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IEEEデジタルプライバシーで実現を目指していくこと

※このインタビューは2023年4月20日に収録されました

学術団体でもプライバシーに関する新しい研究や取り組みが進んできています。

今回はブロックチェーンやセキュリティ分野の専門家として活躍し、IEEE デジタルプライバシーの共同チェアを務めるクリスさんに、学術団体で取り組むプライバシーに関する新しい取り組みについてお伺いしました。

前回の記事より

IEEEデジタルプライバシーでは共同創業者としてグループを率いていると思うのですが、クリスさんはどのような役割を担われているのでしょうか?

IEEEデジタルプライバシーが推進する活動とは

Chris: ありがとうございます。私たちのグループは設立から2年が経ち、現在は3年目を迎えています。当初は小規模なプロジェクトとしてスタートし、少しづつグループ活動を進め、2022年の始めにイニシアティブとして小規模なプロジェクトをスタートしました。

2023年はプロジェクトを推進する2年目の年になります。これまでにプライバシー要素を探索するために、コミュニティネットワークの拡大に注力してきました。1年目は州のプログラムを軸に活動を進めていくことが多かったので、プログラムに関連する活動がメインでした。

      (動画:Digital Privacy Panel at IEEE SMC 2022)

州のプログラムでは20を越える質問に回答する必要があり、社会に対しての質問や技術的な質問に回答する必要がありました。そこで、回答内容についてグループ参加者と一緒になって考えるためのワークショップをプロジェクトとして初年度に実施し、異なる団体や技術的な知見を持った方々にも参加してもらいIEEEに参加しているメンバーで検討するきっかけにつなげていくことにしました。

多くのステークホルダーが参加することによって、これまでに十分な議論ができていない質問項目について議論を行ったり、本当に議論が必要な項目であるかを再考したりしていました。こういった活動を続けていくことで、当初より質問項目が大幅に増えて70まで広がりました。

ここまでの議論を通して、テクノロジーの観点から “Privacy dimensions” と私たちが呼んでいる一つの考え方を整理することができました。この考え方は公共・私的、もしくはオプトアウト・オプトインのような対極にある二つの考え方を整理するものです。これは意思決定を行う際の幅を指す考え方としても応用することができます。

2年目については、1年目の取り組みを踏まえて異なるワーキンググループを立ち上げ、自動車やエネルギー、ヘルスケア等の産業別ワーキンググループも始めています。

こういった産業別のワーキンググループを立ち上げた背景としては、各産業でデータ活用を進めていくためにプライバシーがとても重要なテーマになってきているからです。

ここで紹介した以外にも、様々な分野でプライバシーについて考えるべきテーマが産業界でも出てきていると思います。 ここで選んだ3つのワーキンググループについては、政府の政策動向を検討した結果、政府機関が政策を整理していくためにも一定の議論が必要になる分野であると考えています。

政府の中では、いくつかの政策談義が行われており、プライバシー政策について議論を進めていく中で参考になるような取り組みの検討も進んでいます。

私たちは産業別の3つのワーキンググループに加えて、フレームワークについての検討を行うワーキンググループも立ち上げ、個人データの取り扱いに対するフレームワークの開発にも取り組んでいます。

標準化を進めるワーキンググループも最近立ち上がり、それぞれのワーキンググループでどういった活動を推進しているかわかりやすいようにIEEEのウェブサイト上でも公開を始めました。

個人を中心としたデジタルプライバシーを推進する活動

宏平さんと現在実施しているインタビューのように、ポッドキャストでのインタビューを実施したり、ワーキンググループやコミュニティ活動に関心があるボランティアメンバーを募って新しい技術分野への取り組みも進めています。ここまでの内容をデジタルプライバシーグループでは実施しています。

私たちが注力していることは技術者やプライバシーに取り組む個人の方々がコミュニティへ参加してくれる環境を整えていくことです。 IEEEは個人会員を中心とした制度を軸に活動を行っています。政府や企業から資金を集めるのではなく、41万5000人の個人会員が参加し、年間の会費によって運営を行っています。

