ソーシャルメディアの商業化によって生まれたプライバシー問題
※このインタビューは2024年3月20日に収録されました
今では当たり前のソーシャルメディアも、インターネット初期にはプライバシーに配慮した機能を前提に開発されていました。
今回はインターネット初期から様々なサービスを展開し、ソーシャルメディアの走りとなるデルファイインターネットサービスを開発したヴェスさんに、ソーシャルメディアの歴史とインフラの重要性についてお伺いしました。
Kohei: 本日もPrivacy Talkにお越しいただきありがとうございます。本日は米国よりヴェスさんにご参加いただいています。ヴェスさんはインターネット初期から、インターネットフォーラムと呼ばれる空間作りに取り組まれています。
ヴェスさん。本日はインタビューにお越し頂きありがとうございます。
Wes: 宏平さん。本日はご紹介頂きありがとうございます。
Kohei: ありがとうございます。ではヴェスさんのプロフィールを紹介したいと思います。
ヴェスさんは1981年にデルファイインターネットサービスを設立し、世界で初めてのオンライン百科事典を設計しました。デルファイは1993年にルパート・マードック氏が率いるニューズ・コーポレーション社に買収され、AOLやコンピュサーブ、プロディジー・コミュニケーションズと並ぶソーシャルネットワークサービスとして功績を残しました。
デルファイのCEOであった1986年にスピンオフしたグローバルヴィレッジ社を立ち上げ、出版社とビジネスクライアンを繋ぐプライベートのソーシャルネットワークを展開しました。ヴェスさんは信頼できる個人のIDをネット上に開発すべく、VIVOS Enrollment Workstationの開発にも従事しました。
開発時には、公開鍵インフラについても研究し信頼できるID情報をもとにプライバシーを保護しつつ、認証を実現するデジタル証明書システムに関する研究に取り組みました。
同時に、国際電気通信連合(ITU)で公開鍵暗号の実現に似たプロジェクトに関わり、国際電気通信連合(ITU)のグローバルサイバーセキュリティアジェンダにハイレベルの専門家グループの一員として参加しました。
2008年にスイスのジュネーヴで開催されたUnited Nations World Summit on Information Societyで、ヴェスさんは新たなデジタル証明を活用したコンセプトプロジェクトCity of Osmioを発表し、2004年に発刊した”Quiet Enjoyment”を2014年には第二刊を発売しました。これ以外にも”Don’t Get Norteled”, ”Escape The Plantation”を発表しています。
ヴェスさんは1971年にホワイトマン・エアー・フォース・ベースで働きながら、セントラルミッソーリ大学で学士を納め、卒業後にはリバティ・ミューチュアル社でシステムアナリストとしてデータアプリケーションやメインフレーム開発に4年間携わりました。
ヴェスさんは2023年にセキュリティ分野のグローバルトップ50のThinkers 360リストに選ばれ、Transit X社やEmmanuel Music社、Boston Baroque社でボードメンバーを務めています。
ヴェスさん。改めて本日はお越し頂きありがとうございます。
Wes: ありがとうございます。わかりやすく私のプロフィールをまとめてくださいました。
インターネット初期に生まれた新しいサービス
Kohei: 素晴らしい活動ですね。では早速初めのアジェンダに移りたいと思います。ヴェスさんにはインターネット初期の頃に起きたことについてお伺いしたいと思います。なぜインターネット初期にサービスを開発しようと思ったのか教えていただけますか?
Wes: 勿論です。先程自己紹介で話を頂いたように世界で初めてのオンライン百科事典を1981年に立ち上げました。当時を振り返るとインターネットはアーパネット(ARPANET)と呼ばれていて、商業利用ではありませんでした。もし商業利用でインターネットを利用したい場合にはX.25と呼ばれるプロトコルを利用したパケットネットワークが必要だったのです。
こういった背景もあって、私たちが展開するサーバーに多くの利用者が参加してくれていました。私はオンライン百科事典の中にソーシャルネットワーク機能を加えたいと思い、Delphiソーシャルネットワークが誕生したのです。百科事典だけではコスト負担が大きく、収益だけでは負担を賄うことができませんでした。
オンライン百科事典はあまり良いビジネスではなかったですね。オンライン百科事典データベースへのアクセス機能に加えて、ソーシャル性を導入したことによってDelphiソーシャルネットワークを提供することができるようになり、ダイアルアップX.25ネットワークでアクセスすることができるようになりました。
これにより利用者は電話のモデムを保有し、ローカル電話番号を通してネットワークにアクセスすることができるようになったのです。1991年までには上手く機能していたと思います。コロラド州では、州が率先してインターネットへの接続を後押ししていました。
1981年に話を戻したいと思いますが、アーパネットがインターネットに変わる際にインターネット上での商業的なトラフィックをどのように取り扱うかの議論が起こりました。インターネットはより良いものであるとの調査も行われました。そういった動きの中で、X.25よりも丈夫で、拡張性のあるプロトコルとしてTCP/IPが好まれるようになりました。
