デジタル時代にユネスコが掲げるミッション
※このインタビューは2022年12月20日に収録されました
各国の法規制に限らず、国際機関でもAIについての新しい動きが始まっています。
今回はフランスパリにあるユネスコでデジタルトランスフォーメーションのディレクターを務めるマリエルザさんに、国際機関における新興技術への取り組みについてお伺いしました。
Kohei: Privacy Talkにお越しいただきありがとうございます。今日が2022年最後のインタビューです。本日はフランスのパリからマリエルザさんにお話をお伺いしたいと思います。彼女の取り組みはこれからのデジタル社会にとって重要な活動として広がっていくと思います。
マリエルザさんは現在ユネスコでデジタルトランスフォーメーションのディレクターを務められています。マリエルザさん、本日はインタビューにお越しいただきありがとうございます。
Marielza: ありがとうございます。非常に光栄です。どうもありがとうございます。
Kohei: ありがとうございます。始めに、彼女のプロフィールを紹介したいと思います。
国際社会を舞台とした幅広いキャリアのお話
マリエルザさんはブラジル出身で、現在はユネスコで情報・コミュニケーション部門のデジタル包括、政策、トランスフォーメーションプロジェクトのディレクターを務めています。
2021年2月から2022年11月までは、同様の部門でパートナーシップ及びプログラムオペレーション管理のディレクターを務めていました。2015年から2020年は、ユネスコ北京のディレクターとして5つの東アジア圏の国を統括し、その前にはデータサイエンティストとして国連開発計画(UNDP)グローバルリザルトマネージャーを務め、2001年から2015年にかけてはラテンアメリカのポートフォリを管理するカントリーマネージャーを務めていました。
1987年から1991年にかけては、U.S. アーミー・コンストラクション・エンジニアリング・リサーチ・ラボラトリーでシステムエンジニアとしてAI関連のシステム開発に携わり、1995年から1999年まではブラジルの非営利教育機関Fundacao Dom Cabralでシニアコンサルタントとして働いていました。
2000年から1年間ブラジルのIBMECビジネススクールでエグゼクティブ教育のディレクターを務めました。マリエルザさんは金融修士とビジネス博士をイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で取得しています。
本日はお時間をいただきありがとうございます。
Marielza: 本日はご招待いただき、ありがとうございます。
Kohei: ありがとうございます。早速インタビューに移りたいと思います。始めに、マリエルザさんの活動について、お伺いしたいと思います。これまで様々な国際情勢に関連した取り組みを推進されてきていると思います。マリエルザさんはなぜこの分野で取り組もうと思ったのでしょうか?
国際機関を活躍の場として選んだ理由
Marielza: ありがとうございます。先ほど私のプロフィールで紹介いただいたように、私は他の国連スタッフとは少し異なったバックグラウンドを持っています。国際機関だと、開発や国際関係等の活動を想像される方も多いかもしれません。
しかし、私の場合は金融の修士を取り、ビジネスの博士を取得した後に民間から職員になったこともあり、民間としてブラジル政府や米国政府と働いた経験から国連に入った経歴を持っています。特に、生活の質を向上させる活動や貧困の改善等に関心を持ったことが私の活動の原点になります。
私が民間部門で政府関連のプロジェクトや大学の部門トップとして活動していたことが、国連という場を通じて人々の生活をよくしていく考え方に繋がっているのだと思います。私の特殊な経歴のお陰で、これまでに取り組まれていなかった課題へ取り組むきっかけにもなっています。
私が国連に入ったのは2001年のことですが、今から考えると22年以上も前のことになります。初めて関わったプロジェクトが、ブラジルの都市を近代化するというもので当時の税徴収の仕組みを近代化し、これまで徴収できずにお金が循環していなかった仕組みを変える取り組みでした。
十分に税の徴収ができない場合には、教育や健康等の公共サービスにお金が回らない問題が発生します。そこで、私たちが税の徴収を実現できるようにプロジェクトを推進したのです。
国連開発計画の本部がニューヨークにあったので、ブラジルから活動を始めましたが、ニューヨークに渡り活動を推進したことを覚えています。当時の金融長官が出迎えてくれました。
病院や道、学校などが税の徴収の仕組みを変えることによって、設立され何百もの学生たちにより良い教育機会を提供することができるようになっています。私はこういった活動を夢に描いていたので、ニューヨークの国連開発計画に赴任することになったことで実現できるようになりました。
現在はユネスコに移り新しい活動に取り組んでいますが、教育やサイエンス、文化を通して平和を築いていくことはとても素晴らしいことで、使命感を持って取り組んでいます。私のこれまでの経験でしたが、お話を聞いていただきありがとうございます。
Kohei: とても興味深いお話でした。マリエルザさんは金融からキャリアを始められていますが、金融に興味を持った理由は何かあるのでしょうか?
