【投資ノウハウ】アメリカで金融引き締めが迫る 株式市場への影響は?
早いもので2月ももう半ばです。ここまでの2022年の米国株市場は、波乱含みの展開となっています。2月16日の終値ベースでの米国主要株価指数の年初来騰落率をみると、ダウ平均株価が4.51%下落、S&P500は6.70%下落、ナスダック総合株価指数は10.79%下落、中小型株で構成されるラッセル2000は8.50%の下落となっています。この米株安の背景には、米国の中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)がいよいよ金融引き締めに動き出すとみられることが挙げられます。
今回は、今後、予想されるFRBの動きをみながら、株式市場を考えていきましょう。
間近に迫った利上げ
FRBは年に8回、金融政策を決定する会議、米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催します。直近では、1月26日に同委員会が開催されました。委員会の終了後に公表された声明文では、「委員会はFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標レンジ引き上げが近く適切になると見込んでいる」と述べられており、次回の3月16日のFOMCでの利上げがほぼ確実視されています。
これを裏付けるかのように、米労働省が2月10日に発表した2022年1月の消費者物価指数(CPI)は、総合が前年同月比7.5%上昇となっています。先月の同7.0%上昇から、さらに上昇率が高まり、40年ぶりの上昇率の高さとなりました。変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数も6.0%上昇となっており、コア指数も1982年8月以来の高い上昇率でした。
また、これを受けて、セントルイス連銀のブラード総裁は、加速するインフレへの対応として、7月1日までに合計1.00%の政策金利引き上げを支持すると語りました。これはあくまでブラード総裁の一個人(FOMCの投票権あり)の意見にすぎませんが、仮にその通りの動きとなれば、7月1日までにFOMCは3回しかないため、3回のうちいずれかの回で2000年以来となる0.50%の利上げを行うことになります。すでに債券先物市場では、2月15日現在で、6月15日のFOMCまでに1.00%以上の利上げが実施される確率が73.6%となっています。
利上げよりもQTに注意
利上げよりも注意を払う必要があるのが「量的引き締め(Quantitative Tightening =QT)」です。FRBは、新型コロナウイルスによる景気減速対策として、市中にお金を大量に供給する量的緩和(Quantitative Easing =QE)を行ってきました。これにより、FRBのバランスシートは、20年3月の4兆ドル台から2倍強となる9兆ドル弱まで膨らんでいます。現在、テーパリングを行いお金の供給のペースを落としてはいますが、お金の総量は増加し続けています。
しかし、3月にはテーパリングも終了し、市中に流すお金の増加は終わります。2020年3月のパンデミックによる株価暴落後の急反発の大きな要因がQEであることは間違いないだけに、QEの逆であるQTが開始されれば、株式市場にとってネガティブな材料になります。実際、2017年にQTを行った際は、利上げの過程では上昇基調を維持していた株価が、QT開始後は下落に転じています。
ポイントは、FRBがいつQTに着手するかです。FRBは、リーマンショック後にもQTを行いました。その際は、2008年のリーマンショック対策として実施したQEを2014年10月に終了し、バランスシートの残高規模を維持しながら、2015年12月から利上げを開始、2018年12月まで利上げを継続する中、QTの開始は2017年10月からでした。利上げ開始から2年弱の間、QTには手を付けませんでした。
しかし、今回はCPIが40年ぶりの高水準であるうえ、1月5日に公表された昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、利上げ開始後そう時間をおかずにQTに動くことが適切との判断を示していることが明らかになっています。3月にQEが終了、利上げ開始。5月4日のFOMCではQT開始が決定される可能性もありそうです。
金融引き締め時の株式投資
実際に金融引き締めが開始されると、金利が上昇することから、遠い将来の収益を株価に織り込むグロース株には強い逆風になることが予想されます。その一方で、バリュー株、とりわけ、生活必需品セクターや公共事業セクターなどは強みを発揮しそうです。例えば、プロクター・アンド・ギャンブル(PG)、ウォルマート(WMT)、ターゲット(TGT)、コストコ(COST)などです。インフレが長期化するようなら、原油高で注目されるエクソン・モービル(XOM)なども面白そうです。
また、ウクライナ情勢や米中関係をみると、レイセオン・テクノロジーズ(RTX)、ロッキード・マーティン(LMT)、ノースロップ・グラマン(NOC)などの軍需関連銘柄も物色の対象に考えてもよさそうです。
なお、金融株ですが、通常は金利上昇局面で強さをみせますが、ひとつ条件があります。それは長短金利差が拡大(イールドカーブが立ち上がり)し、利ザヤが稼げることです。銀行は短期金融市場で資金を調達し、長期で運用します。このため、市場において、将来に対する不安が高まり、長期債が買われ長期金利が低下、もしくは金利上昇が限られる一方で、利上げから短期金利が上昇し、長短期利差が縮小するようなケースは、金融株にとって強い逆風になります。金融株に投資する際は、金利動向に目を配っておいた方がいいでしょう。
記事作成:2022年2月16日
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ライター:佐藤 隆司(プロフィールはこちら)
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