プライバシーの歴史を学ぶことが現代社会を紐解くことにつながる
プライバシーに関するテーマは、法制度やテクノロジーだけに限らず、歴史的な背景を紐解いていくことが非常に重要です。
今回はコペンハーゲン大学で教授を務めるメッテ先生に、プライバシーの歴史と多様な学術研究が連携することの重要性について、お伺いしていきたいと思います。
Kohei:Privacy Talkにお越し頂きありがとうございます。本日はデンマークのコペンハーゲンからメッテ教授にご参加頂いています。メッテ先生がこれまで研究活動を拝見して、非常に感銘を受けています。今日は色々とお話しできることを楽しみにしております。
メッテ先生。本日はご参加頂きありがとうございます。
Mette:本日は招待頂きありがとうございます。
Kohei:ありがとうございます。
早速先生のプロフィールを紹介したいと思います。メッテ先生はコペンハーゲン大学で教会史の教授を務めており、 モンクや宗教的な活動を中心に研究されています。デンマーク国立研究機関プライバシー研究センターでディレクターも務めており、プライバシーや私的空間の歴史を研究しています。
研究センターは2017年に設立され、法律や政治思想、宗教や社会環境等の多面的な視点から歴史的な建造物を紐解き、研究チームは歴史的な文脈の中で社会の成熟とともにプライバシーへの捉え方がどのように変化してきたのかを調べています。
プライバシーは新しい価値、そして脅威をもたらすものであると指摘しとし、現代のプライバシー課題に対して歴史的な考察から議論を行っています。
本日はインタビューにお越し頂きありがとうございます。
Mette:ありがとうございます。
教会史が目指すこれまでの歴史を探求する意味
Kohei:では早速アジェンダに移っていきましょう。始めに教会史に関してお伺いできればと思います。私は高校と大学時代にキリスト教について学ぶ機会があったのですが、学問的な視点での宗教に関して非常に関心があります。
先生はなぜこの分野に関心を持って活動しようと思ったのでしょうか?教会史とは何かと合わせて教えてもらえると嬉しいです。
Mette:わかりました。教会史についてお話しすると、教会史の原点はキリスト教の伝統的な歴史から繋がっています。これはキリスト教に関連した団体や教養に関する歴史的な内容です。それだけでなく、学問としてキリスト教の教えや信仰が他の文化とどのように結びついているのかについても学んでいます。
教会史では建築やアート、音楽や写真など幅広い対象の研究を行なっています。研究の原点はキリスト教の伝統をもとにしていて、2000年近く前の歴史から紐解いて研究していきます。
Kohei:ありがとうございます。先生が教会史に関心を持った理由も教えてもらえますか?教会史という研究分野を初めて知ったので、なぜ教会史に興味を持ったのかとても関心があります。
Mette:教会史に興味を持った理由は、この分野がとても面白いと思ったからですね。私たちが住んでいる世界が西側諸国との関わりによって、さらに大きく広がりより、時代の変化とともに世俗的に変わっていく中で、宗教の伝統的な考え方が現代文化にも宿っていると感じているからです。
まさにプライバシーは良い例だと思います。"プライバシー" という言葉は一見すると宗教的な側面はあまり強くないように見えます。しかし、私たちが研究をしていく中で分かったことは、西洋で生まれたプライバシーの考え方に宗教的なルーツがあるということです。
教会史を探求していくことで、現代社会の中で変化する文化の発展を理解することができるようになるのです。
Kohei:なるほど。ありがとうございます。メッテ先生は教授の仕事に加えて、プライバシー研究センターでディレクターも務められていると思うのですが。研究センターでは様々な角度からプライバシーの歴史について研究していると伺っています。センターが取り組んでいる研究内容と先生の役割について教えて頂けますか?