Marielza: 金融は私の関心事項だったからですね。実際に働き出してみると、定量スキルやプログラミングスキルなど、私があまり気にしなかったことも必要になりました。そういった経験から、私自身異なるシステムや経済制度が社会にどのような影響を与えうるのかにも興味を持つようになりました。
私の活動がシステムへ影響することが増えてくると、財政政策のマネジメントやマクロファイナンスが社会にどういった影響を及ぼすのかを研究することが必要になりました。こういった調査や目標についての検証は私の関心領域でしたね。
仕事を通して必要に迫られるようになり、修士課程を取得することになりました。ただ、社会心理学等のより深い知見についても求められるようになっていたので、ビジネスの博士課程にも進みました。博士期間の半分はビジネスを学び、もう半分は認知科学について学びました。
そういった経験を経て、人工知能システムやプログラミングについても取り組むようになります。新しいスキルに向き合うことは、あまり苦ではなく自然に取り組めました。
プログラミングを始めとしたスキルを学んでいたことで、U.S. アーミー・コンストラクション・エンジニアリング・リサーチ・ラボラトリーでソフトウェアエンジニアとして活動することになりました。
その後はブラジルに戻り、コンサルタントとして民間企業の支援を行っていました。ただ、コンサルタントとして資本市場に向き合うよりも、社会的な課題に向けた仕事に関心があったのも正直なところです。
社会に貢献するために、営利型の企業ではなく、別の選択肢を模索していました。社会的な課題に向けてのお仕事の依頼を頂いた際には、とても喜びましたし、今も後悔はしていません。
民間企業で務めていた時に携わった民間の人工知能に関するプロジェクトの金銭的な対価とは大きく隔たりがありましたが、私は社会的な課題に取り組む選択をしました。
もちろん、私の選択にはとても満足していて、自分で決断したことにとても喜びを感じています。
Kohei: とても独特な経歴ですね。新しく社会的な課題解決へとキャリアを選択しながら、具体的な解決策へ向けて取り組んでいくことは、視聴者の方にも参考になると思いますし、スキルや経験を高めていくための考え方として非常に勉強になりました。
これまでの活動についてお話しいただき、ありがとうございます。現在はユネスコで活動されていると思うのですが、マリエルザさんはユネスコで何をミッションに掲げて取り組んでいるのでしょうか?ユネスコ内でも様々なプロジェクトがあると思うので、お伺いできると幸いです。
デジタル時代にユネスコが掲げるミッション
Marielza: そうですね。ユネスコは素晴らしい組織で、歴史的低開発地域(HUBZone)を対象として、男女問わず平和に向けた活動を推進していくことです。
これがユネスコが掲げている基本的な取り組みの一つです。そして、言葉やイメージによって新しいアイデアが自由に生まれたり、教育や文化、科学によって新しいアイデアが広がったり、コミュニケーションや情報が広がっていく活動を進めています。
私がユネスコで担っている役割は、始めに紹介して頂いた通り、コミュニケーションや情報分野でのディレクターを務めています。私の活動には、コミュニケーションや情報分野でのデジタル変革、デジタル包括やデジタル政策等が含まれます。
私の部門では、表現の自由と情報へのアクセスについて積極的に取り組んでおり、プライバシーを含めた活動を進めています。
加えて、各地域でデジタル上の人権をもとにしたデジタル変革が生まれるような支援を進めています。各国でテクノロジーを導入した変革は進んでいますが、まだ社会全体に影響を及ぼすほどの広がりはなく、全ての人々を前提した設計にはなっていません。
設計段階で包括的でなければ、デジタルによる分断が起こってしまいます。様々な分断が各地で広がっていますが、特に重要なポイントが二つあります。一つが接続に関する問題です。
全ての人がインターネットに繋がることができていないことに加えて、繋がる必要がない場合でもインターネットに接続されてしまっていることがあるということです。
インターネットに接続するためのデバイスが無かったり、データ容量に制限があったり、母国語に対応できておらず十分にインターネットを使いこなせなかったりします。これはごく一部の現象です。