TCP/IPへの移行を進めていくにあたり、ジャック・リッカードとフィル・ベッカーが商業的なトラフィックの移行を進めていました。当時インターネットの根幹を支えていたオペレーターからは、どのパケットに商業的なトラフィックが含まれていて、それ以外が一体何かを見極めるにはどうすれば良いかという質問も出てくるようになりました。
そういったこともあり、どのネットワーク回線を商業用のトラフィックに移行して利用すべきかが大きな問題になりました。そこでアメリカ国立科学財団が非商業用ネットワーク指針では、継続したネットワーク運用が難しいと発表し、インターネットは広く公開されるようになりました。
このタイミングでデルファイもインターネットに統合されることになったのです。
ここに至るまでには多くの時間を費やすことになりました。先程TCP/IPがより良いプロトコルであると紹介しました。しかし、インターネットが公開されて時間が経つと共にビジネス利用を狙ったソーシャルメディアが誕生することになるのです。
このビジネス利用を狙ったソーシャルメディアは、私たちのプライバシーに配慮した設計にはなっていません。ウェブを主体としたFacebookやTwitter、中国のソーシャルネットワークが代表的なものとしては存在します。
ソーシャルメディアの商業化によって生まれたプライバシー問題
ソーシャルメディア企業のビジネスは私たちの個人情報を販売し、お金に変えるモデルです。最近では私たちが普段生活するために必要な購買情報等にも広がってきています。
ソーシャルメディア企業は利用者の関係者や信仰、政治的な考え方やコミュニティに関する情報等を取得して広告に利用しています。こういった活動を通して、エコチャンバーと呼ばれる現象も生まれてきています。
(動画:Filter Bubbles and Echo Chambers)
ソーシャルメディア企業が提供する広告を通して、高価なダイエットサプリや高利の投資話を勧誘したりしながら、利用者の方々にも被害が出るような傾向も徐々に広がってきています。
このような現象をエコチャンバーと呼び、利用者を開かれた情報から退け、閉ざされた空間に誘い込んでいくのです。
ソーシャルメディアが収益を上げていることとは対に、利用者の怒りを駆り立てるような現象も起きてきています。このような現象に対して、私たちの匿名性が担保されプライバシーが保護される環境が必要なのです。
宏平さんの質問にお答えすると、これまでのインターネットが持っていた本質的な環境は、情報のハイウェイ(公道)になってしまい、今では公共交通システムのように、情報が公になってしまっています。
もし私たちの職場や生活環境、子供達の遊び場が全て情報のハイウェイだとしたらどうでしょうか。また物理的な環境の中で、常に私たちの生活がハイウェイの上で強いられるとすればどうでしょうか。
インターネット上にプライベート空間を実現する取り組み
物理的な環境であれば私たちが私的空間を自ら探しにいくように、インターネット上でも私的な空間であり、アカウンタビリティが保証されている場所を見つけることができるようにしていくことが求められます。
そして、私的な空間は特定の人たちやグループに開かれたものでなければいけません。私たちはそういった空間を住環境と呼んでいます。私たちが生活するソーシャルネットワーク上に家を設けて、家族や友人、仲の良い人たちを招待できる場が必要なのです。
勿論、家の中にオフィス環境も必要になります。重要な情報をしまっておくようなキャビネットも必要です。これは誰でもアクセスできるものではありませんし、共有スペースでもありません。友人や近所の方々でさえも、私的なオフィス空間を覗き見することができないのです。
私たちは自身のオフィス環境をデジタルファイルキャビネットと呼び、自分自身の情報を管理できるように設計しています。MOIと呼ばれる機能と公開鍵システム(PKI)を利用して、安全に特定の個人がアクセスできるような公開鍵の証明書を提供したり、ライセンス発行ができるような設計を準備しています。
システム提供者から利用者へライセンスを発行し、ライセンスを提供された利用者が情報にアクセスする設計です。例えば、保険会社が会員登録者にライセンスを発行し、登録者が自身のIDに紐づいた車体情報やナンバー、走行距離等の情報にアクセスできるような設計がわかりやすいと思います。
保険会社の立場で考えると、契約者がどれだけの距離を走行したのかを事前に把握しておくことで保険料の計算が容易で、個別に算定することができるようになります。
保険会社からすると、個人の生活環境に紐づいたID情報を取得することがサービスの向上につながっていくのです。我々が取り組んでいるMOIでは、このような世界を実現することができます。ただ、我々の仕組みではライセンス発行社が企業ではなく個人となるため、個人が許可した方しか情報を閲覧できない仕組みとなっています。
こういったデジタル環境の仕組みを整えていくことによって、多くの問題を解決することにつながっていくと考えています。
Kohei: ヴェスさんが取り組まれている現在のプロジェクトについても教えて頂きありがとうございます。ヴェスさんは現在のプロジェクトに取り掛かる前に、デルファイと呼ばれるプロジェクトの立ち上げに関わっていたと思うのですが、そのプロジェクトについても教えていただけませんか?
〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編は、次回お届けします。〉
Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author 山下夏姫
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