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「魅惑の心理」マガジンvol.138(恩送りの心理)幸せな気持ちを作る

「魅惑の心理」マガジンは、定期購読で毎月心理に関係する話を何本か更新しております。138号まで続けてこられたのも、読んでくださるみなさんのおかげです。2021年の最後の原稿として、無料で公開しております。よかったら読んでみてください。

今回は「恩送り」について話をしたいと思います。「恩返し」なら聞いたことがあっても「恩送り」という言葉を聞いたことがない方もいるかもしれません。助けてくれた相手に、何かを返す「恩返し」と異なり、「恩送り」は直接関係のない第三者に、いただいた「恩」を優しさ、助けとして繋げていく行為ことをいいます。ペイフォワードとして映画にもなった考え方です。

私がポーポー・ポロダクションとして企画事務所を立ち上げてしばらくして、こんなことがありました。まだ心理学を中心とした様々な学問を活用して、企業のコンサルティングをしたり、色彩心理や心理系の書籍を書く前の話です。あるフリーペーパーの立ち上げから企画・編集を受け持っていました。コストの関係でライターさんを使わず自分で全部、取材やコピーもやっていたのですが、これがなかなか大変な作業でした。ひとりで情報誌をまとめるのはなかなか大変でした。特に大変だったのが、地域の特集があり、そのエリアの飲食店を紹介するページです。掲載店舗が集まらなくてとても苦労しました。全くの無名の情報誌の名前を出してもにみなさん警戒し、そもそ最初は見本誌もないからです。初めての人と話すことが苦痛、電話をかけて交渉するのも辛く、コミュ症の私には辛いけど、それでも実際のエリアを歩いては飛び込みで掲載のお願いをすることがまだ救われると考えました。電話よりも掲載してもらえる確率は上がるからです。

何軒も何軒も周り、冷たくあしらわられ断られたり、怒られたりもしましたが、そこで困って回っていることを察知した飲食店のオーナーが「うちでよかったら」と掲載をしてくれただけでなく、撮影用にと料理を出してくれて、「それを食べていきな」と言ってくださった人も何人もいました。締め切りの日、日が暮れて途方に暮れる私にはとてもありがたい言葉でした。

心理学的に掲載してもらいやすい言い方やテクニックはあるのですが、そんなことを使うことに自分に罪悪感を持ったり、使うのをやめたり、使ってみると素直な人はそれに応じてくれてまた自己嫌悪になったりもしました。みんな本当に優しいのです。優しい人の優しい想いに触れては、泣きそうになりながらいただいたものです。今でもあのときの言葉、そして味は忘れられません。

私はそのときの恩を今でも強く感じていて、同じように私のところにくる取材は、できるだけ対応するようにしています。テレビの取材も、テレビには出ませんが、顔や声を出さない代わりに質問や問い合わせには真摯な対応しているつもりです。いつしか逆の立場になり。国内外合わせて多くの取材を受けました。そうしていただいた恩が小さく広がって言ったらいいなと考えています。みなさんが買ってくださった本もそうです。私は読者の方に恩を感じています。みなさんがいないと、そもそも私は存在してられません。どう困った人にも使っていけるかを考え、使わせていただいているつもりではあります。なのでほぼ貯金をしないのです。社会人になってから貯金が100万円を超えたことがありません(一時的にあることはあっても)。それは将来の不安よりも、今を生きていない不安が強くあるからだと思います。

また「恩返し」は返すものはどの程度のものが良いのか? 心理学では等倍返しがもっとも相手の心に良いと言われています。過分に返すと相手も困ってしまうことがあり、こちらの想いは満足しても、相手は複雑な気持ちになりがちです。だから、2倍は返したい気持ちをいただいたものと同じぐらいの等倍返しで考えて、それで気持ちがおさまらない部分は、別の人に返すことで自分も納得するのです。また、返したい気持ちがあっても、相手に返せないこともあります。相手がいなくなってしまったり、会えない事情もあるでしょう。道で誰かにしてもらった小さな親切などは、誰がしてくれたかわからないものです。

私は掲載してもらったお店やお世話になった店舗にまた別の機会に行くようにしましたが、チェーン店の店長などは移動してしまったこともあります。だから、恩を別の人に送っていけば、回り回ってまたお世話になった人に届くかもしれないと考えます。この「恩を送る」という考えはとても大事かと考えました。色々な人を小さく幸福にしながら、目的の人に届くのです。届く頃にはきっと多くの人を笑顔にしています。

この「恩送り」を少し科学的にも見てみましょう。脳の働きとして、他人に恩を送るとどのようなことが起きるか見てみましょう。北海道大学では、恩送りによる神経基盤の解明をしています(2014/Two distinct neural mechanisms underlying indirect reciprocity)。人は見返りが期待できない他者に協力をすることがあります。この協力行動には、2つの型があります。1つ目は,個人の評判に基づくもので、「良い人」という評判を獲得したい動機です。これは精神的なものだけでなく、物理的な恩恵の期待も込められています。もう一つは見ず知らずの他人、しかも将来的に自分に見返りをもたらすことがなさそうな相手に対して協力することがあります。これが,恩送りと呼ばれる2つ目の型です。実はこのふたつの行動では特異的に活動する脳の部位が異なっていのです。こその結果、恩送りでは他者への感情的な共感が何らかの報酬と捉えられ,自分に金銭や評判の形では利益をもたらさない恩送り行動を引き起こしていることが推察されたのです。特に共感能力が高い人がより強く発生していることもわかりました。

また何が人を幸福にするのかという別の実験でも「幸福感」はお金を自分のために使うことよりも、他者に使うことで得られやすいことがわかっています。他者への「共感」がこの恩送りの動機として鍵になっているのです。社会科学研究者のノートンは、カナダ人学生を対象に5ドルか20ドルかを渡し、「自分のため」もしくは「他人のため」に使うように指示する封筒を渡す実験をしました。その日の夜に、自分の幸福感に変化があったかを聞いたところ、自分のために使った学生は変化がなく、他人のために使った学生は幸福感が上がっていたのです。それも5ドルと20ドルの金額の差は全く関係ありませんでした。肝心なのは自分のためにではなく、誰かのために使ったかです。同じ実験をウガンダでも実施したところ、お金の使い道は全く異なりましたが、共通して幸福感が得られた事実は、何に使うかではなく「誰かのために使う」ということでした。

私たちの周りでは、いじめや誹謗中傷など悲しい行為であふれています。だからこそ、「ありがとう」の恩を多くの人に広げていきたいと考えます。今だからこそ必要なものと思います。送る相手も救われて、送ったほうも幸福感で満たされる。誹謗中傷は一時的に強い快楽を作りますが、すぐにまた新しい対象を求めて、人を攻撃し続けます。私は「恩送り」で溢れる世界を取りたいと思います。これを読んでくださった方と一緒に、小さく世の中を変えていけたら幸いに思います。

この「魅惑の心理」マガジンは定期購読の形を取らさせていただき、毎月500円を購読料としていただいています。大学や研究機関に属していないポーポーは、研究費の予算がありませんが、本の印税や購読料は色々な研究や調査に活かし、面白く新しい知見として、みなさんに還元していきたいと思います。また、そうした知見やメカニズム、対策などを本当に苦しんでいる方に届けて、これからも豊かな社会実現を目指していきます。2022年も楽しくてためになるマガジンをたくさん上げていきたいと思います。

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