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対話を通してお互いの学びを深めていくために必要なこと

プライバシーに関するテーマは、法制度やテクノロジーだけに限らず、歴史的な背景を紐解いていくことが非常に重要です。

今回はコペンハーゲン大学で教授を務めるメッテ先生に、プライバシーの歴史と多様な学術研究が連携することの重要性について、お伺いしていきたいと思います。

前回の記事から

Journal を通じてプライバシーについて成し遂げていきたい目標や目的は設定されていますか?

対話を通してお互いの学びを深めていくために必要なこと

Mette:そうですね。過去と現在について対話を行うことは非常に興味深く有益だと思っています。丁度ベルギーのブリュッセルで開催されたComputer Privacy Data protection Conference(CPDP)のプログラムで過去と現在についてのワークショップを実施し、そこで研究者の活動を紹介しました。

研究テーマである現代の国境を越えた監視やその管理方法等について、センターで近現代の移民と国境での監視規制について活動している歴史研究者等を交えて議論を行いました。

そこで現在と過去について話し合うことは改めて重要であると思いますね。議論の中ではお互いを理解するために時間をかける必要がありました。私が Journal を通して考えていることは、今回のワークショップで生まれたように過去に起こったことから現在へ問いかけるような議論が生まれるきっかけになれば良いと期待しています。

ここまでのお話は私がセンターで成し遂げたいことの一つで、プライバシーの歴史を深く見ていくことによって空間認識が広がり、宗教のようなこれまで考えることがなかったプライバシーに関しての新しい視点が見つかるようになります。

信頼できて、価値があるシステムとは歴史的な文脈から考えるとどういったものであるのか?」という問いの立て方が重要です。プライバシーについて考える際に、私たちはこういった歴史的な視点を難しい問いに対して立てるようにしています。

図:信頼と価値のあるシステムとは何か

現在のシステムが信頼できるか否かを判断する際には宗教的な側面が必ず必要であるということはありませんが、私たちのプライバシーやデータ保護について全体の概念を考える際に、宗教的な側面から考えてみることが必要になると思います。

例えば、私たちが物事を信じる基準や人類、民主主義や自由とは何かという難しい問いに対しては歴史的な視点を加える必要があると思います。

歴史を学んでいくことによって、一見難しい問いに対しての考えを深めていくことができます。現在取り組んでいる Journal が私たちが生活する世の中のシステムを考え直すきっかけになれば嬉しいですね。

Kohei:私もそう思います。Mette先生が取り組んでいる Jounal はこれまでプライバシーについて考えて来なかった新しい分野の人たちにとっても良い機会だと思います。一人一人がプライバシーについて考え、公共と私的空間について議論を行うことが必要だと思います。

またプライバシーの考え方は国によっても大きく異なると思います。お互いの違いを理解しつつも、納得できるプライバシーへの理解が必要になると思います。先生の取り組みがその橋渡しになると素晴らしいですね。

Mette:まさにそんなことを考えています。私は参加者の聞く姿勢が非常に重要だと考えていまして、文化や規範の違いを過去と現在の視点で共有することが重要だと思います。この共有する行為がとても重要であり、Journal が担うことができる役割ではないかと期待しています。

対話の中で相手を理解するために必要なトレーニング

Kohei:素晴らしいですね。次に今後の計画についてもお伺いしたいと思います。センターのウェブサイトを拝見すると、学術的な連携についての説明がいくつか掲載されていました。

学術的な連携については、非常に興味深い取り組みだと拝見していて、地域ごとの違いや、文脈、歴史等を軸に連携を進めていくのではないかと予測していました。センターで検討している学術的な連携調査について、今後の計画を教えていただくことはできませんか?

Mette:はい。勿論です。学術的な連携調査は非常に難しく、一定のトレーニングが求められます。私たちのセンターでは一定の基準に沿って研究者がトレーニングを行っています。科学的な議論を行う際に、多様な視点で別分野のテーマを扱う必要もあります。

私たち研究者はお互いの分野に関する理解を深めるために、仲間として座りながら話を聞くようにしています。

学術的な調査で協力することはプライバシーについて幅広い視点から考えるために最適であるのですが、運用するためにはやはり体系的なトレーニングが必要になります。このトレーニングは非常に厳しいもので、他者の考え方を受け入れる精神的な対応能力が求められるようになります。

図:他者を精神的に受け入れる能力

共同での取り組みに参加する人たちがお互いにトレーニングを行うことで、お互いの文化的な背景や視点を聴きながら、過去を理解することによって深めていくことができるようになります。

学術的な共同調査を実施することは研究者の人たちにとっても良い影響があると考えていて、異なる文化や背景を理解することは研究者の人たちが幅広い視点で物事を捉えることに繋がり、長期的な視点を持った研究者の育成につながっていくと期待しています。

