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恭庵書房のオススメ書籍 2020/9-11

大竹英洋『そして、ぼくは旅に出た。 はじまりの森 ノースウッズ』

偉大な写真家ジムと偉大な冒険家ウィルとの出会いを中心に、写真家・大竹英洋さんが20年を超えるキャリアを築く最初の旅について描いた本。ほぼ同じ長さの人生を歩んでいる者として、大竹さんの旅は嫉妬するほど素晴らしい。
自分の人生を切り拓くための、最初の旅。何を目指して、どうするべきか、先人から学び、自らの道を見つける。旅とか冒険とかだけでなく、人生をちゃんと考えたい人は読んだ方がいい。
写真の持つ力。チラシをたまたま見て、惹きつけられた。何気なく名前を検索したら、友人の後輩であることが分かった。写真展は都内だし、気楽な気持ちで行った。富士フィルムスクエアで写真の一枚一枚に圧倒された。写真集を買い求め、一冊を凝視し、この人の人生をもっと読んでみたいと思って買った。

岩下明裕『入門 国境学』

2020年は26年ぶりに外国に出ない年になりそうなので、読んでみた。ボーダー(国境・境界)から世界を見つめるのがテーマの良著。
初めて東南アジアを訪れたとき、プノンペンで新聞を読んでいたら「ASEANにベトナムが加入」と書かれていた。プノンペンからホーチミンへのバスが出ていると聞き、陸路国境越えにロマンを感じた。1995年に自分のウェブサイトを作ったとき、コンテンツに行き詰まり、作ったのが「陸路で国境を越える」という特集ページだった。日本から陸路で出国する場所がないからこそ、境で環境が劇的に変わることを見ることが、僕が旅する大きな目的の1つとなった。
これ読んで、一緒にボーダーの話をしませんか。

落合貴之『民政立国論』

「投票に行こう」ではなく「選挙に出よう」という教育に変えるべき。この考え方に落合貴之さんのエッセンスが詰まっている。政治を特別な「誰か」のものに隠しておくのではなく、すべての人が社会づくりに関わる。本人の人柄は多少知っているつもりだったが、彼の履歴と考え方をよく知るいい機会となった。
金ナシ地盤ナシのチャレンジをすると初めて聞いた時、頑張ってほしいけど大丈夫かなと思った。パクチーハウスのお客さんの1人として話をして、世間的には「ありえない」とされることをどう克服していくのかと興味を持った。その後、落選し政治的な立場を色々変えて(本人の新年を貫くため)、現在は衆議院議員として立派に活躍している。今でも車を持たず電車通勤をする彼とは、半年〜1年に一度ぐらいランニング中にばったり出会う。いろいろな人との立ち話から、政策を考えているのがこの本からもよく分かった。
新年を貫く、自分の思いを実現する、政治の世界の新しいオプションを知る。そのために、ぜひ読んで欲しい一冊だ。

小坂井敏晶『答えのない世界を生きる』

異端者・マイノリティの役割。フランスで長年大学教員として過ごしてきた筆者が、そのつもりでなかったところから今にいたる人生を振り返りつつ、世界は異端者が作ることや、今世界で低く評価されている「すぐに役に立ちそうにない学問」の重要性を説く。筆者の体験談は面白いし、この本をわかりやすくしている。終章の日本人の劣等感に関する記述は、これからの時代を生きる人にはとても重要な視点。
年に数回、大学で単発の講義をさせてもらっているが、この本を読んで、いつか一年間を通して講義を受け持ってみたいと感じた。

常井健一『地方選 無風王国の「変人」を追う』

沈黙の国会議員の口を開かせた『無敗の男』に続き、政治や選挙への興味を掻き立てる至極のルポルタージュ。僕を含め、地域で活動をする人はどんどん増えているが、地方政治に積極的に踏み込む人は少ない。しかし、ある地域を動かすために、その地域の政治と現状を産んだヒストリーをよく理解する必要はあるだろう。現職超有利の地方選で勝ち抜いたチェンジメーカーの舞台裏から、地方で生き抜くヒントも見える。
常井氏の描く「鋸南町」とか「安房地域」も読んでみたいな。