私たちが個人で参加するために支払っている費用を、個人のプライバシーが守られる環境づくりへ充てていきたいと考えています。他にもいくつかプライバシーに関する環境づくりを進めている団体はありますが、弁護士を中心として政策や政府動向についての活動が中心になっていると思います。

それ以外には、大手企業がデータを取り扱う際のコンプライアンスや法律、政策の基準について検討するような活動も積極的に進んでいると思います。

他団体の活動を拝見しながら、プライバシーに関する新しい基準を設計する際に個人を基点とした考え方が取り入れられていない点にも気づきました。私たちがデジタルプライバシーについて考える際には、プライバシーに関心のある会員の考え方を軸に、個人を中心としたプライバシーについて取り組んでいきたいと思います。

Kohei: これまでの1年間の活動を通して、グループ内で様々なことに取り組まれてきたのだと思います。ここまでの活動を通じて、米国内でプライバシーに関する動向の変化を感じる部分はありますか?

今では、テクノロジーの発展に合わせてプライバシー意識が徐々に高まってきているように思います。もしお考えがあればお伺いできればと思います。

IEEEデジタルプライバシーで実現を目指していくこと

Chris: そうですね。私たちが活動を始めた当初は米国のメンバーを中心に活動することが多かったです。ただ、IEEEは全世界の個人が参加する組織であるため、私たちの活動は米国だけに限った動きではありません。

米国のメンバーを中心として、1年目の活動を積極的に進めてきましたが、2年目以降は米国に限らず世界各国からメンバーを募って活動を拡大していきたいと思います。

図:米国に限らず世界全域にコミュニティを広げていく

私たちの活動は社会的な視点からプライバシーについて取り組むことも多いため、国ごとのプライバシーに対する考え方や背景についての違いを理解し、違った考え方をもとに議論を進めていくことが必要であると考えています。

米国や欧州では積極的にプライバシーについての議論が進んでいますが、両地域でのプライバシーに対する考え方は異なりますし、初年度に貢献してくれたメンバー間でも地域的な違いが見られました。

米国のメンバーと議論を行うと、企業がデータを提供する人たちの権利を守ることに注力する一方で、欧州ではGDPRを軸に消費者の権利を保護するべきであるという考え方が印象的です。

企業にとっては米国と欧州の考え方は正反対で、企業が保有するデータに対する権利の視点から考えると、企業がデータを提供者からの同意をもとに取得していたとしてもターゲティングを行う場合等については適切に取り扱うことが求められると思います。

米国と欧州の異なる制度については、地域や地理的な背景も大きく影響しています。両地域の動きと比較して、アジア地域が第三の選択肢としてプライバシーに関する社会での共有理解をもとに意思決定を行う可能性がある地域では無いかと仮説を持っています。

どのデータが私的で、公的であるのかを決定し、どこまでの範囲のデータを活用するのかが問われ始めています。まだ不明瞭な点としては、データを活用する際にどのように実装を行い、どこまでプライバシーに配慮することが良いのかというテーマです。

こういったテーマに対して、私たちは意思決定を行うためのアウトラインを準備したいと思います。アウトライン作りを通して誰が意思決定を主体的に行い、誰が意思決定を承認するのかを整理したいと思います。

意思決定過程において、地域ごとの違いを考慮し対応方法を変更したり、最適な方法を検討し直したりすることが求められ始めています。この変化は、社会の変化や各国の地理的な変化が直接影響しているので、各地域での違いを考慮した上で検討を進めたいと思っています。

Kohei: とても興味深いですね。私たちの国でも情報の取り扱いについてはセンシティブに考えることが多く、特に企業が個人情報を取り扱う際には政府の動向に注視するケースがよくあると思います。

クリスさんはデジタルプライバシーについて統合したアプローチについて、ドキュメントを公開されていたと思います。ドキュメントの中では、ブロックチェーンや新しいテクノロジーのイノベーションについても触れられていました。プライバシーは新しい技術的なイノベーションを生み出すために必要な要素であると考えています。

ドキュメントで発表されていた未来の構想を実現するために、テクノロジーの開発とプライバシーについてどのように考えれば良いのでしょうか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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