情報へのアクセスがオープンになることで実現できる新しい学び
プライバシーに関するテーマは、法制度やテクノロジーだけに限らず、歴史的な背景を紐解いていくことが非常に重要です。
今回はコペンハーゲン大学で教授を務めるメッテ先生に、プライバシーの歴史と多様な学術研究が連携することの重要性について、お伺いしていきたいと思います。
プライバシーの起源を歴史研究から紐解いていく
Mette:私が重要だと考えていることは、歴史研究から学びを広げていくことだと思います。プライバシーは可鍛性があり、一時的に感じるものだと私たちは考えています。
西洋の1500年代から1800年代の時代背景を研究しているメンバーと話をすると、当時は現代のようなプライバシーの概念は無く、人々は寝室も共有していたこともあり、現在のプライベート空間をお互いに共有することが当たり前であったことも事実です。
私たちの研究からわかってきたことは、プライバシーという概念が生まれてからあまり年月が経っていないということです。当時の人々は寝室を共有するくらいプライバシーを気にすることはなかったのですが、その環境から離れ、物理的な壁を設けるようになったり、敷居を設けるようになっていくのです。
図:プライバシーがより身近になった社会
人々の歴史を追っていくことで、こういった変化を理解することができるようになります。個人の生活環境を調べていくことによって、どのようにプライバシーの考え方が広がってきたのかもわかるようになります。それ以外に近所の人が発する騒音による苦情なども一種のプライバシーに含まれるのではないかとも思います。
プライバシーとは何かを指し示す形でもあるかと思います。人それぞれプライバシーを守ってもらう事に対する期待値はバラバラで、個人の生活に”プライバシーが守られる環境を期待している”人もいたり、”騒音によって被害を受けないことが保証されることを期待している” ことがプライバシーであるという人もいるのです。
人それぞれ異なるプライバシーの考え方を理解し合い、共有し合うことが必要になります。
ここでは個人が何をプライバシーと考えるのか紹介しましたが、私たち人間がプライバシーの問題について語り合い、お互いに理解することが重要なのです。例えば、”人類はプライバシーに何を期待しているのか” という問いを考えてみると良いかもしれません。
“人類はどこで技術を管理しているのか”という問いが良いかもしれません。現代のわたしたちが考えるとそれは技術ではないと思うようなものでも、時代を遡ると必要な技術である場合も考えられます。その場合に当時の技術ではプライバシーが守られていたのかを問うていくことも必要になります。
プライバシーについて語り合いながら歴史を読み解く重要性
歴史を学ぶことは私たち人類の歩みの中で生まれた違いを理解することに役立ちます。現代のプライバシー問題についても、人類の視点で考え、新しい技術をどのように管理し、そして技術の誕生によってどういった影響が私達にもたらされるのかを考えるために、歴史を読み解いていくことが私たちのミッションです。
Kohei:ありがとうございます。個人的に興味深いと感じているのが、欧州と米国のプライバシーについての考え方の違いです。それぞれの国が別々の大陸で文化を発展させてきていると思うのですが、欧州のプライバシーに対する価値観と米国のプライバシーに対する価値観が異なるように感じられます。
現在の欧州と米国のプライバシーに対する考え方の違いは、歴史的にどういった背景があるのでしょうか?
Mette:とても面白いテーマだと思います。センターではこれまで欧州的な考え方をもとにしてプライバシー研究を行ってきており、現在プログラムの開発を進めているところです。
これまでに共同研究を行う際にも、ラテンアメリカやインドの研究者と一緒に取り組んできました。欧州以外の世界各国での研究を徐々に範囲を広げながら進めているところで、他の国での文化的な側面の理解を進めていくためにも連携が必要であると考えています。
米国のプライバシーについてはあまり詳しくないのですが、欧州からの移民が米国に移って現在までにどういったプライバシー感を育ててきたのかは気になるところです。歴史的な背景も知りたいですね。
このお話は2年後にまた議論しましょう。今すぐにお答えできるテーマではないのですが、とても重要な問いだと思うので、西洋のプライバシーについての考え方が世界中でデータ保護の文脈に関わらず捉えられているのかのルーツを知っていくことが重要だと思います。
Kohei:ありがとうございます。海外に訪問した際に国ごとの違いを感じることが多かったので、国ごとの違いを是非知りたいと思いました。日本人の感覚では、他のアジア圏の国々との考え方の違いと同様で、異なる文化的な背景を共有して考えていくことが必要だと思っています。
国ごとの定義の違いやその定義の比較を、国ごとの歴史から探ってみることが必要だと思います。
Mette:とても面白い研究テーマだと思います。センターの中にボードが設置してあるのですが、空間的な文脈を思い起こすために設置していて、現在のデータ保護に関するテーマの派生についても探求すると良さそうですね。
一方で全ての文化には私的な空間や親密さ、境界が備わっていると思うので、国ごとの文化の成り立ちを比較して見るのは非常に興味深い方法だと思います。
Kohei:ありがとうございます。
情報へのアクセスがオープンになることで実現できる新しい学び
では次の質問に移りたいと思います。Metteさんの研究室で “Privacy Study Journal” という書籍を出版されていて、素晴らしい研究者の方々にも参加頂いていると拝見しました。
始めに学際的な研究を突き詰めていくことが必要であるとお話を聞いていたのですが、なぜ “Privacy Study Journal” を出版しようと思ったのかということと、“Privacy Study Journal” の詳細についてお伺いしても良いでしょうか?
Mette:Privacy Studies Journal は相互にレビューを行うオープンな取り組みです。今年の秋に向けて第一版の発行を進めているところです。これは私たちのセンターが取り組んでいる学際的な研究の一環で実施しているのですが、それ以外に過去と現在の対話についての取り組みでもあります。
Privacy Studies Journal は世界中のトピックを幅広く扱うため、歴史研究やコンピューターサイエンス、経済危機管理マネジメント等の広い視野でプライバシーについて論じていきたいと思っています。
図:様々な視点からプライバシーを考える
Journalで発行する多様な記事を通して、新しい発見につながるようなきっかけになれば良いと思っています。オンラインでオープンに個人が発表する情報にアクセスできるようになります。
私が考えていることは、現代のコンピューターについての記事を読んだ人が、これまでは触れることがなかった現代の住宅についての記事を読むことによって、複雑なプライバシーについて新しい発見につながるようなことを期待しています。
最終的には Journal がセンター内でのプライバシーの理解に、幅広い視点と好奇心に繋がっていくことを願っています。私たちはまだ初期の段階ですが、今年の秋に向けて取り組んでいます。
Kohei:ありがとうございます。Journal を通じてプライバシーについて成し遂げていきたい目標や目的は設定されていますか?歴史を紐解いていく研究は非常に少ないため、今後の取り組みが気になっています。
今こそ歴史的な背景に立ち戻ることが必要で、学術研究に限定せず政治やテクノロジーの発展にも目を向ける必要があると思っています。
〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉
Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author 山下夏姫
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