大竹英洋『ノースウッズ─生命を与える大地─』

自然の中に入り込み、動物たちの表情を豊かに表現している。20年積み重ねた、ノースウッズ(北米大陸の北緯40–60°に広がる原生林)への旅の壮大な記録。
東京ミッドタウンで開催中の写真展で本人に話を聞いた。自然の中で危険を回避するためには、自然のルールに従うことが必要という。そのルールを旅を通じて身につけるとともに、自分より経験のあるガイドと行動をともにすることで、その中に違和感なく入り込む。
交通ルールを知らないと大都市を安全に歩けないのと同じ。その場所に適した旅の仕方がある。旅を重ねたからこその、重みのある言葉だと思った。
子供が学校から持ち帰った、一枚のチラシで写真展を知った。無数のチラシの中の1つだが、その写真に魅了された。気になったので写真家の名前を検索してみたら、共通の知人に、Bijaの清川孝男くんの名前があった。
写真家は、彼のワンゲルの後輩ということが分かった。写真展でそのことを尋ねると、その部の初めての海外遠征(ネパール)を企画したのが清川くんで、その時にサブリーダーを務めたのが大竹さんだったという。大竹さんにとってはそれが最初の海外旅行。それがきっかけで翌年、ワンゲル部を率いてパタゴニアを歩いたそうだ。
そして大学卒業後、日本では絶滅したオオカミを求めて、初めてノースウッズを訪ねる。草木の名前を1つすら知らない状況からのスタートだったという。情熱を持って現地に溶け込んだ大竹さんを、現地の経験ある写真家ジム・ブランデンバーグも驚嘆している。本書冒頭にあるその文章を読むだけで心が震えた。
大竹さんと会うのは実は初めてでなかった。パクチーハウスが2周年を迎える時(2009年)に始めたランチ業態「地球を救うカレーライス」はBijaの協力で実現したのだが、その年の末、清川くんと一緒に行なったトークイベントに大竹さんは来てくれていた。また、その清川くんが2017年に浜松で結婚式をしたときも、会場にいらしたとのこと。
年齢も一緒だし、大竹さんの生まれた舞鶴は佐谷家のルーツがあるし、上述の通り接点もあったのだけど、学校のチラシが結びつけてくれた縁。正真正銘の冒険旅行を繰り返しているこの写真家にずっと注目していきたい。

須川 邦彦『無人島に生きる十六人』

期待以上の秀作。最初から最後まで楽しかった。明治時代の実話に基づいた話。メンバーの心を惑わせないリーダーシップ、いつか分からないけど助かった後のための知恵の習得、助け合う心など、無人島で16人が生き残るには訳がある。とてつもない困難に陥った時に、こうした行動を取り、そこに人を巻き込むことができるか。日頃からの心がけなしにはなりたたないだろう。

千松信也『ぼくは猟師になった』

自分の食べるものを自分で獲る。同時代に京大にいた人の、生い立ちから猟師になり、今の生活を築くまでのリアルな話。僕も鋸南で釣りぐらいしてみようか。一度は読んでおきたい、人生を考える良著。

北岡伸一『世界地図を読み直す』

世界の近現代史を、日本との関わりから振り返ることのできる良著。JICA理事長としての視点だが、国際関係を二国間だけでなく、多国の中での位置付けとしてわかりやすく描かれている。著者の体験と体験を通した思考に基づく提言であり、納得感も高い。パラパラとたまにめくりたい本だ。

山本龍彦(編著)『AIと憲法』

AIの能力がすごいとか仕事がなくなるとか、そんな議論は多いけれど、人間に近い行為をしうるAIと将来どうやって付き合っていくかをしっかり考えなくてはならない。どこに線を引くかはこれから数年から数十年の人間の大きな仕事。それに知識と意識を持って関わらないといけないだろう。この本はそういう意味で、すべての人に目を通してほしい。
人間よりAIが「正解率が高い」としても、AIの方がよりよい世界を作れる訳ではない。確率論で動く能力に長けているだけのAIの限界を誰もが意識しなくては。

マーカス・デュ・ソートイ『素数の音楽』

素数の研究に邁進する天才数学者たちの物語。飽くなき好奇心と、才能と才能がつながっていくことにより、今ある概念が作られている。高校のときに最も得意で好きだったのが数学だ。わずか一行の問題文を解くのに3日ぐらい考える、その行為が好きだった。天才たちが取り組んできた、この本に掲載されている諸問題は理解できない。が、読み物としてとても楽しめる一冊。

原田マハ『総理の夫』

こういう世界が来るといいねと思わせる楽しい小説。政治に詳しくなくても、その世界の片鱗を感じつつ、味わうことのできる世界。フィクションだが、こういうストーリーを重ねて、日本人全体の頭の中が再構築されてほしい。

宇田有三『ロヒンギャ 差別の深層』

「現地の人も移動を制限されていた軍政期のミャンマー全土に足を踏み入れた、おそらく唯一の外国人」(著者談)として、ロヒンギャ問題を解説し、多様な視点を提示している。他の全ての問題と同様に表層しか語られないロヒンギャのことがいくらか理解できるだけでなく、民族「問題」とか「紛争」とかがどのようにできていくのか、その過程を知ることができる。27年同じところ(そして偏りなきようミャンマー内での別の視点やその他の国も)を見続けたからこその洞察。

