケーション利用等のテーマを扱う際に、世界的にどういった影響が考えられるかを話し合うことになりました。

具体的なインパクトで言うと、我々人間の生活にどういった影響があると考えられるか、教育の形はどのように変化していくのか、そして、環境問題や健康等についても触れることになりました。

これ以外にも様々なテーマについて議論を行いました。参加者それぞれが解決策を導き出していくために、専門家ではない部分についても検討を重ねていましたが、その中で「私の意見が正しい」というような主張が出てくることもありました。

こういった場合は、誰かの意見が全て正しいのではなく開かれた質疑を行うことが必要です。議論を行う際にはできる限り多くの意見を募り、幅広い視点で検討を行うことが大切です。

議題が複雑なことが多いため、一人で見ることができる視点を広げて考える必要があります。厳しい意見を述べるのではなく、議論や結果の代わりに内容を整理していくことが求められます。

誰か一人が欧州委員会の議論に独立した専門家として参加する場合は、特定の人以外も同様の専門家であると考えます。議題について広く公から意見を募集するようなコンサルティングフェーズでさえ、一人一人の意見を重要な意見として取り扱うべきです。

意見を発信した人が日本に住んでいたとして、コンサルテーションに参加する人であれば同様の扱いを行う必要があります。

欧州委員会が求めるHLEG(High Level Expert Group)は誰か一人によって構成されるものではなく、専門家として参加する場合は特定のスキルや情報を持った人ととして参加し、ドキュメントの情報を取りまとめて質問をするような役割を担います。

実際は、技術的な要素も求められることもあります。ただ、一人の専門家の意見や経験だけに頼ってしまうのではなく、異なる考え方を持った人たちが参加することも必要です。

一人一人の権利を尊重する議論を進めていくためには、それぞれが大切にしている要素を上手くバランスをとりながらまとめていくことが必要です。

私たち専門家は機械を構成する部品の一部で、これまでの研究分野で培ったスキルや知見を集約するような役割を持って未来を評価するようなことを目的に参加しています。私たちが議論に参加する目的としては、グループの中で様々な意見を共有し、全体として最適な方向へと導いていくことだと思います。

Kohei: 非常に興味深いお話をありがとうございます。独立した専門家がグループに参加する際には、お互いの意見を尊重し、意思決定の過程において異なる背景を持った人たちが集まり議論する土壌があると言うのはとても大切だと思います。意思決定における多様性は、一つのコンセンサスを考える上で、重要な要素になっていきそうです。

こういった取り組みを通して、欧州では民主的な手続きを経て意思決定を進めていると思います。複数の関連するステークホルダーが参加できるような設計を行い、欧州委員会と欧州議会ではそれぞれに議論が進められていると思います。

独立した専門家として、新たに欧州の政府機関でドラフトを取りまとめる際にはどういった手続きを踏んだ上で作成を行っているのでしょうか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編は、次回お届けします。〉

データプライバシーに関するトレンドや今後の動きが気になる方は、Facebookで気軽にメッセージ頂ければお答えさせて頂きます!
プライバシーについて語るコミュニティを運営しています。
ご興味ある方はぜひご参加ください。

Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?