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恭庵書房のオススメ書籍 2021/7

今井彰『光の人』

何重にも素晴らしい本だった。自分の全く知らない世界を垣間見れたこと、孤児といういまでも続く課題を再確認したこと、日本に差別が蔓延っていることなどなど。戦争孤児として満州から帰国した門馬幸太郎(モデルは実在の人物で長谷場夏雄さんという方らしい)が自らの体験を通じて孤児に愛を捧げる決意をし、五十年にわたって自立を促してきたことは尊い。資金の悩み、差別との戦い、そしてカナダへの移住というアクロバティックな解決策を編み出しながら、子供たちから絶対の信頼を得た。
一度ならず時々開いて読み返す価値が十分にある一冊です。


ナオミ・クライン『地球が燃えている : 気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言』

危機感を持つことをすぐに忘れてしまう。自分たちだけの利益にするために暴走している人たちを横目に見つつ、日々が「忙しくて」大事なことを放置してしまっている。そんなほとんどすべての人間に対する著者からの警告の書。『ショックドクトリン』に続き一度は目を通すべき本。(目を通すだけじゃダメなんだけど・・・)


リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』

Netflix社の徹底したスターを集める戦略に脱帽。ここまで徹底できるのは、並々ならぬ努力の積み重ねだろう。一般化するのは難しいが、採用や組織づくりをしたことのある身としては、本のそこかしこに驚きがあった。
邦題の「世界一自由な会社」というのはどうだろう。原題にはそんなことは書いていないし、「自由」の使い方として適切だとは思えない。
現在進行形で業績を伸ばしている会社の考え方として、今の時点でこの本を読んでおくのは悪くない。

クリエイティブな仕事には、脳がある程度の自由を感じる必要がある。成果次第で高額報酬がもらえるかどうかに脳の一部が集中していると、すばらしくイノベーティブなアイデアが湧いてくる「自由な認知ゾーン」に没入できていないことになる。(p.155)


ウィリアム・ヴォーン『影の不思議: 光がつくる美の世』

影をテーマに古来からの人の考え方、哲学・芸術と影の関係について書いた本。当たり前のものとして捉えるのではなく、子供時代のように、影を意識して世の中を見つめ直したいと思わされた。
影といえば、ドラえもんのかげ切りばさみが印象的だ。のび太の二面性が浮き彫りになっていた。


内山 葉子『健康情報のウソに惑わされないで! 』

さまざまな不調事例についての原因について、その可能性や治療法が書かれている。何が効くかは個人差があるので、その情報が当てはまるかどうかはまた別の話だが、いろいろなヒントにはなるだろう。
世にはびこる健康情報は、極端な反応を呼ぶための極めて商業的なものだし、医者の多くは患者の全体を見ようとしない。身体を全体で見るという発想には大賛成だし、医療にまつわる常識が技術の進歩によってどんどん変わっているのも確かだと思う。
不調の原因を患部に求めるのではなく、生活全般を捉えなおすべきだと思うし、より健康になりたければ自分だけでなく地球全体を考えた方がいいと思う。


木村 聡子『あなたの1日は27時間になる。――「自分だけの3時間」を作る人生・仕事の超整理法』

サラリーマン時代、残業が嫌なので(というか、毎晩19時過ぎから誰かと飲む約束してたw)朝6時とかに出社してた時期がある。二十数年前、残業時間で評価が決められていた時代。自分の人生を自分でコントロールするためには、他人に流されず、変人とポジティブに認定してもらう必要がある。
パクチーハウス大井町にご来パクしていただいた方の著者。パクチーハウスって、無店舗展開にしてから特に、変人ばっかりが参加するようになった。いい傾向だ。


石川 禎浩『中国共産党、その百年』

今月で中国共産党が100年ということで、テレビで特集しているのを横目で見て興味ないと思ったが、本を見かけて思わず手に取ってしまった。なんとなく知ってる単語と人物名が、どのように今の体制を作ってきたかをわかりやすく知ることができた。
共産党設立の過程にあった日本との関係、文革期間中の停滞、今に至る情報統制をするに至る理由などが、結党期やその後の歴史とともに明らかにされる。今の僕らからは信じられないような体制ができる過程を垣間見れた。

「開催される場所の名前を忘れてしまい、同志たちの誰をも探し出せず、出席できませんでした」
1922年の中国共産党第二回のため湖南から上海に出かけた毛沢東の失敗談。


伊勢 雅臣『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』

共同体の和、自然との和を取り戻すべしという主張に共感。縄文文明の持続可能性について書かれた2章はとても興味深かった。縄文社会が農耕を「イデオロギー的に抵抗」したという話も面白い。田舎暮らしのもっと先に、豊かな暮らしがあるかも。
日本礼賛すぎるのと今からそこにどう戻る?というのはあるけれど、歴史の中に未来を生きるヒントがあるのだと思う。


クーリエ・ジャポン(編)『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』

1人当たりの所得が増えていくという意味での経済成長には200〜250年ほどの歴史しかありません。(p.116)
ウイルスは敵ではありません。ウイルスからすれば私たちは〝友達〟であり、〝レストラン〟であり、〝売春宿〟です。ウイルスは私たちの体に侵入し、増殖する。攻撃もなければ、これといった意図もありません。
戦時下にあるようなことを根拠に例外的措置を正当化するのは政治的なまやかしです。(p.185)
アメリカン・ドリームといえば、条件の平等が広く行きわたっていることでした。市民が公共の空間に集まり、お互いに敬意を表することでした。その頃のアメリカン・ドリームは寛大だったのです。ところが、この40年で、それが個人の立身出世だけを語るものに収縮していってしまったのです。(pp.201-2)


『エフェクチュアル・アントレプレナーシップ』

起業とは「自分の持つ資源で誰もしたことがないものを生み出すこと」だと考えていた僕にとって、エフェクチュエーション(機会創造アプローチ)以外ありえないと思っていた。市場を見据え、エンジェルの登場を待ち、誰かに監視されながら目標を達成するコーゼーション(機会発見アプローチ)は会社に勤めている人がやればいいじゃないかと思う。
コワーキング関連で前者の人が多く、軽々と起業する友人をたくさん持っている。一方で僕の実績頼みで相談してくる人が「ビジネスチャンス」の話をし、そのくせ一向に行動に移さないことを不思議に思っていた。
起業家のアプローチを2つに分けたこの本を読んで、世の中の多くの人が動かない理由がわかった。二言目には「会社やめれば」とアドバイスをしていた正しさも。


パクチー(P)コワーキング(C)ランニング(R)を愛する、PCR+ な旅人です。 鋸南(千葉県安房郡)と東京(主に世田谷と有楽町)を行き来しています。