西田亮介『メディアと自民党』

自民党のメディア戦略。政治とメディアの関係についてわかりやすくまとめられている。昔から変わらない広告代理店の暗躍が時代を作っている。美味しくも楽しくもないチェーン店がマーケティングの力で名声を維持しているのと同様、しょうもない政策をマーケティングの力で既成事実にしうるということ。政治についてきちんと考え行動しなければ、人生や国家も消費される。

マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』

価値観が多様化した現在、正しさをどのように導き、人を説得するかについて考察し、他者と対話することが大切だと思う。この本は読み物として面白いが、一人で通して読むよりも、個別の事例について会社なり仲間内なりで議論するとより面白そうだ。

村上 世彰『いま君に伝えたいお金の話』

ライブドア在籍中によく名前を聞いた村上ファンドの村上世彰さんの本。最近の活動である子供の投資教育のことが書かれていて興味深かった。内容は取り立てて目新しくはないのだが、お金のプロが書いたエッセンスは1度目を通しておいて損はない。
子どもの投資教育・実体験プロジェクト: https://imakimi.jp
世田谷区のPTA関連の団体「世小P」から世彰さんのことを思い出し、読んでみた。

西田亮介『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか不安か』

異常な状況にも慣れてしまうのが人間の強さだと思う。新型コロナウィルス騒動は全く解決していないが、少し前の不満を今日の日常として受け入れている。嘘も本当も、分からないことも受け入れてしまう。そのまま過ごすと、そのまま過ごした世界ができあがる。
たった半年前のことなのに!2020年初からの半年のコロナウィルスに関するタイムラインが冷静にまとめられている。あぁそうだったと何度もうなづいた。適当な言説を放置して未来を作るのか、インフォデミックという新しい問題にきちんと対処するのか。本書からよく考えてみませんか。

『東京人』 2020年10月号

以前紹介した『暗渠マニアックス』の著者2人が、東京の暗渠を紹介。この雑誌の半分をつかった特集。東京の下に隠れているものを発見しよう。超お買い得。

わたなべ ぽん『やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方』

「生活に絶対必要なもの」と思い込んでいたものを、やめてみた体験の漫画エッセイ。生活を見直すことは難しいけれど、人の体験なら気軽に読める。心に残ったものを実行してみてもいいだろう。

望月衣塑子・森ゆうこ 『追求力 権力の暴走を食い止める』

「一瞬おかしいと思っても、長い間、おかしいと言い続けられる人って、実は少ないんだと思う」。出る杭として発言を続ける参議院議員の森ゆうこさんと東京新聞の望月衣塑子さんの対談。時間が経つとまだそんなこと言ってるの?という空気が流れる日本社会の中で、パッションを保ち続ける人たちの発言から学ぶものは多い。

山内一也『ウイルスの意味論』

コロナ騒動を機にウイルスに関する本をいくつか読んでいるが、興味深すぎる。普段は意識しないだけで身の回りにも身の中にもウヨウヨしているときに恐ろしく、でも常に一緒に暮らさなくてはならないヤツ。そして、生命・非生命の境目をわからなくするもので、目に見えないからこそ一般人もその存在についてよく学ぶべきという点で、AIやロボットにどう対峙するかのヒントも、ウイルスとの共存の中にあるかもしれない。
ウイルスと(国際)政治の話は少し忘れて、ウイルスについて分かっていることを、少しでも学びたい。平易で理解しやすい一冊。

ポール・クルーグマン『ゾンビとの論争』

ノーベル経済学賞(2008)受賞者ポール・クルーグマンによる共和党への牽制。アメリカのニュースは結果しか伝わってこないが、その裏側にあるものがよく分かる。こういう論者は日本では知らない。
日本に遅れてやってくることは結構多いので、政策の裏側を読むのにとても参考になりそう。富裕層減税の結果とか。

宮田珠己『おかしなジパング図版帖』

来日してないオランダ人アルノルドゥス・モンタヌス(1625-83)が雑多な情報や空想を基に描いた日本。絵を眺めているだけで笑える。そして、その間違った絵が与えた影響やら、その時期に書かれたさまざまな文献が並べられ興味深い。
笑える、のだが、僕たちは同じように外国や他者を見ていることは自覚すべきだろう。

パクチー(P)コワーキング(C)ランニング(R)を愛する、PCR+ な旅人です。 鋸南(千葉県安房郡)と東京(主に世田谷と有楽町)を行き来しています。