共同で行うことによって広がる研究の幅
Mette:そうですね。センターは非常に素晴らしい場所です。センターはコペンハーゲン大学の中にあり、15人の研究者と博士、博士課程を目指す学生がプライバシーの歴史について研究しています。
非常に素晴らしい研究環境で、研究者の人たちがそれぞれの関心ごとに集中しやすい環境が整備されています。センター内では参加している研究者の方々が共同で研究を行うことができるような環境になっていて、これまでは個人で研究していた人たちがセンターが提供する施設を通して一緒になって活動できる場になっています。
図:個人が共同して研究を推進する環境設計
私たちが取り組んでいる分野は、個人で研究する人たちが多い分野であるため、これまでは研究結果も個人で出版するケースが多かったんです。
そういった環境を少しでも変えていくために、私たちのセンターではこれまで個人で研究していた人たちが共同で研究を行うことができるよう環境を整えてきました。
私たちは共同で学術研究を行うことが非常に重要であると考えており、特に"プライバシー" のような複雑な研究分野は誰かと一緒に研究できる環境が必要だと思っています。
プライバシー研究を進めていくためには、幅広い角度で研究対象を理解することが必要になります。共同で学術研究を進めていくことが、幅広い角度で物事を探求する際に役に立つと考えています。
私たちはセンターでの研究を通じて、研究者が共同で研究を行うことができる新しい環境モデルを作り、他の研究領域でも応用できるようにしていきたいと考えています。
Kohei:ありがとうございます。センターで研究に取り組む目的や研究の方向性は決まっているのでしょうか?
プライバシーの歴史を学ぶことが現代社会を紐解くことにつながる
Mette:はい。先ほど少し紹介しましたが、私たちが関わっている分野では共同で学術研究ができる環境を整備していきたいと思っています。
共同研究の考え方は歴史研究において建築や社会、宗教や政治等幅広い分野への応用ができると考えていて、"プライバシー" に限らず研究者の人たちが様々な分野で共同研究を実施することができるようになることを目指しています。そういった目的を持ちつつ、現在私たちはプライバシーの歴史に関する重要なテーマも調査しています。
プライバシーは非常に複雑でわかりずらい分野ですが、関連する歴史を紐解いていくことによって、よりプライバシーについて語ることが身近になっていくと思っています。"プライバシー" については、現代社会で議論されている内容をこれまでの歴史から紐解いていくことが非常に難しいテーマなのでで、研究者である私たちにとっては新しい挑戦になります。
図:歴史から現代の課題を紐解いていく
私たちが歴史研究を行う際に、異なる時代の考え方を混同してしまうような時代錯誤が起きてしまうことが大きなリスクであると考えています。そういった時代錯誤が起きないように、現代社会の視点から歴史を研究する手法をとっています。
時代を混同してしまわないように注意深く進めていくことが重要であると考えています。これまでの研究でわかってきたこととして、プライバシーの歴史はその地域の文化やDNAに紐づいていることです。現代社会におけるプライバシーの考え方が象徴的だと思います。私たちが歩んできた歴史の中で、プライバシーの考え方や形は変化し今に至っています。
プライバシーについては、これといった明確な方向性がないことも特徴です。ただ、私たちが研究する際には歴史のルーツを理解し、調査し説明することが重要だと考えています。
歴史のルーツを知ることで見えてくる新しい発見
私たちのセンターでは、そのような歴史のルーツを研究しています。もし私たちが現代社会のプライバシーに関する考え方のルーツを発見できたとすれば、研究を通じて得られた手がかりを現代社会のプライバシーと照らし合わせて議論するようにしています。
私たちは歴史研究の専門家で、現代社会のプライバシー動向に詳しいわけではないので、現代社会のプライバシー動向に詳しい人たちと議論を進めていくことによって、より研究結果の理解が深まっていくと考えています。
Kohei:そうですね。ありがとうございます。私は欧米諸国のプライバシーに対する歴史と考え方から、これまで様々なことを学ばせて頂きました。日本人にとって、プライバシーとは何かを学ぶことは容易なものではありませんが、他国のプライバシーと自国のプライバシーを比較することによって、プライバシーとは一体何かを想像することができるようになります。
プライバシーとはまさにコミュニケーションを通して深まっていくものであると考えています。プライバシーに関する対話を通して、お互いに理解を深めていくことができると思うので、議論を行うことはとても重要ですね。
Mette:とても面白い見解ですね。西側の人たちにとってはプライバシーは当たり前のものであり、世界で共通の考え方を広げていくことにあまり必要性を感じていないかもしれません。
古代アリストテレスの時代から私的な空間と公共の空間を分けて考えることは当たり前で、私たちの文化の中心と言っても過言ではありません。
私たちにとってはプライバシーの理解を進めていく上で、異なる角度で議論を進めていく方法があることが理解を深めていくために重要な役割を持つことになります。このインタビューのような機会も非常に重要だと思います。お互いの考えを共有することで、より広がりが生まれると思います。
〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編は、次回お届けします。〉
Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author 山下夏姫
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