【投資ノウハウ】インフレで値上げ相次ぐ春 穀物・食肉価格も上昇
最近、ニュースなどでインフレという言葉を頻繁に耳にするようになってきました。米国の昨年12月の消費者物価指数は、前年同月比7.0%上昇となり、実に39年半ぶりに7%台に達しました。インフレは米国に限ったことではなく、英国、ユーロ圏、オーストラリアなどの多くの国や地域で発生しており、日本も例外ではありません。まもなくバレンタインデーですが、チョコレートの原料のカカオの価格も、2016年11月以来、3年3カ月ぶりの高値圏で推移しています。
2月になり、バレンタイン商戦もたけなわですが、昨年から徐々にモノの値段が上昇しており、2月以降は、さらに幅広い品目で値上げが進みます。
身近なところから言えば、日本の食卓には必ずと言っていいほどある醤油は、2月から約4~10%上昇しています。パスタや乾麺も1.5~9.5%前後の上昇、ハム・ソーセージは約4~12%の上昇となっています。また、食料品以外でも、ティッシュペーパー・トイレットペーパーは、主要各社が2〜4月にかけて10~15%価格を引き上げます。
これらの背景にあるのは、原材料価格の上昇です。原油価格が上昇しているので、ガソリンや、製造工程で重油を使うティッシュペーパーなどが上昇するのはわかりやすいでしょう。それに対して少し分かりにくいのが、穀物や食肉価格の上昇かと思います。
もちろん、その背景には新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱があります。ただ、それだけでもありません。
今回は、最近の原材料価格の動向、とりわけ穀物相場動向を見ていきます。加えて投資という観点から、モノの値段の上昇にどのようにむきあえばいいのか考えていきましょう。
穀物・食肉価格の上昇
醤油やパスタなどの値上げをみればわかるように、現在、穀物価格が上昇しています。穀物相場の代表格と言えるトウモロコシは、1月に入り、原油価格の上昇、ラニーニャ現象による南米の高温・乾燥懸念から小幅に上昇し、指標価格とされるシカゴコーン期近3月限は2月8日現在、約635ドルで取引されています。シカゴコーンは、2014年の夏以降、おおむね300ドル~、高くても450ドル前後で取引されていました。安値と比べると、価格が倍以上になっています。
また、コーンと同様に穀物相場の中心的な存在である指標価格のシカゴ大豆をみても、安値から2倍弱の上昇となっています(チャート参照)。
この背景には、新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱もありますが、別要因として中国の飼料需要の急拡大もあります。大豆やトウモロコシは、日本では食用需要のイメージが強いですが、世界的にみれば飼料需要が高い穀物です。
中国は世界最大の豚の消費国ですが、2018年8月にアジアで初めてアフリカ豚熱(ASF)の発生が確認されました。ASFは、豚やイノシシに感染する伝染病です。発熱や全身の出血性病変を特徴とする致死率の高い伝染病で、ASFの流行により中国の養豚業は壊滅的被害を受けたとされています。中国政府より正式な数値は発表されていませんが、欧州系金融機関の推定では、最大で55%の養豚を失ったとされています。
これにより、同国の飼料用の穀物需要は一時後退していましたが、2020年から養豚業が回復しており、これに伴い、中国の大豆やコーンなどの飼料需要が急拡大しました。
2014年以降、コーンにせよ大豆にせよ、天候要因により作付けの遅れなどから急騰する場面があっても、遺伝子組み換えの技術と、それに伴う農薬の進歩により、豊作が続き、需給は緩みがちでした。しかし、20-21年度は、ラニーニャ現象による南米の不作だけでなく、中国の養豚業の回復、さらには新型コロナウイルスの感染拡大による輸送力の低下など、さまざまの要因が複合的に重なり、穀物価格の急騰をもたらしました。
また、脱炭素の流れも穀物価格に影響しています。輸送業界では、地球に優しいエネルギーを使用していることをアピールするために、大豆や動物性油脂などを加工した再生可能ディーゼル燃料を、自動車の燃料やジェット燃料として使う動きが出ています。このことも、大豆や動物性油脂価格の支援材料になっています。
穀物価格の上昇は、飼料価格の上昇となり、その結果として豚肉や牛肉、鶏肉といった食肉価格も上昇します。ハムやソーセージの価格が引き上げられるのも、納得がいくと思います。
急激な増産は困難
コーンや大豆の価格が上昇するなら、それらを増産すればいいのですが、生産国の多くは、コーンと大豆を同じ畑で一年ごと交互に作る、いわゆる輪作を行っています。輪作により、農地の栄養価を維持して病虫害の発生を防いでおり、簡単に生産量を増やすことはできません。今回の穀物価格の上昇は、長期化する可能性があります。
価格上昇を投資の視点から見ると
最後に、投資という観点から価格上昇を考えてみましょう。
一般的に株式は、「インフレに強い資産」と言われています。インフレにより企業収益が増えれば、株価が上昇するという理屈です。
実際は、各企業がそれぞれ抱えている問題もあり、そう簡単な話ではありません。
ただ、インフレ下で株価が上がりやすい銘柄があるのも事実です。ひとつは、ガソリンなど、原料価格の上昇を毎週のように商品価格に転嫁するのが容易な商品を展開する企業です。エクソン・モービル(XOM)、シェブロン(CVX)などの石油関連企業はそのいい例です。また、生鮮食品や生活必需品を扱うウォルマート(WMT)やターゲット(TGT)なども当てはまりそうです。
そして、ブランドロイヤリティが高い企業もインフレ下では強みを発揮します。
食品業界でブランドロイヤリティが高いというのは、なかなか難しいのですが、例を挙げるとすれば、米菓子大手ハーシー(HSY)がこれに当てはまります。ハーシーは、チョコレート菓子などを手がける老舗ですが、コロナ禍前から物価上昇に合わせ年数%の値上げを繰り返していました。それでも顧客は逃げず業績は拡大し、2月8日時点で株価は206ドル台と、上場来高値圏に位置しています。
ハーシーのような企業を探すのは、なかなか難しいですが、各社決算書では値上げについて触れていますので、値上げとその後の売上高の推移等を丁寧にみていくと、お宝銘柄を見つけ出すこともできそうです。チョコレートを片手に探してみてはいかがでしょうか。
記事作成:2022年2月9日
本内容のご利用にあたり、お客様にご確認いただきたい事項を以下に記載いたしました。
ライター:佐藤 隆司(プロフィールはこちら)
PayPay証券株式会社
https://www.paypay-sec.co.jp/
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第2883号