プライバシーが西洋の文脈から誕生したとすると、世界各国の法律はプライバシーについてどのように考えているのであるかやテクノロジーによってどういった影響が生まれてくるのか等の建設的な議論を行うことで、より幅広いテーマとして取り扱うことができるようになると思います。

Kohei:ありがとうございます。

これまでに実施した研究の中で、学術的な共同研究の要素を持って取り組んだケースはあるのでしょうか?具体的にイメージするために教えてもらえると嬉しいです。

コロナ禍で起きた変化から、未来の環境設計につなげるためのヒント

Mette:はい。2つのケースがあります。一つ目が歴史に関する調査で、もう一つが現代のプライバシーに関する調査です。学術的に協力して調査を実施する際に、課題になるのが調査結果が目に見えて非常にわかりづらいということです。

私の同僚で教会の歴史を専門に研究している人がいるのですが、現在は私も一緒に歴史に関する調査を行っています。

「ある王女が現代ドイツの初期におりまして、彼女は医薬のレシピを作成し、彼女は祈りについても説教師と対話を行っていました。」

私たちが研究を行う場合には、この二つの事象を分けて考えることが多いと思います。教会学の歴史を研究する人たちは祈りに注目し、心理学の歴史を研究する人たちはレシピに注目するでしょう。

ただ、この二つの学問が一緒になって研究を行うことによって、一人の人物から祈りと心理療法の側面で文化的な文脈を見通すことができるようになります。

さらに、一人の人物を通してより幅広い視点で物事を見ることができるようになります。私たちの生活環境は複数の異なる要素によって成り立っているため、これまでの歴史を紐解いて研究する際には、異なる要素を組み合わせて取り組むことが重要なのです。

ここまで一つの例を紹介しました。もう一つ紹介したい事例がありまして、その事例はコロナ禍とコロナ後での生活に関するプロジェクトです。この “Stay Home” というプロジェクトはプライバシー研究センターから独立し、コロナ禍での家庭内の生活体験を描いた取り組みです。

この取り組みを通して、どういった家庭内の生活環境が良いのかを学び、未来の環境づくりにつなげていきます。プロジェクト内では建築家の人たちや家族に関する研究を行っている研究者、科学やテクノロジーを研究する学者の方々も混じって、横断的な研究テーマとして取り組んでいます。

プロジェクトを通して得ることができた最も重要な成果は、毎週プロジェクトミーティングを開催することができたことに加えて、コロナ禍でドメスティックバイオレンスを経験した家族歴史学者と建築家が共同で取り組めたことであると思います。

建築家がドメスティックバイオレンスを経験した学者から話を聞くことによって、彼の建築に対する考えの一部としてドメスティックバイオレンスという認識が宿ることになります。

専門家のマインドセットが変わることで見えてくる新しい概念

建築手法によってドメスティックバイオレンスを防ぐことは非常に難しいのですが、部屋の明かりや機能を少し変えること等を通して、どのように安全性やウェルビーングにケアした設計を考えれば良いのか?ということを考えられるようになると思います。

さらに、形で説明することは難しいのですが、建築家のマインドセットにバイオレンスという概念が加わり、建築学の中に新たらしい視点が加わることになります。

図:専門家に新しいマインドセットが加わる

ドメスティックバイオレンスが建築の概念要素の一つになるということです。学術的な連携を進めていくことで、お互いに刺激し合い新たな発見につながることがあるのです。

時には目に見えない形で刺激し合うこともあります。私たちの研究を通して、目に見えない形でお互いに気づきが生まれることが重要です。

Kohei:ありがとうございます。先生がおっしゃるようにさまざまな視点から研究に関わっていくことが重要だと思います。お互いの歴史から学び合い、関心のあるトピックを拾っていくことが重要で、先生がセンターで取り組んでいることは素晴らしいと思います。

最後に視聴者の方へメッセージを頂いてもよろしいでしょうか?プライバシーコミュニティで活動しているか否かに関わらず非常に重要なテーマを取り扱われているので、ぜひ先生からメッセージを皆様へお願いできればと思います。

Mette:私からは幅広いアプローチが非常に重要であることを再度お伝えできればと思います。参加者それぞれが異なった考え方を持ち、お互いに理解し合いながら学んでいくことがとても重要であると考えています。

プライバシーを分析し研究することは、とても幅広いテーマで素晴らしく重要なトピックです。私は小規模グループや社会での個人とコミュニティの関係を通して、プライバシーを理解し始めることができました。現在はテクノロジーと人の関係に繋がっています。プライバシーには様々なテーマがあり、人によって異なる視点を集めていくことが必要だと思います。

Kohei:ありがとうございました。とても素晴らしいメッセージですね。今日のお話を引き続きアップデートしていきましょう。今年の秋に出版される Journal も楽しみにしています。私の知り合いの皆様にもご紹介したいと思います。

Mette:今日は貴重な機会をありがとうございました。

Kohei:ありがとうございました。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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