世界には7061の言語がありますが、インターネットで利用できるのは300言語あまりに限られるため、メールアドレスを保有していたとしても、インターネット上で自分の名前を母国語で表現できないこともあります。
図:インターネット上でカバーできている言語は全世界のわずか4.2%
そこで、私たちはインターネットを有益に利用できるように各国に支援を行い、デジタルプラットフォームや個人が情報に上手く辿り着けるような働きかけを行っています。政府についても、適切な政策を推進するための後押しを行っています。
もう一つデジタルによって分断が生まれる理由として、許容範囲の課題が上げられます。許容範囲については、国が権利を守るために執行する立場を取り、対応を実施しているかどうかや権利を保護するための制度を整えているかどうかなどがポイントになります。
その国で生活する人たちがオンラインやオフラインに限らず、自由に表現し、情報にアクセスできるか否かが重要になります。
国や地域の制度に加えて、個人や組織の許容範囲というのも必要です。日本はテクノロジーに対して、一定の許容度がある国だと思います。ただ、世界的に見ると教育が行き届いていない国が数多く存在します。
多くの国では、接続の問題によって人々がインターネットにアクセスすることもできず、スキルや知識、理解不足によっても同様の問題が起こっています。
組織に目を向けると、IT大臣のような立場の方であっても新しいテクノロジーの発展を理解し、政策を考えていく必要があります。私たちは新しいテクノロジー環境に適応するためのプログラムを実施し、各国でデジタル上の権利が守られるような環境づくりに取り組んでいます。
デジタル上の権利は今の時代とても重要です。オンライン上での活動が人々の生活の基盤になり始めている中で、オフラインでの生活同様にオンラインについても考えていく必要があります。多くの機会で、デジタルについて学んでいくことが当たり前になっていくと思います。
図:デジタル基盤が私たちの生活の支えになる社会
誰でもデジタル空間に公平にアクセスできるためにはコンピューターが必要ですし、医療システムが整っていない地域であれば、デジタル医療サービスについての仕組みなどが必要になります。
他にも、オンラインで仕事を見つけられることも一つの選択肢になるでしょう。人々がデジタル空間で社会的な価値を享受するためには、十分な許容範囲を広げていくことが大切です。
この活動は、ただオンラインにアクセスするだけでなく、オンラインから何かを学び、そして誰かとつながることによってデジタル公共サービスの恩恵を受ける発想が必要になります。
ユネスコがコミュニケーションと情報分野に取り組むことによって許容範囲を大きく広げ、個人や組織が情報にアクセスし、自分を表現する権利やプライバシーが保護される空間を作ることがとても大切なのです。
Kohei: 素晴らしい活動ですね。インターネットに全ての人がアクセスするためには、ネット上の権利について考えることが大切だと思います。特に先進国を中心として、ネット上の権利について考えることが重要な責務だと考えています。
テクノロジーの発展とともに、AIや人工知能による新たな可能性もより広がっていくと思います。特にデジタル社会においてAIが私たちの社会をより良くしていくことが一つの大きな動きになると思います。
ただ、AIが何かを判断する際に、どのようにAIが判断するか否かを決定しているかは私たちの生活に直接影響する大きな要素になると思います。
このようにAIがより発展していくと、AIによる倫理的な意思決定が重要になっていくと考えられます。ユネスコでは多くのステークホルダーとも連携し、AIと倫理について取り組んでいるかと思うのですが、どういった課題や重要なポイントがあるのかお伺いしてもよろしいでしょうか?
〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編は、次回お届けします。〉
Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author 山下夏姫
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